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再開

 それは、あまりにも突然だった。

「お前に国から学校の転校を命令されたんだ」

 突然、担任の村田は俺にそう告げてきた。

 俺は、何を言われているのか全くわからなかった。

「国が、俺にですか」

「そうだ。お前、今は隠しているが動物の耳と尻尾が生えてるんだろ」

 担任が言うように俺には狼の耳と尻尾が生えている。

 中学に上がった頃に突然生えてきてから四年近く。

 俺は学校のやつから何か言われるのが嫌だったので必死に隠してきた。

「でも、こんなタイミングで転校って急すぎじゃないですか」

 今は五月の中旬。

 転校には早すぎる時期だ。

「俺もおかしいとは思ったんだが、何か理由があるんだろ」

 呆れながら担任が言う。

「まあ、考えてもしょうがないだろ。それに」

 言いかけて職員室の窓を見る。

 俺もそちらに顔を向ける。

 そこには、黒塗りのベンツが校門に止まっていた。

 その前には、スーツを纏った二人組の男が立っていた。

「行って来い。もうお前の転校届は済ませている」

 困り顔を見せてきた担任。

 俺にはもう行くしか選択が残っていなかった。

 担任にお礼を言って職員室を後にする。

 廊下で誰にも会わなかったのは幸運だと思った。

 下駄箱で上履きから靴へ履き替えて黒塗りのベンツのところへ行った。

「お待ちしていました。さあ、車へ乗車してください」

 二人組の傍らが後部座席の扉を開く。

 言われるがまま、ベンツに乗車する。

 スーツを纏った二人組はそれぞれ運転席と助手席に座った。

 運転席の男がエンジンをかけながら聞いてくる。

「出発前に聞きますが、あなたが出雲海斗さんですか」

「ああ、俺が出雲海斗だ」

 男は俺が本人だとわかると車を発進させた。

 どんどん学校が小さくなっていき、三つ目の信号が見えてきた時には学校の姿は見えなくなっていた。

「なあ、どこに向かってるんだよ」

 居心地が悪くなったので話しかけてみる。

 質問に答えたのは、助手席に座った男だった。

「もう少し走ればわかると思いますよ」

 話しをはぐらかされた。

 俺は話しかけても無駄だとわかって暫く黙ることにした。

 もうどれくらい走っただろう。

 車は森の奥へ入っていく。

 まだ昼を過ぎていない時間なのに暗くなってきている。

 それも相まって不気味さも増してきていた。

「そろそろ着きますよ」

 沈黙を破る運転手の声が俺の心臓を早くさせる。

 やがて車は減速していく。

 ベンツを降りると大きなトンネルの前にいた。

 大きな柵の前には赤い文字で「立ち入り禁止」と書かれていた。

「おい、ここってなんだよ」

 運転手だった男が俺の質問に答える。

「ここは国が所有する森です。そして、ここは国が調査して見つけ出した異世界への入り口です」

「異世界の……入り口?」

 そういえば、ここのトンネルって最強の心霊スポット的な紹介をされてたところだったような。

「なるほど、だからこんなに厳重なのか」

 他人を近づかせないのならどんな方法でも使うってわけか。

「それじゃあ、行きますか」

 助手席に乗っていた男が柵の隣にある機械にカードをかざす。

 すると、大きな音を立てながらゲートが開いていく。

「どうぞ、中へ入ってください」

 男たちがトンネルの中に入る。

 俺もそれに続いてトンネルに入る。

 トンネルの中は明かりがなかったので、とても暗かった。

「おい、懐中電灯とかはないのかよ」

「このトンネルの中はどうも懐中電灯のような小さな光は効果を発揮しないみたいなんです」

 今のはどっちが答えたのか全くわからなかった。

 数分歩いていると、急に足音が止んだ。

 それに合わせて俺も歩くのを止めた。

「ここから先は、出雲さん一人で行ってもらいます」

 男の声が暗闇のトンネルの中に響く。

 その声は俺に恐怖を煽るようにしか聞こえなかった。

「この先を一人でかよ」

 どこを見ても闇しか続いていない。

 外の光もまだ見えていない。

「大丈夫ですよ。この先をずっとまっすぐ行けばいずれ着きます」

 その言葉を疑いたい。

 そもそも道すら見えてもいないのにどこをまっすぐ進めばいいのかわからなかった。

「さあ、そろそろ行った方がいいですよ」

 男に背中を押される。

「いや、でも、流石に一人でこの先を行けって無茶にもほどがあるだろ」

 俺は必死に抵抗をして見せる。

「大丈夫です。ただし、戻ってきた道を戻ろうとしたらこのトンネルの中を彷徨うことになりますから気をつけてください」

 冷静に俺に注意事項を説明してくる男。

 俺はこれ以上足掻いても無駄なことを悟った。

「わかった。このままずっとまっすぐ行くだけだよな」

「はい。それでは、気を付けて行って来てください」

 背中をまた押される。

 それが俺に冷静さを取り戻してくれた。

「走っても問題ないよな」

 最後に男たちに質問をする。

「大丈夫ですよ」

 その言葉に安心感が出てきた。

 結局、どっちが答えたのかはわからなかった。

(まあ、気にしてもしょうがないか)

