強襲
感動的な再開を果たした俺と寧子は、学園に向かっていた。
寧子もあのトンネルからこの世界に来たらしく、その時は寧子一人で学園に向かったみたいだった。
森の中は、木々が生い茂っていてまるでジャングルのような森だった。
「えっと、次はここだ」
何かを探しながら寧子は一歩一歩進んでいく。
この時、何にもできないでいる自分が非力に感じた。
「なあ、何を探してんだ?」
寧子の行動が気になってしまい、つい聞いてしまう。
「実は前にここに来た時、木に傷をつけながら森の中を歩いたんだよ」
尻尾を振りながら答える寧子。
なんか子供の世話をしているような感覚になる。
「あれ、おかしいな」
急に立ち止まる寧子。
何度も来た道を見まわす。
近くにある木に登って周りを何度も見ていた。
考えたくなかったが道に迷ったぽかった。
「なあ、道に迷ってないか」
「え、そ、そんなことないよ!うん、大丈夫大丈夫!」
わざと大きな声を出して迷ってない発言をする寧子。
しかし、尻尾は垂れていて目も泳いでいた。
「迷ったなら迷ったとはっきり言えばいいだろ」
少し呆れている俺。
「迷ってないもん!私が迷うわけないもん!」
飛びかからんとばかりに威嚇のような態勢になる寧子。
木の上にいるのもあって風が吹くたびにピンク色の布地のものがチラチラと見えていた。
「と、とりあえず、その、木から降りないか」
目線を逸らしながら言う。
寧子はよくわかっていない。
「どうして視線を逸らすの?」
首をかしげる寧子。
すると突然、強風が吹いてきた。
これにはさすがの寧子も顔を真っ赤にしたようだった。
「ね、ねえ」
「なんだ」
「今、なんか見なかった?」
スカートを押さえながら俺を見てくる寧子。
「い、いや、別になんも見えなかったぞ?」
俺はごまかすことにした。
尻尾は左右に揺れているけれど。
「やっぱり見たんだ。スカートの中」
言葉が震えている寧子。
やっぱりごまかすことは無理のようだ。
「その、お前が木に登ってからチラチラと、だけど」
「そうなんだ。チラチラと見えてたんだ」
スカートを押さえたまま木から降りる寧子。
猫だから降りれないかと思ったがそれは関係ないみたいだ。
寧子は顔を伏せたまま俺のもとへ歩いてくる。
できればここから逃げたいくらいなオーラを寧子は放っているように見える。
「覚悟できてるよね」
にっこりとほほ笑む寧子。
しかし、その目は笑っていない。
「待て。俺だって見たくて見たわけじゃなくてだな」
「言い訳とはいいご身分じゃない」
爪を立てた寧子。
いつでも襲い掛かれる態勢をとる。
「待ってくれ。俺の話しをだな」
「問答無用!」
手を振り下ろす寧子。
俺は目を瞑ってやられるのを待つだけだった。
しかし、目を瞑っても何も起こらない。
目を開けると寧子が森の奥をじっと見つめていた。
「どうしたんだ」
「何かいる」
寧子の言葉が何を意味しているのか分からなかった。
でも、それもすぐに解決することになった。
草むらが左右に揺れた。
その草むらから赤い光が俺たちに襲い掛かる。
「何なんだよこいつら」
逃げようとするが足が動かない。
犬のようなそいつは俺に襲い掛かる。
「ウミ君!そこから動かないで!」
寧子が大声で叫ぶ。
俺は寧子の言うとおりに動かない。
すると、目の前にいた犬みたいなそいつは見えない何かで吹き飛ばされた。
「大丈夫!?」
俺の前に寧子が立つ。
「ああ、なんとかな。寧子、あいつはいったい何なんだ」
「この子はこの世界に住んでいる獣だよ。仲間を探しながらこの世界を彷徨ってるの」
「この世界の先住民みたいなやつなのか?」
俺の質問に寧子はうなずく。
「そうなのか。でも、倒す必要なんてあんのか?」
「この世界にいる獣は人間界にいた人間の成れの果ての姿なの」
「成れの果てってことはここはもとは人間界だったってことか」
またうなずく寧子。
俺はまだ信じられなかった。
ここがほんとに人間界だったとしても建物すらないこの世界でほんとに人が暮らしていたとは考えられなかったからだ。
ここに来た時も建物なんて見ていなかったことに気付く。
そう考えた時、新たな疑問が浮かび上がった。
寧子はいったいどこで暮らしているんだという疑問に。
そんなことを考えていると周りの空気ががらりと変わったことに気付いた。
「ウミ君、どうやら囲まれたみたいだよ」
寧子の言う通り、周りには赤い光がたくさんあった。
「マジかよ。いきなりピンチとか」
「ウミ君、戦い方とかわかる?」
「いや、全く。むしろ、自分がどんな力があるのかすらわからない」
ここで自分の無力さを感じた。
「じゃあ、そんなウミ君に少しだけ教えてあげる。自分が狼だって思い込むことだよ」
「それってほんとにあってんの?」
流石に違っているんじゃないかと考える。
「騙されたと思ってやってみなさいって」
言われるがままにやってみる。
まずは、目を瞑って何も考えないようにした。
周りに獣がいるのはわかっていたが、あえて何も考えないことにした。
自分が狼だと言い聞かせながら、集中力を高める。
すると、自分の中から電気のようなものが流れ込んでいるように感じた。
(これが、俺の持ってる力なのか?)
