美羽の告白
あれから一週間が経った。
俺は、ようやく本来の生活ができるところまで力が戻っていったことで、学園側から退院許可と登校許可が下りた。
一週間ぶりの制服。
前の制服は、戦いでボロボロになってしまったことで、学園が新しく俺の制服を支給してくれた。
前の制服とは違い、白を基調とした制服だった。
正直、とても着づらかった。
だからと言って、ボロボロの制服で通うわけにもいかなかったので、俺は仕方なく支給された制服を着ることになった。
俺は鏡の前でチェックをする。
「こんな格好で大丈夫か?浮いてたりとかしてないよな。というか、俺が男だってところですでに浮いてるか」
朝からくだらないことを言いながら、鏡とにらめっこする。
このやり取り、昨日から十回くらい続けているような気がする。
今までそんなことなかったのにな。
「さて、早く出ないと学食の時間に遅れちまうな」
俺は鞄を掴んで部屋を出ようとした。
しかし、俺は足元にある封筒を見て足を止めてしまう。
拾い上げて封筒の裏を見る。
「小倉……美羽……」
ローマ字でそう書かれていた。
俺は封筒を開いて、中に入っている紙を取り出す。
小さく折りたたまれた紙を開くと、小さな文字でこう書かれていた。
『今日の放課後 私がいる医務室に一人で来てください。 海斗君の友人 小倉美羽』
「……美羽」
いつから置いてあった手紙かはわからない。
でも、ここに書かれていることは嘘や偽りがないものだと確信した。
俺は手紙を封筒の中にしまって、封筒を鞄のポケットにしまう。
「とりあえず、急いでいかないと寧子に怒られちまう」
俺は急いで部屋を出て、鍵をかけて学食に大急ぎで向かった。
昼休み。
俺が学食に向かっていると後ろから聞き覚えのある声に声をかけられる。
「出雲、少し時間を取ってもいいか」
声をかけてきたのは水野だった。
「先生ですか。どうしたんですか」
「この前の遠征についてのことで話しがあるんだ」
そういえば、ちゃんと遠征についての話しをしてなかったな。
俺は水野と向かい合うように身体を水野の方に向けた。
「この前の遠征はよくやってくれたな」
「いえ、俺自身は遠征の役に立ったのかどうか……どちらかというと、俺自身の課題が見えてきたんですよね」
「まあ、無理もない。実際、出雲はここに来てから二日しか経っていないし、まともな訓練も受けてないんだ。それにも関わらず、出雲は遠征で結果を残してくれたのだ。学園側としてもとても感謝している」
水野は俺に対して感謝の言葉を言ってきた。
「感謝なんて、そんな。俺は自分自身の弱さを知ったところですから」
「勘違いはするなよ。これは学園としての言葉だ。教師として贈る言葉は、今回の遠征を機に自分自身の力を高めることだ」
厳しい言葉を浴びせられる。
俺にとって、今の言葉はとても救いになった。
「さて、時間を取らせて済まなかったな。友人を待たせているのだろう。早く行ってやれ」
そう言い残して、俺の前から去って行った。
俺は、水野の言葉が気になりながらも学食に向けて後ろを向く。
後ろを向くと、そこには寧子と美沙紀が立っていた。
なぜかわからないが、二人ともジト目で俺を見ていた。
「な、なんだよ。どうしたんだよ、二人とも」
「いえ、何もないです」
「ただモテてるんだねぇって思っただけだよ」
二人ともジト目で見ているのは変わらないのに、さっきよりもすごいプレッシャーを感じた。
俺は他の話題で話しを逸らそうとする。
「なあ、早く行かないと昼休み終わっちまうだろ。行こうぜ」
「そうですね。行きましょうです」
「中でレイちゃんとシノちゃんが先に行ってるよ」
いつも通りになった寧子と美沙紀。
俺は二人の後をついて、学食に向かう。
その時、この前と同じ不穏な気配を感じた。
俺は学食の上を見る。
そこには、人が立っていた。
影となっていたので、顔などはよく見えない。
向こうも俺が見ていることに気付いたらしく、学食の奥に消えていった。
「あれって、この前感じたものと……」
今も誰かに見られているような感じがする。
それに胸騒ぎも起きている。
「ウミ君、どうしたの?」
「早く来てくださいです」
「え、ああ、今行く」
俺は気にしながらも、二人がいるところに行ったのだった。
「これでホームルームを終了する」