 俺は余計なことを何も考えず、ただまっすぐ走ることだけを考えた。

 そして、覚悟を決めて俺は走り出した。

 少し走ると後ろに感じていた人の気配は感じなくなっていた。

 気づかないうちに結構走っていたことに気が付く。

 暫くして、流石に疲れてきたので少し歩くことにした。

 少し歩いていると小さく光が見えてきた。

「あれが……外、なのか」

 光が見えてきたことに少し喜びを感じた。

 足が疲れていたことを忘れて、光に向かってただひたすらに走った。

 走れば走るほど光が近づいていくことに感動が込み上がってくる。

 だんだん光が強くなってくる。

 俺は走るのを止め、少しずつ歩いた。

 あまりに眩しすぎるので俺は目を細めた。

 次に目を開いた時、そこには今までとは違う光景が目の前に広がっていた。

 空は、薄紫色が広がっている。

 周りには、緑の森が広がっていた。

 俺の後ろにそびえ立つトンネルは先ほどまで通ってきたとは思えないほど新しかった。

「ここが、異世界……なのか?」

 俺はまだここが異世界だという実感が湧かない。

 そんなことを考えていた時だった。

「そこの人ー!どいて、どいて!あぶなーーーーーーい!!!」

 上から人の声が聞こえた。

 俺は上を向いた。

 涙目で少女が空から降ってきていた。

「どーーいーーてーーーーー!!!」

 少女がそのように叫んでくる。

 しかし、俺は避ける余裕がなかったので女子を受け取る姿勢になる。

 そのまま少女は俺の腕の中に落ちてきた。

 しかし、

「うわぁ!」

 落ちてきた勢いが強すぎて堪えることができずにバランスを崩した。

「いって……。頭打った……」

 頭を擦りながら起き上ろうとした。

 すると、俺の左腕に何かが触れた。

「なんだ、これ」

 俺は気になって、何かを左手で掴んだ。

「んぅ……、あン……、っ……」

 色っぽい声が聞こえる。

 声が聞こえた方へ顔を向ける。

 そこには、先ほどまで空から落ちてきた少女が顔を真っ赤にして何かを堪えるような顔をしていた。

 俺は何かに勘付いて手が触れてるものをもう一度見る。

 今度は何に触れているかすぐに分かり、すぐに手を離した。

 もう一度少女の顔を見る。

 少女の顔がさらに真っ赤になっていた。

「あ、えと、まず、俺の上から降りてくれないかな」

「ぅえ、あぁ、うん……」

 俯いたまま少女は俺の腹から降りた。

 俺はようやく起き上がることができた。

「とりあえず、その、悪いな」

 気まずいとわかりながらも話しかける。

「ううん、大丈夫だよ。でも、流石に胸は……ね」

 自分の胸を触りながら言う少女。

「あぁ、いや、そのことはほんとに悪かった!お、女の子の胸は今まで触ったことがなくて……だから、って俺はいったい何を打ち明けてるんだよ!」

 自分でも明らかに取り乱しているのが分かった。

「ぷ、あは、あはははは。面白いね、君」

 ようやく少女は笑顔になった。

「人を笑うのはよくないと思うぞ」

「ごめんね。なんか今までのことがばかばかしく思って」

 目尻に溜まった涙を拭く少女。

 それは別としてものすごく気になることがあった。

「なあ、何で空から降ってきたんだ?」

 それを聞いた彼女はピクリと眉を動かした。

「そ、それは、い、色々あるんだよ、うん」

 何かを隠そうと道化を演じようとする少女。

 しかし、耳と尻尾がそれを許さなかった。

「お前、耳と尻尾が反応してんぞ」

「え、嘘っ!やだ、なんでーー!!」

 取り乱している少女。

 どうやら耳と尻尾はとても正直な様だ。

「あれ?そういえば、なんで君は耳と尻尾を見ても驚かないの?」

 そういえば、俺はさっきまで地球にいたから耳と尻尾を出してなかったのか。

「俺もお前と同じように耳と尻尾を持ってんだ」

 耳と尻尾を出す俺。

 それを見た少女は驚いた表情を見せる。

「その耳と尻尾って狼のだよね?」

「え、ああ、そうだけど」

 俺の持つ耳と尻尾の動物を当てたことに俺は驚いた。

「何で、知ってんだ?」

「間違えてたらごめんだけど、もしかしてウミ君だよね」

 その呼び方で確信に変わった。

 耳と尻尾が猫であり、俺のことを唯一ウミ君と呼んでいたやつは一人しかいなかった。

「もしかして、寧子なのか」

 恐る恐る聞いてみる。

 その言葉を聞いた少女は耳と尻尾を振った。

「そうだよ。寧子だよ。美月寧子。久しぶりだね、ウミ君」

 寧子は今までとは比べ物にならないくらい今日一の笑顔を見せた。

 俺と寧子は、全く違う異界の地で感動的な再開をしたのだった。

「人物紹介」

・出雲海斗…十六歳。男。狼の耳と尻尾を持つ。小さい頃の記憶がほとんどなくなっている。唯一覚えていることは、動物占いをしたことだけである。極度の花粉症。六月二十日生まれ。好物はカレーと美少女の脚。嫌いなものは花粉。身長は一七四センチ。体重五八キロ。

・美月寧子…十六歳。女。猫の耳と尻尾を持つ。とても好奇心旺盛で興味の持ったものには試さずにいられない。花が大好きで体のどこかに花の付いたものなどをつけている。四月二十六日生まれ。好物はショートケーキと花。嫌いなものは芋虫と毛虫。身長一六六センチ。体重「恥ずかしいからダメーーーーー!!!」サイズは上から八十二、六十一、八十九。

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