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夜の学園

 俺と美羽が皆に飲み物を渡して、再び自分が座っていた席に座る。

 俺が席に座ると、すぐに紫園が話しかけてきた。

 俺に身体を擦り付けながら。

「な、何してんだよ!?」

「海斗君ってさ、どういう女の子が好みなの?」

「こ、好み!?てかまず、この身体を俺の腕から離せよ!」

 腕に柔らかいものが当たってる!

 大きな声で言いたいけど、場所が場所だから言えないんですけど!

「当たってる?…………なるほどね。これ、わざとやってるの」

「わざとやってるって……」

 何を言っても聞いてくれなさそうだ。

 俺は諦めて、このままにしておく。

 俺の理性、大丈夫かな?

「鼻の下が伸びてるのです」

「伸びてるね」

「伸び……てる」

 美沙紀と寧子と美羽がジト目で俺のことを見てくる。

 寧子なんて、目の中に光がない。

 正直、ものすごく怖い。

 玲奈はそんな俺の状況を見て楽しんでいる。

「べ、別に鼻の下を伸ばしてないんだけど……」

「嘘つき。鼻の下伸ばしながら、顔がにやけてるよ」

「へぇ!?」

 寧子に指摘され、俺は自分の顔を触る。

 確かに口元が笑ってる気がする。

「やっぱり、ウミ君はそういうのが好きなんだ。まあ、男の子だもんね」

「止めてくれ!可哀想な息子を見る親みたいなことを言うな!」

 物凄い罪悪感を感じる。

 俺だって好きでやっているわけじゃないのに。

「それで、好みの女の子はどういうの?」

 さらに詰め寄ってくる紫園。

 それを見ていた寧子たちはさらにジト目で俺を見てくる。

 玲奈はその状況を笑ってみているだけだった。

 結局、学食で夕飯を食べるまでこの状態は続いたのだった。


 夕食を食べきって、自分の部屋に戻ってきた。

 学食の一件で無駄な体力を使った気がした。

 帰ってくるなり、俺はベッドに倒れこむ。

「つ、疲れた……。なんか、無駄に疲れた」

 幸い、明日は休日なので部屋でゆっくりすることができる。

 そこでゆっくり今日の疲れを取れば大丈夫だ。

「さて、風呂に入る前にいつものやつをやってくるか」

 俺は制服からジャージに着替えて、窓の扉を開く。

 そこから飛び降りて、外へ出る。

 俺の部屋は二階にあるので結構な高さがあったが、普通の人間の倍以上の運動神経があるのでこれくらいの高さなら着地することができる。

 部屋の窓は開きっぱなしだったが、何かしらない限りは侵入するやつはいない。

 俺は深呼吸を一回してから走り始める。

「はっはっ……ふぅ……はっはっ……ふぅ……」

 俺はこの一か月、体力と精神力を高めるためにランニングしていた。

 休日は、早朝からのランニング。

 それ以外は、今日みたいな寝る前にランニングをしている。

「はっはっ……ふぅ……はっはっ……ふぅ……あれ?」

 暫く走っていると、雨が降り始めてきた。

 まだ弱い雨だったので、このままランニングを続行する。

「はっはっ……ふぅ……はっはっ……ふぅ……ヤバい、強くなってきた」

 雨が追い打ちをかけるように強く降ってきた。

 俺は雨宿りできるところを探す。

 しかし、近くには学園以外、建物の姿がなかった。

「仕方ない、学園で雨宿りするか」

 俺は屋根のある学園の昇降口の入り口前に雨宿りする。

 学園まで走ってきたので、身体中が汗なのか雨なのかわからなくなっていた。

 ポケットからタオルを取り出して、身体を拭く。

 雨が強くなる気配がないので、すぐに止むだろう。

「……あれ?」

 俺が昇降口の方を向くと、人影が見えた。

 なぜか周りを気にしながら、学園の中に入っていく。

「幽霊とかじゃないよな」

 この学園に来てから幽霊話とか聞いたことがない。

 それに、この学園は校舎自体がまだ新しい。

 そんな学園に幽霊がいるわけがない。

「まだ止む気配はない……か」

 それを確認すると、俺は昇降口の扉を開く。

 鍵はかかっていないらしく、簡単に開くことができた。

 扉の擦る音が校舎内に響く。

 学園の中は、昼間とは違ってすごく不気味に感じる。

「校舎ってこんなに広かったっけ?」

 ただでさえ広く感じていた校舎内がさらに広く感じる。

 人がいないことも感じる要因だったが、暗いことがそう感じる最大の要因な気がした。

「確か、こっちに行ったよな」

 俺は昇降口で上履きに履き替えて、左に曲がっていく。

 しかし、姿がすでになかったので、どこに行ったのかわからなかった。

 とりあえず、教室に向かえば何かわかると思い、階段を上っていく。

 靴の音が響いている。

 階段を一段ずつ上っていくうちに、俺の中で罪悪感が大きくなってくる。

「こんなことをする気はなかったのになぁ……」

 今やっている自分の行動に溜め息を吐いてしまう。

 その時、扉が動く音が上から聞こえた。

 あの時見た人影が教室に入ったのだろうか。

「急がないとな」

