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学食

 俺が席を確保してから一時間後。

 ようやく玲奈が学食に現れた。

 そこには、美羽の姿もあった。

 それ以外のメンバーもぞろぞろとついてきていた。

「玲奈、俺は美羽と話すとしか言ってないはずだったが?」

 美羽の後ろには、寧子と美沙紀と紫園がいた。

 美沙紀なんか嫌々連れてこられたような顔をしている。

「でも、海斗が大勢の方が楽しいって言ったじゃん」

「……確かに言ったようなないような」

 聞き逃してほしかったってわけではなかったが、そのように取られるとは思わなかった。

 俺の言い方も悪かったが。

「とりあえず、適当に座ろうよ」

「そうですね。このまま立ってるのもつらいですからね」

 玲奈たちが空いている席に座っていく。

 俺は席の中央にいたので、無条件で挟まれる形になる。

 俺の隣には左に美沙紀、右に紫園が座った。

 正面には美羽が座る。

「夕飯前に学食に集まるのって初めてじゃないか」

「言われればそうだね。学食を使う人ってあんまりいないしね」

「まあ、何度も海斗を誘ったけどそのたびに断られた気がしたけどな」

「ああ、あの時は、まあ、色々とあってさ……ははは」

 誤魔化すように笑う。

 ばれないように美沙紀の方をチラリと見てみる。

「………………なんですか?」

「え?いや、何もないです」

 とても不機嫌そうに俺のことを睨んでくる。

 寝起きだったのだろうか、頭のてっぺんに寝癖が立っている。

「全く、私は昨日まともに寝てないから夕飯まで寝てるつもりだったんですけど」

 どうやら的中したみたいだった。

 というか、一体何をしていたら寝不足になるんだろう。

 それを聞きたかったが、本人がこんな調子なので聞けるはずがなかった。

「それよりも玲奈ちゃん、何か言うことがあるんじゃなかったっけ?」

「そうだった」

 紫園に言われて、玲奈が席を立った。

 そして、美羽の頭を軽く叩いてから俺たちに向けて話し始める。

「とりあえず、あの事件から一か月経ったが、ようやく美羽が退院したんだ」

 俺たちは美羽に向けて拍手をする。

 美羽は恥ずかしそうに顔を赤くして俯く。

「……その……ありが……とう」

 小さく、それでもはっきりと聞こえるような大きさで感謝の言葉を言う美羽。

 俺たちはそれを見てほほ笑む。

「それにしても、ほんとに退院してよかったな。このままずっと入院とかだったらどうしようなんて思っちまってさ」

「レイちゃん!思っててもそれは言っちゃダメだよ!」

「てことは、寧子はそういうことを考えていたってことだな?」

「そんなわけないじゃん!」

 玲奈と寧子の会話を聞いて、他の皆は笑っている。

 一か月して、ようやく俺たちに平穏な暮らしが戻ったことを実感できる。

「とりあえず、ただ話すだけじゃ迷惑だろうから飲み物とか買いに行くか」

「誰が買いに行くのですか」

「じゃんけんで決めようか?それなら誰も文句ないだろ?」

 玲奈の意見に反対する者はいなかった。

 玲奈が拳を前に出す。

 皆も次々に拳を出していく。

「行くのは二人な。それじゃあ、いくぞ」

「「「「「「じゃーんけーん……ポン!!!」」」」」」

 じゃんけんで負けたのは、俺と美羽だった。

「まさか一発で決まるとはな」

「運が……悪かった……」

「まさか今回の主役が負けるなんてね」

 紫園が苦笑いをする。

 俺も苦笑いをしてしまう。

 突然、肩を軽く叩かれる。

 横を見ると、いつの間にか玲奈が俺の横に立っていた。

「主役に金を払わすのは酷だよな。てことで海斗、ここは男らしく皆に奢るのはどうだ?」

「奢る!?待ってくれ!なんで奢りなんだよ!?」

「なんだよ?まさか美羽にここの全員分を奢らせようとか考えてないよな?」

「そ、それは……」

「だったら、全員分奢るのも悪くないだろ」

 玲奈の言葉に何も言えなくなる。

 他の皆を見ても俺に奢ってくれと言うのを目で訴えてくる。

 俺はこれ以上抵抗しても仕方ないと諦める。

「はぁ、わかったよ。それで、皆は何を頼むんだ?」

「うちは苺パフェを頼むな」

「私はオレンジジュースお願い」

「私は……その、あの……」

「美沙紀ちゃんはミルクだよね?」

「は、はい……って、何で紫園さんが言うんですか!」

「ごめんね。あ、私は紅茶ね」

「了解。それじゃあ美羽、行こうぜ」

「う……うん」

 俺と美羽は、飲み物を買いに向かった。

 二人きりになるのは一か月ぶりだった。

「えっと、美羽は一か月の間、何やってたんだ?」

「えと……確か……経過……観察……してた」

「経過観察?いったい何の?」

「確か……耳と……尻尾が……出るかの……観察……だった」

 美羽が顔を少し赤くしていた。

 気になっていたので、俺は聞いてみる。

「顔が赤くなってるけど?」

「これは……その……観察の……ことを……思い……出したら……恥ずかしく……なって」

「……何をされたんだ?」

「その……裸で……身体中……観察……された」

 そのことを聞いて思わず想像してしまう。

 裸で経過観察とか!