「起立、礼」
その日の放課後、俺は荷物を整理して医務室に向かおうとしていた。
あの手紙の意味を知りたかったのだ。
「海斗さん」
横から声をかけられる。
横を向くと美沙紀が立っていた。
「どうしたんだよ」
「その、この後何か用事とかあるですか」
「ああ、ちょっとな。大事な用事が入ってるんだ。悪いな」
「いえ、それなら仕方ないですね」
そう言って、去ってしまった。
なぜかあの言葉が俺の中で引っかかっていた。
俺は、荷物の整理をして美羽のいる医務室に向かった。
医務室には、誰かがいるわけでもなく、建物の中は閑散としていた。
俺もこの中で一週間もいたと考えたら、恐ろしくなってきた。
美羽がいる部屋の前まで来た。
俺は、心を落ち着かせるために深呼吸をする。
覚悟を決めて、俺は部屋の扉を開いた。
開くと、窓の近くで外を見ている美羽の姿があった。
風が吹くたびに、黒くてつやのある髪が靡く。
「……美羽」
俺の声に気付いたようで美羽が俺の方に振り向く。
その行動に俺はドキッとしてしまう。
心臓の鼓動が早まっている。
「海斗……君……だよね」
「ああ、そうだ」
「手紙……読んで……くれた……んだね」
「読んだよ。俺だけじゃないといけないことなのか?」
「うん……海斗……君……こっちに……来て」
俺に手招きをする美羽。
俺は美羽の近くまで歩いて行く。
「ここに……座って」
ベッドの上に座るように誘導する美羽。
俺は言われるがままにベッドの上に座る。
その隣に美羽が座る。
ベッドの軋む音が中に響く。
それから暫く、お互い黙ったままでいた。
しかし、俺自身はこの時間が嫌いじゃなかった。
それどころかこの時間が続けばいいと思っていた。
「えと……海斗……君」
この沈黙を破ったのは、美羽だった。
「何?」
「その……目を……瞑って……もらっても……いい……かな」
「なんで目を瞑らないといけないんだ?」
「いいから……目を……瞑って」
俺は美羽が言っていたように目を瞑った。
何も見えない真っ暗な世界。
しかし、俺の心臓はさらに鼓動が早くなっていた。
俺の鼻に吐息のようなものがかかる。
そして、俺の唇に柔らかい何かが触れた。
その瞬間、瞼の裏にたくさんの映像が流れだす。
小さな女の子がボールで遊んでいる男の子を見ていたり、砂場で遊んでいる男の子に話しかけていたり、一緒に学校に行ったりしている映像が流れている。
そして、頭の中に美羽の声が響いてきた。
『ありがとう、大好きだよ』、と。
俺は目を開ける。
目の前には、目を瞑って俺の口にキスをしている美羽の顔があった。
俺はびっくりしたが、美羽を引き剥がそうとせず、そのままキスを続けた。
キスを続けていると、美羽の背中から白い光のようなものが出ていくのが見えた。
俺は美羽の肩を持って離すと、美羽は俺の方に倒れてきた。
「み、美羽!?大丈夫かよ?」
俺は美羽を優しく揺さぶる。
「ん……んぅ……海斗……君」
「大丈夫かよ?急に倒れてきて」
「えへへ……なんか……力が……入んない……よ」
舌を出して微笑む美羽。
俺はその顔を見て罪悪感を感じた。
「そうか。さっきまで窓際で立ってたもんな。今日はもう寝た方がいいと思うぞ」
「待って……」
俺の裾を掴んで帰そうとしない美羽。
「どうしたんだ?」
「えと……その……わ、私は」
顔を赤くしてかろうじて聞こえるような声で話す美羽。
一気に雰囲気が変わった気がした。
「私は……その……か、海斗……君の……ことが……」
「お、俺のことが?」
「……き……です」
急に声が小さくなって肝心なところが聞こえなかった。
「ごめん。ちゃんと聞こえなかったよ。もう一度言ってくれる?」
俺がそう言うと、美羽の顔がさらに真っ赤になってしまって、頭から煙が出てきていた。
「だ、大丈夫かよ!?とりあえず、今日は早く寝とけって」
煙を出したまま、頷いてベットに横になる美羽。
俺は顔が隠れないように、布団を深く被せる。
「それじゃあ、俺はもう行くからな。早く治るように頑張れよ」
返事はない。
しかし、美羽は布団の中から手を出して親指を立てる。
それを見た俺は、安心して帰れるのだった。
しかし、美羽はいったい何を言いたかったのだろう?
俺には、その理由がわからなかった。




