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学園長の隠し事と新たな敵(?)

 翌日の放課後。

 俺は、エレベータに乗っていた。

 目的は、学園長と話したいことがあったからだ。

「それにしても、もう少しここの暗さはどうにかならないのかな」

 初めて来たときとまったく変わらない学園長室への道。

 エレベータを降りても、暗さはあまり変わらない。

 下手をすれば、学園長室に来ている生徒って俺だけかもしれない。

 そんなことを考えているうちに、学園長室の前にやってくる。

 俺がノックをしようとした時、中から話し声が聞こえる。

 声の主は、もちろん学園長だった。

 盗み聞きをする趣味はなかったが、どんなことを話しているのか気になってしまい、つい聞き耳を立ててしまう。

「……ああ、進んでいるよ。もちろん、うちの生徒たちも順当に成長してくれてるよ。この前は、事件まで解決しちゃうしね」

 誰かと話しているみたいだった。

 しかし、相手の話し声までは聞こえてこない。

 電話か何かを使って話しているのだろうか。

 さらに、聞き耳を立てる。

「ん?新しい生徒?ああ、海斗君のことかな?あの子はいいね。この前の事件を解決したからね」

 学園長が俺のことを褒める。

 直接言われているわけではなかったが、嬉しいことに変わりはなかった。

「他にかい?そうだね。ひとつ気になることがあったとすれば、大きな爆弾を抱えていることかな。彼、狼の耳と尻尾を持っているからね。それに、狼男になることもできるみたいだしね」

 俺は、爆弾という言葉と狼男という言葉に引っかかった。

 確か、寧子から聞いた話の中で俺が狼になったということを聞いた。

 狼男というのは、それかもしれない。

 しかし、爆弾というのが気になった。

 もしかすると、狼男と何かしら関係しているのかもしれない。

「……ああ、その時は、僕がしておくよ。……わかった。また何かあったら連絡するよ」

 会話が終わる。

 俺は一度入るかどうか迷ったが、ここで入らなくてもばれてしまうだろうと思い、入ることにした。

 扉をノックする。

「はいはい、どうぞ」

 学園長の返事を聞いてから、扉を開く。

「失礼するぞ」

 中に入ると、学園長が珍しく机に向かって仕事をしていた。

「おや、海斗君か。どうしたんだい」

「実は、あんたに報告したいことがあってな」

「報告?いったいどういう報告かな」

「俺が初めてここに来た時にあんたは言ったろ。呪いを解く方法は、好意を持った女子とキスをするって」

 学園長は、ポンと手を叩いた。

「確かにそんな話をしたね。もしかして、何か成果があったのかい?」

「そうかもしれないってことはな。実は昨日、その……美羽とキスをしたんだ」

「おおー!!そうかいそうかい。それはよかったよ」

「だけど、ほんとに呪いがなくなったかはわからないぞ。美羽が俺に好意があったかどうかはわからないしな。だけどキスをした時、美羽の背中から白い光のようなものが出てきたんだ」