「何か……変な……ことを……想像……してない?」

「え!?いや、何も想像してないぞ!?」

「本当……かな?」

 美羽が俺の顔を覗いてくる。

 今まで美羽がしていない行動に思わずドキッとしてしまう。

 心臓の鼓動が早くなっているのがわかる。

 鼓動の音がうるさいほどバクバクなっている。

 顔も熱くなってきた。

 顔を見ていた美羽も赤くなった俺の顔を見て、顔がだんだん赤くなっていった。

「その……ごめん……なさい」

「あ、いや、大丈夫だよ」

 俺たちの空気が微妙になってしまう。

 俺は美羽に聞きたいことがあったが、聞けなくなってしまう。

「えと……皆が……頼んだ……ものって……なんだっけ」

「え、ああ、確か、苺パフェとオレンジジュースとミルクと紅茶だったな」

 そう言えば、今まで気づかなかったけど玲奈のやつ、一人だけパフェを頼んでやがるな。

 玲奈の用事ってこのことだったのか。

 なんか嵌められた気分だ。

「券売機に……着いたよ」

「それじゃあ、買うよ」

 俺がポケットから財布取り出そうとする。

 すると、おもむろに腕を掴まれる。

 後ろを振り向くと、美羽が俺の腕を掴んでいた。

「どうしたんだ?」

「やっぱり……海斗……君に……だけ……買わせる……のは……悪い……から……私も……払う」

「気遣いありがとうな。でも、いいんだ。ここ一週間、美羽たちにここのことを色々と教えてもらったしな。これは、そのお礼として受け取ってほしいんだ」

「でも……」

「美羽にも、ここに来た時から色々と世話になったからな。だから、今回ぐらいは奢らせてくれ」

 俺は美羽の頭に手を置いて、軽く頭を叩く。

 美羽は、顔を赤くして俯いてしまう。

「あ、すまん、つい。こういうのは、嫌だったか?」

「う、ううん……嫌いじゃ……ないよ」

「そうか」

「だから……その……このまま……撫でて……ほしい……なんてね……?」

 恥ずかしそうに舌を出す美羽。

 俺はその行動が可愛すぎて、思わず頭に手を置いて撫で始めてしまう。

 我に返った俺は、俺が自分でしている行動に戸惑ってしまう。

 しかし、美羽は嬉しそうに俺に撫でられていた。

 まるで、小動物を撫でているような感じがする。

 悪いことをしている感じは全くしなかった。

「あ、早く買わないとあいつらに怪しまれる」

「そう……だね。それじゃあ……奢って……もらう……ね?」

「あ、ああ」

 美羽が上目づかいで俺を見てくる。

 その行動に心臓が再び鼓動を早める。

 なんか俺、美羽と二人きりになってからおかしいぞ?

 美羽の行動すべてが可愛く見えてしまう。

「どう……したの……?」

「え、い、いや、何もないよ。それよりも早く買わないと」

 ポケットから財布を取り出して、千円札を入れる。

 そして、ソフトドリンクを四枚と苺パフェを一枚買う。

「美羽は何にするんだ?」

「私も……飲み物が……いいな」

「ん、了解」

 俺はソフトドリンクをもう一枚買った。

 食券とお釣りを受け取って、受付のおばちゃんに食券を出す。

「ソフトドリンクは何がいいのかい?」

「えっと、オレンジジュースとミルクと紅茶とコーヒーと……」

 俺は美羽に視線を送る。

「えと……イチゴ……ミルク……で」

「わかったよ。そこで待っててね」

 おばちゃんは、食券を受け取って厨房の奥に消える。

 俺と美羽は受付の前でまた二人になる。

「とりあえず、お盆を持ってくるから待っててくれ」

「うん……」

 俺は学食の奥にあるお盆を取りに行く。

 そこで少しだけ頭を冷やすことにする。

「いったいどうしちまったんだ、俺?」

 さっきから美羽を見て、胸の鼓動が早くなったりしてしまう。

 今もそのことを考えると、心臓の鼓動が早くなる。

 今まで、こんなことは感じたことがなかった。

 どう考えても、この感情はおかしなものだと思う。

「この気持ちってもしかして……」

 これが世間でいう好きってやつなのだろうか。

 そうだと思えば、俺の中で納得ができてしまう。

「まさかな」

 俺はそう思いながら、お盆を二つ持って美羽のところに戻る。

「海斗~君に~初めて~買ってもらった~」

「ったく、ここでなんて恥ずかしい歌を歌ってるんだ」

 軽やかなステップを踏みながら、注文したものが来るのを待っている美羽。

 まだ人がいないので、歌声が結構響いている。

「楽しそうな歌を歌ってるな」

「うぇ!?……海斗……君……いつから……居たの?」

「えっと、『海斗~君に~』ってところからかな?」

「ぅあ……ぁ……あ……」

 顔を一気に真っ赤にさせる美羽。

 恥ずかしいなら歌わなければよかったのに。

 そこに、おばちゃんが飲み物が入ったコップとパフェを持ってきた。

「はい。注文したものだよ。飲み物は、オレンジとミルクと紅茶とコーヒーとイチゴミルクで合ってるね」

「はい、ありがとうございます」

 俺は持っていたお盆を受付の机に置く。

 その上におばちゃんが、コップとパフェを三つずつ載せていく。

「片方持ってくれるか?」

「うん……わかった」

 美羽が飲み物だけが入ったお盆を持つ。

 俺はもう一つのお盆を持って、美羽と二人でみんなが待っている席に運んだ。

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