表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/29

梅雨のある日

 あの少年と初めて出会ってから一か月。

 あれからというものの特に進展がないまま、気付いたら六月の初頭。

 梅雨の時期が近づいてきた。

 地下に造られたこの学園にも、なぜだか雨が降っていた。

 しかし、地上の天気は晴れ。

 雲一つない晴天だった。

「なんか違う意味で憂鬱になりそう」

 なぜ地下に雨を降らすのだろう。

 地上に雨が降っていた時は、地下の天気は晴れだった。

 今はそれが逆転している。

「朝からテンションが低いね」

 隣に座っている寧子が話しかけてくる。

 寧子は、特に気にしている表情をしていなかった。

 こういうのって慣れが必要なのかな。

「まあな。まさか、地下でも雨が降るなんて思ってもなかったよ」

「ここの天気は、私たちがいた人間界とシンクロするように魔法をかけているんだよ」

「てことは、人間界は今雨が降っているってことか」

「そゆこと。ちなみに台風の時とかもこっちは雨になるんだよ」

 地下の雨について説明してくれる。

 しかし、そんなことを知ったところで憂鬱な気持ちが晴れるわけでもない。

 六月の間は、人間界の梅雨の影響で地下にも雨が降りやすくなるわけになる。

 そんなことを考えていると、人間界にいる時の憂鬱な気持ちになる。

「えっと、ところでこっちの生活には慣れたの?」

 俺の様子を見て、寧子が違う話題を振ってきた。

「流石に一か月も居れば嫌でも生活に慣れちゃうもんだからな」

「そんなに私たちと居る生活が嫌?」

「あ、いや、そんなことない。むしろ、向こうで生活していた時よりも楽しいぞ」

「そうなんだ。よかった。こっちの生活が苦になってないか心配してたんだよ」

 安堵の表情を浮かべる寧子。

 ちょっと言い方が悪かったみたいだった。

 俺はちょっとした質問を寧子にしてみる。

「そう言えば、こっちの天気に梅雨とかないのか?」

「うん、こっちの天気に梅雨はないよ。湿気が多いことに変わりがないけどね」

 髪を弄りながら答えてくれる。

 女子にはこの時期は大変そうだった。

「湿気があるのに梅雨がないなんて珍しいな」

「ここは気候や天気が崩壊してるからね。だから、八月なのに雪が降ったり一月なのに猛暑日だったりって気候がおかしくなってるの」

「それもウイルスに感染した獣が原因なのか」

「よくはわからないけどね」

 話しているうちに憂鬱な気持ちはどっかにいったものの今度は暗い雰囲気になってしまった。

 俺は何とかしてこの雰囲気をどうにかしようといろいろ考える。

 ふと外を見た時に、俺はその景色に見とれてしまった。

「虹が架かってる……」

「ホントだ。すごく綺麗……」

 寧子も外の虹に気付いたみたいだった。

 それから次の授業になるまで、俺たちは虹を見ていたのだった。


 その日の放課後、水野に学園長室に行くように言われたので、俺は学園長室の前に立っていた。

 あれから一か月近く、美羽の姿を見ていない。

 未だに退院許可を下ろされていないみたいだった。

 確証はなかったが、美羽のことで話しがあると思っていた。

 扉をノックする。

「…………あれ?」

 ノックをしたものの返事がない。

 俺は再度ノックをする。

 しかし、やっぱり返事がなかった。

 俺は帰ろうと思ったが、何を考えているのかわからない学園長が相手だ。

 あえて返事していないのだろうと思い、俺は扉を開いた。

 しかし、部屋の中には、誰もいなかった。

 代わりに学園長の机の上に手紙が置いてあった。

 その手紙を手に取って、手紙の裏を見る。

 その手紙は間違いなく俺宛だった。

「また回りくどい方法を……」

 そんな文句を言いながら、手紙を内容を読む。

『あれから一か月、待たせて悪かったね。美羽ちゃんのことだけど、彼女は呪いが完全に解けて、耳と尻尾が出てこなくなった。しかし、その後遺症として、彼女の力は以前と同じままになっている。もし、このまま元の人間界に戻した時、力の制御ができなくなって彼女が暴走する可能性があるかもしれない。それを防ぐために、彼女にはこのまま学園に残ってもらうことにしたよ。でも、呪いが解けたことを知っているのは、美羽ちゃん本人と呪いを解いた海斗君だけだ。だから、君には彼女のフォローをしてほしいんだ。本当なら、僕が直接君に伝えなくてはいけないことなんだけど、外せない仕事があってね。だから、手紙で伝えることにしたんだ。美羽ちゃんには、退院許可が下りているから明日から学園に通うことになるよ。押しつけみたいになってしまったけど、よろしく頼むよ』