確信はなかったものの自分の力がこれかもしれないというのは感じた。
「ウミ君!危ない!」
獣が俺に襲いかかっているのが、寧子の言葉からわかった。
「できるかわからんが、やってみるぜ!」
さらに集中力を高める。
力が自分の中から出ていくのがわかる。
(よし、これならいける!)
身体に貯めた力を自分の右腕に流れ込ませる。
そして、瞑っていた目を開ける。
目の前には、犬っぽい獣が口を大きく開きながら襲いかかっていた。
右腕を振りかぶる。
「くらいやがれ!」
そう叫んで獣の顔を思いっきり殴った。
俺はそのまま吹き飛ぶと思った。
しかし、そいつは吹き飛ばず、顔面だけが粉々に吹き飛んだ。
首から上のない胴体は血をまき散らしながら俺の足元に落ちた。
周りいた獣たちも俺の力に怯えたのか森の奥に消えていった。
取り残されたのは、俺と寧子と寧子に吹き飛ばされた獣と頭のない獣だけが残された。
「ウミ君!大丈夫!?」
俺を心配した寧子が走ってこちらに向かってくる。
「ああ、なんとかな」
そう言って寧子のところに行こうと歩いたが足元がもつれてバランスを崩す。
倒れかけたが寧子に支えてもらい転ばずに済んだ。
「悪いな。身体が言うこと聞かねえよ」
「無理もないよ。相当、無理して力を出したもんね」
寧子は笑って俺を励ます。
ここでも俺は自分の無力さを感じた。
「あれ、獣の気配がなくなった?」
木の上から聞いたことのない声が聞こえてきた。
「代わりに見つかったのは、寧子と見知らぬ男が一人か」
こちらに顔を向けてくる。
木の上でしゃがんでいるのでスカートの中が丸見えだった。
「レイちゃん!いつから居たの?」
寧子が驚いた表情をする。
「そこの男が獣を吹き飛ばしたあたりからだけど。まあ、それにしても寧子が男と一緒にいるとはこりゃレアものだな」
「もうからかわないでよ!」
顔を真っ赤にして頬を膨らます寧子。
その行動はとても可愛かった。
一方、レイちゃんと呼ばれた女子は手でカメラの形を作っていた。
「そういえば、そこの男、どっかで見たことあるような」
「レイちゃん覚えてない?ウミ君だよ。出雲海斗君」
寧子に言われて女子は感嘆を漏らす。
「海斗か。うちのこと覚えてるか」
そう言って自らの耳と尻尾を動かす。
耳と尻尾の色が黄色かった。
俺は、それが狐の耳と尻尾だとわかった時、一人の名前が浮かんできた。
「もしかして、御神玲奈か?」
「お、流石だな。お前なら覚えていてくれてると思ってたよ」
木の上で笑顔を見せる玲奈。
それよりもさっきからスカートの中に見える布地のものに目がいってしまい、まともに顔が見れない。
「なあ、とりあえず木の上から降りないか」
「なんでだよ?……なるほどな」
玲奈は、何を言っているのかが分かったらしく俺ににやけ顔を向けてきた。
寧子は何のことだかわからなかったみたいで頭の上にはてなを浮かべているような顔をしていた。
玲奈は俺に向かって飛び降りると俺の前で着地した。
そのまま俺の耳元で言ってきた。
「うちの今日のパンツの色、何かわかったか?」
「ば、何聞いてんだよ!」
流石の俺もこの一言に慌てる。
「でも、嫌いじゃないだろ」
「そりゃ、好きか嫌いか言われたら好きに決まってるだろ」
「もう、二人とも何の話しをしてんのよ!」
顔を真っ赤にしながら寧子が訴えてくる。
玲奈が俺の顔を見てくる。
何のことが言いたいかすぐにわかった。
「なあ、海斗。ちなみに聞くけど寧子の今日のパンツは何色だった?」
「確か、ピンクだったな」
「な、やっぱり見てたのね!変態!」
爪を立てて俺をひっかいてきた。
「いった!ひっかくんじゃねーーー!!」
「なはは、相変わらず仲いいな二人とも」
愉快に笑いながら俺と寧子を見ていた。
「笑ってないで助けてくれーーーーーーーーーー!!」
森の中に俺の叫び声が響き渡った。
「登場人物」
・御神玲奈…十六歳。女。狐の耳と尻尾を持つ。生まれつきの褐色肌が特徴。男っぽいしゃべり方をする。下ネタの話しが好きだが普段は話さない。ぬいぐるみが大好き。好物はパフェ、ぬいぐるみ。嫌いなものはネズミ。九月八日生まれ。身長一七〇センチ。体重「流石に女子に体重を聞くのはアウトだろ」サイズは上から九一、六三、九〇。