「白い光……ねぇ。美羽ちゃんの様子に変化はなかったかい?」

「変化……か。確か、一時的に力が入らないって言ってたな」

「そうかい。わかったよ。美羽ちゃんの様子は、僕ら学園側に任せてくれないかい。こうなると、退院許可が長引いてしまうけど、耳と尻尾が生えないか調べないとね」

「わかった。それじゃあ、美羽のことはあんたに任せたよ」

 俺は、拳を学園長の前に出す。

 それを見た学園長も、俺の拳に拳でタッチした。

「それじゃあ、俺は戻るな」

「ああ、お疲れ。まだたくさんいるけど、この調子で頑張ってね」

 俺は学園長室を出ようとする。

 だが、気になることがあったので、俺は扉を出る前に聞くことにした。

「なあ、帰る前にひとつ聞きたいことがあるんだが」

「何だい」

「俺が抱えてる『爆弾』ってなんだ?」

 俺が質問をした途端、学園長は黙り込んでしまう。

 俺は聞いてはいけないことを聞いてしまったなと改めて思った。

 学園長の眼鏡が不自然に光った。

「君は僕がしていた会話を聞いていたのかな」

「盗み聞きをするつもりはなかったんだけどな」

 学園長は呆れ気味に肩をすくめる。

「いいさ。どうせ君にも言っておくことだったしね」

「俺に言っておくこと?」

「でも、今は言わないことにしておくよ」

「そこまで言っておいてそれはないだろ」

 言いかけられたら気になるじゃないか。

 しかし、学園長の様子から決していいことではないことが窺える。

「わかった。今は何も聞かなかったことにしておく」

「そうしてもらえると助かるよ」

「今の俺が知っても仕方がないことだしな。それじゃあ、俺は戻るわ」

 俺は学園長室を出る。

 これで美羽の呪いがなくなったことになった。

 思っていたよりもすんなりと呪いを解くことができた。

 しかし、そこまで考えているとあることを思い出す。

「そう言えば、美羽が俺に言いかけてたことって……」

 そう考えていると、だんだん顔が熱くなってきた。

 キスをして呪いが解けたってことは、もしかしなくても美羽は俺のことが……。

 俺のことが……。

「好き……とか?」

 口にした瞬間、一気に顔が熱くなった。

 夏でもないのに額に汗が出てくる。

「ダメだ。あんまり意識しちゃダメだ」

 顔がにやけてしまう。

 今までこんなことはなかったので、変に意識をしてしまう。

 俺は自分の頬を軽く叩く。

「頭の中を切り替えないと」

 俺は気持ちを切り替えて、エレベータに乗った。


 学園を出てから特にやることがなかったので、寮に戻ろうとしていた時のことだった。

 俺はいつも通りに寮に行く道を歩いていた。

 放課後だとは思えないくらい人気がない。

 下手すれば、休日じゃないかと勘違いするほどだった。

 正直、すごく不気味だった。

「人気がないというより、ここに俺しかいないような感じがすんな」

 そんなことを呟きながら進んでいく。

 すると、俺が歩いている道の中央に誰かが倒れていた。

 倒れていたのは、美沙紀だった。

 何かと戦ったのだろう、身体中に傷ができていた。

「美沙紀!どうしたんだよ!」

 美沙紀のもとに駆け寄っていく。

 俺は美沙紀を抱え上げる。

 美沙紀は瞑っていた目を少しずつ開ける。

「あ……海斗……さん……ですか」

「どうしたんだよ、美沙紀!何があったんだよ!」

「ふ……不法……侵入者が……」

「不法侵入?でも、警報は鳴ってないのに……」

「多分、魔法で造られた報知陣を破ったのかもしれないです。それを破ってしまえば、たとえ学園内に侵入しても警報が鳴らないんです」

 ということは、誰かがその魔法を解いてしまったってことか。

「そいつはどこに行った」

「向こうに行ったですけど……」

 美沙紀は学食の横にある道の向こう側を指さす。

「まさかですけど、戦うつもりですか?」

「それが何か問題か?」

「止めた方がいいですよ。今の海斗さんでも、倒すことはできないと思うです」

 俺の腕の袖を掴んでいた美沙紀の手に力が入る。

 そして、俺の目をジッと見つめてくる。

 美沙紀は何も言わなかったが、目で戦わない方がいいことを訴えていた。

 確かに美沙紀に傷を負わせるほどの怪我をさせたほどだ。

 相手の強さは、美沙紀の様子を見れば一目瞭然だ。

「それなら、見に行くってだけなら大丈夫だろ?」

「見に行くって……。相手はどんな能力を持っているかわからないのですよ?」

「わかってるつもりだ」

「ホントですか?」

 ジト目で俺のことを見てくる。

 俺のことを疑っているようだった。