 俺はできるだけ足音を立てないようにして、早めに階段を駆け上がっていく。

 三階に着くと、すぐに俺たちが使っている教室に行く。

 教室の前に着くと、中に誰かいるかを確認する。

 すると、奥の方に人影が見えた。

 しかし、月の逆光で顔までははっきり見えない。

 その時、階段の方から足音が聞えてきた。

 階段の方から光がチラリと見えた。

 どうやら管理人がこちらに近づいているようだった。

「ヤバい……!」

 危機を感じた俺は、できるだけ音を立てないように教室の扉を開いた。

 そして、ゆっくり扉を閉めて人影に近づいていく。

「ちょっ……誰だ……むぐぅ!?」

「悪い。ちょっとだけ静かにしててくれ」

 俺はそいつの上に跨り、口を塞いで静かにさせた。

 人影は少しだけ暴れていたが、やがて何かを感じたのか暴れるのを止めた。

 すると突然、教室の扉が開いた。

「誰かいるのか?」

 管理人の声がすぐ近くで聞こえる。

 心臓がうるさいほど鼓動を打っているのがわかる。

 光が教室の周りを照らしていく。

 やがて、光が教室から消える。

「………………居ないか」

 扉がゆっくりと閉まって足音が遠のいていく。

 どうやらやり過ごせたようだ。

「はぁ……どうやら嵐は去ったみたいだな。大丈夫か?」

 俺がそう聞くと、タイミングよく月の光が射してきた。

 その光が人影に当たる。

 光が当たった瞬間、人影の正体がわかった。

「……玲奈?」

「んん……んん~~~~!!……んん~~~!」

「あ、悪い」

 俺は今になって玲奈の口を塞いでいたことに気付いた。

 玲奈の口から俺の手を離す。

「……ぷはぁ!!はぁーはぁー……海斗、お前人を殺す気かよ。マジで呼吸できなかったんだぞ」

「悪い。誰かが来てたからつい、な」

「まあ、いいんだけど。それにしても、管理人がいる時、ばれるか心配だったのな」

「え、それってどういう……」

 俺が玲奈に疑問を聞こうとすると、なぜか手が濡れているのに気付いた。

 俺が玲奈を見ると、玲奈が舌で口周りを舐めた。

「まさかだけど、俺の手を舐めてたのか?」

「結構塩辛かったなぁ。でも、意外とおいしかったぜ」

 それを聞いた時、背筋が凍った。

 手がおいしかった?

 それってどういう意味を持ってるんだろう?

 俺にわかるはずがなかった。

「だから、管理人から隠れてる時に手がくすぐったかったんだ」

「どうよ。美少女から手を舐められた気分は?」

「自分で美少女とか言っちゃうんだ」

「なんだよ。うちが可愛くないって言うのかよ?」

 上目づかいで俺を見てくる。

 美羽とは違う大人な雰囲気を持っていたので、エロさが増していて、つい顔が赤くなってしまう。

「おや?顔が赤くなってるじゃん。お姉さんにメロメロになっちゃった?」

「い、いや、別にメロメロになってないし」

「ホントかよ?」

 玲奈が面白そうに俺をからかってくる。

 こんなことをしていると時間だけが無駄に過ぎる気がしたので、聞きたいことを聞くことにした。

「玲奈、お前こんなところでいったい何をしているんだ?」

「うちか?うちはここで昔のことを思い出してたんだ」

「……お前、俺と年はあまり変わらないだろ。何爺臭いこと言ってんだよ」

「うるさいな!爺臭いとか言わないでくれよ!」

 珍しく玲奈が吠える。

 というか、ここに来てから玲奈が大声で話したのを見たのは、初めてだった。

「でもまあ、昔の話しか。俺って、昔はどんな子供だったんだろうな」

「海斗は優しかったよ。特に、女の子にはな。そう言えば、お前が男子と話しているところを見たことがなかったな。それって、何か理由があるのか?」

「男子と話さなかったか。なんか理由があったような気がしたんだよな」

 中学の時も話す機会はなかったしな。

 しかし、自分でもなぜ男子を避けていたかがわからなかった。

「そうか。まあ、覚えてるわけないよな。変なことを聞いて済まなかったな」

「いや、別にいいさ」

「そうか。それよりも、お前はここ最近、学園内を走ってるみたいだけど何で走ってるんだ?」

「そうだな。何つーか、これからの為にかな」

「これからの為?」

「ああ。遠征の時は、足を引っ張った感があったからな。俺なりの努力をしてんだ」

「そうだったのか。まあ、無理をしないで頑張れよ」

「おう。さて、雨も止んでるみたいだし、走りに行くか。玲奈はどうすんだ?」

「うちはここでもう少し一人でいるよ」

 俺はその言葉を聞いてから、窓を開ける。

「それじゃあ、俺がここを出たら窓を閉めてくれるか?」

「わかった」

「また明日な、玲奈」

「おう、またな」

 俺は三階の窓から飛び降りる。

 綺麗に着地できたものの、少しだけ足が痺れた。

 俺は飛び降りてきた教室の窓を見る。

 窓はしっかりと閉まっていた。

 それを確認してから、俺は寮に向かってランニングを再開したのだった。

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