 どうやら美羽の呪いは、あれで解けていたみたいだった。

 本当にキス一つで解けてしまうとは、正直驚いた。

「俺がフォローに入れって言われてもなぁ……」

 俺が美羽と最後にあったのは、医務室だ。

 美羽から告白っぽいことを言われてから会っていないのだ。

 会ったところで、気まずくなることは明らかだった。

「とりあえず、美羽に会ってどうにかしないとな」

 俺はそう言って学園長室を後にした。


 学園を出ると雨はすでに止んでいた。

 雲と雲との合間に太陽が見える。

「梅雨まではまだ先ってとこか」

 俺は寮に向けて歩き始める。

 一人で帰ることに慣れてはいたもののやはり寂しさは隠せなかった。

 そこに草むらにしゃがんで何かをしている女子を見つける。

 雨が上がっていることを気付いてないのか、傘を差したままだった。

 なので、顔がよく見えない。

 どうしようかと考えたが、このままスルーするのも気持ちが悪かったので声をかけることにした。

「おい、そこで何やってんだ?」

「ぅおう!?」

 急に声をかけられた女子は、飛び上がって驚いた後、尻もちをついた。

 その反動で持っていた傘を落とす。

「いってぇ。急に声かけんなよ。驚くじゃ……ねぇ……か」

「……玲奈だったのか」

 女子の正体は玲奈だった。

 そう言えば、玲奈ともここ一か月話していなかったことを思いだす。

 いきなりの出会いだったので、声をかけたくてもかけられなくなってしまう。

 暫くの間、二人で黙ったままになる。

 しかし、俺はこの空気に気持ちが悪くなり、気になっていることを話す。

「玲奈、ここで何やってたんだ?」

「ああ、これが落ちてたからな」

 玲奈の手には、小さなクマのぬいぐるみが置いてあった。

 泥だらけで濡れていたことから雨が降っている間、ずっと落ちていたのだろう。

「ぬいぐるみが好きなのか?」

「なっ……何言ってんだよ!?誰がぬいぐるみが好きって言ったんだよ!?」

「いや、その、結構大事そうにぬいぐるみを持ってるから……」

「そ、それは、あ、あれだ。このクマが可愛すぎるからで……」

「結局はぬいぐるみが好きなんだな」

 玲奈が顔を真っ赤にして俯いてしまう。

 どうやら認めたようだった。

「どうして海斗相手だとばれちまうんだろうな。昔もそうだったな」

「昔の俺もそうだったのか?」

「そう言えば、海斗には昔の記憶がないんだったな」

 呆れ気味に言ってくる玲奈。

 別に俺だって好きで昔の記憶がなくなってるわけじゃないんだけど。

「てか、いつの間にか雨が止んでたんだな」

「俺もさっきまで学園にいたからいつ止んだかまではわからないけどな」

「そうなんだ」

 玲奈が落とした傘を拾って畳む。

「さて、うちは学食に行こうかなと思ってるけど、海斗はどうするんだ?」

「実は、美羽が退院してるみたいだから会いに行こうかと思ってんだ」

「美羽が退院してるのか。だったら、うちも一緒でいいか?学食で集まってさ」

「そうだな。二人よりも大勢の方が話も盛り上がって楽しいだろうしな」

「それじゃあ、うちが呼んでおくから海斗は席を取っておいてくれな」

「わかったよ」

 俺と玲奈は学食の前で別れ、俺は比較的広めの席を取っておいた。

 玲奈のことだから、嫌な予感しかしなかった。

 しかし、この後俺の予感が的中することが起きたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