「まあ、できるだけ戦いには持っていかないようにするよ」

「それならいいですけど……」

 呆れ混じりにため息をつく美沙紀。

 信用されてないみたいだった。

「美沙紀はここで待っていてくれ。後で保健室に連れて行くからな」

 美沙紀を木の木陰に座らせて、俺は美沙紀が指さしていた道を走っていく。

 道を走りながら周りを見る。

 特に戦ったような爪痕は残っていない。

 ある程度走ってところで走るのを止める。

「そう言えば、倒れてからどれくらい経ってるのか聞き忘れてた」

 もしかすると、すでに遠くに行っているか学園内にいないかもしれない。

 俺としてはその方が気が楽になるが。

 とりあえず、軽くではあるが周辺を見渡す。

 その時、あの感覚が俺を襲ってきた。

 あの不穏な気配が。

 俺は後ろを振り向こうとしたが、あまりにも強大な気配で一度拒んでしまう。

 しかし、これほどの気配を感じているのにこのまま気付かぬふりをしてしまえば、二度と誰かを知ることができなくなってしまうかもしれないと感じた。

 俺は意を決して振り向いた。

 そこには、銀髪の少年が不敵な笑みを浮かべながら俺の後ろに立っていた。

「お前か。学園唯一の男子生徒ってのは」

「それがなんだよ」

「いや、どんなやつがこの学園に来たのかと思ったんだが……」

 俺のことを舐め回すように見てくる少年。

 その目は、まるで獲物の様子を窺っている肉食動物のような目だった。

「これがこの学園の最終兵器……か」

「最終……兵器……だと?」

 少年が言っていることがよくわからない。

 もしかすると、学園長が言っていた『爆弾』とも何か関係しているのかもしれない。

「どんなもんか、俺が実力を見てやるよ!」

 少年が拳を構える。

 その瞬間、少年の周りを囲むように風が吹き始める。

 渦巻く風は、周りにあるものを吹き飛ばしていく。

 俺は飛ばされそうになるのを何とかして堪える。

「やっぱこれだと簡単には吹き飛ばないか。しゃーないな、それじゃあとっておきをお見舞いしてやるか」

 少年はどこからか大剣を出してくる。

 大剣を頭の上に持ち上げると、それを俺に向けて振りかぶってきた。

「くらいやがれ!俺の『デュランダル』をぉぉぉ!!」

 俺は避けることができず、目を瞑ってやられるのを待つ。

 しかし、いくら瞑っていてもやられる気配がしない。

 瞑っていた目を開いてみると、少年が俺の顔の目の前に大剣を止めていた。

 顔は俺の方に向けず、俺の後ろに視線を送っていた。

 そして、舌打ちを打ってから大剣を俺の顔から離す。

 少年は持っていた大剣を粒子に変えて消した。

「久しいじゃないか、夜の女帝。いや、今は御神玲奈か」

「何しに現れた、音哉」

 後ろを振り向くと、玲奈が立っていた。

 奥歯を嚙み締めているような音が鳴りそうな雰囲気を出している。

 今まで見たことのない玲奈の姿が、そこにあった。

「何しにってこの学園に唯一の男子学生を見に来ただけだけど?」

「本当の目的はなんだよ」

「つれないな。俺が言ったことは本当だって。まあ、あわよくば彼を殺せればよかったんだけどね」

「音哉ぁ!お前って男は……!」

 まさに一触即発の状態が続いている。

 俺が入る余地なんて全くない。

 というか、こいつら知り合いなのか。

 少年の方は、玲奈のことを『夜の帝王』とか言ってたけど。

「まあ、とりあえず目的は達成したことだし、今回は退散するとするよ。今日は会えることができてよかったよ、出雲海斗」

 急に俺の名前を呼ばれてビクリと身体が反応してしまう。

 というか、何で俺の名前を知ってるんだ?

「またいつか会おう。いや、いつか必ず会うことになるからな」

 そう言い残して、俺たちの前を去っていく。

 取り残された俺と玲奈は、数分だけその場で立ち尽くしていた。

 いったいあの男は誰だったのだろうか。

 そんな静寂を玲奈が打ち破った。

「悪いな、海斗。今のことは忘れてくれないか?」

 笑って話してくる玲奈。

 しかし、その笑顔は不自然な笑顔だった。

 俺は少年と玲奈の関係を聞こうとしたが、あえて聞かなかった。

「わかったよ。てか、それよりも美沙紀が怪我してるんだった。そっちに行かないと」

「じゃあ、うちは寮に戻ってるよ」

 そう言って、玲奈は寮に帰って行った。

 俺も美沙紀の怪我を治すために美沙紀がいる木陰に行くのだった。

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