寧子の決意
寧子視点の話しです
警報が廊下で鳴り響いている。
私は、布団の中で警報が鳴り止むのを待っていた。
この学園に来てから、初めて聞く警報の音。
初めて聞くその音は、うんざりするような音だった。
いつ鳴り止むのだろう、早く止んでほしい、とずっと思っていた。
ようやく鳴り止むと、私は布団から顔だけ出して窓越しに外を見る。
ここが地下の空間だってことはわかってはいたが、長い間ここにいるとここも外だと錯覚してしまうほどに月の光が部屋に入ってくる。
今の私にとって月の光が、私に安らぎを与えてくれる。
「もう、このまま寝よう……」
私は枕に顔をうずめてそのまま眠った。
窓の外から音がした。
それも石を投げている音でなく、誰かが窓を叩いている。
ちなみに私の部屋は二階にある。
それにも関わらず、知らない誰かが窓を叩いている。
私は枕から顔を離して窓の外を見る。
そこには、窓に顔をくっつけていた学園長の姿があった。
「ぅきゃああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!……あぁ!?」
驚いて後ろに後ずさってしまい、ベットから落ちる。
頭から落ちたものの、強く打ち付けたわけではないので、何とか無事に起き上がる。
「大丈夫かい。別に見知らぬ人物や不審者ってわけじゃないんだから」
「だからって、さりげなく女子の部屋に入らないでください!知ってる人でもそれは許しませんよ!」
いったいどうやって入ってきたのだろう。
窓が開いている形跡は全くない。
ほんとに学園長は掴みどころがない。
「それで、学園長が私に何か用事ですか」
「いや、可愛らしいパンツを穿いているんだねと……」
「セクハラをしに来たなら窓から落としますよ?」
「待って!!僕は君たちと違って生身の人間だよ!?ここから落とされたら僕は確実に死んじゃうから止めて!!」
行動だけは謎なのに女の子には弱い学園長。
過去に何かあったのだろうか。
「それで、学園長は何しに私のところに来たのかをふざけないで教えてくれませんか?」
「わかったから怖い顔でこっちを睨まないでくれないかい」
流石の学園長も怯えているので睨みつけるのを止める。
学園長の弱点を知ることができて、少しいい気分になった。
「実は、美羽ちゃんが獣にさらわれたんだよ」
「美羽ちゃんが……さらわれた?」
私は電気が身体を走ったような衝撃に襲われた。
もしかすると、私があの時、美羽ちゃんから離れてしまったから連れて行かれたのだろうか。
もし、そうだとしたら、あの時の警報はきっと美羽ちゃんのことだったのだろう。
そうだとすれば、私はなぜこんなところで学園長と話なんかしているんだろう。
「私を……」
「何かな」
「お願いだから、私を美羽ちゃんのところに連れて行ってよ」
私は泣きそうになりながら学園長に迫ってみる。
しかし、学園長は意外にも冷静に首を横に振る。
「本来ならそうしたいところなんだけど、実は寧子ちゃんを引き留めるように言われているんだよね」
「誰に言われたんですか」
「海斗君に言われてね。僕もびっくりだよ」
ウミ君がそんなことを言ったの?
でも、どうしてウミ君が私を行かせないように仕向けたんだろう。
「ほんとに美羽ちゃんを助けに行きたいのかい」
「はい!どうしても行きたいです!だから……」
「でも、それは本心で言ってるのかい?友達だからっていう理由なら、僕は君を行かせることはできないよ。そう言われたからね」
「それは……」
押し黙ってしまう私。
ウミ君は、私が美羽ちゃんと喧嘩したことを知っていた。
そして、私が美羽ちゃんのことで思い悩んでいることも見透かしていた。
でも、何でウミ君は私が美羽ちゃんのことで悩んでいることを知っていたんだろう。
「なるほどね。海斗君は、本当にすごい生徒だよ」
「どういうことですか」
「実はね、僕がここの学園長になってから初めて彼は何か他の生徒と違うものを持っているなと思ってたんだ」
「私たちとは違う、何か?」
学園長が首を縦に振る。
それは素質って意味なのだろうか。
それとも他の人とは何か違う能力の持ち主ってことなのだろうか。
いずれにしても、私にはわからなかった。
「そうなんだよ。僕も最初は何だろうって思ってたんだけど、昨日、彼と話してようやくわかったよ」
「それって何ですか?」
「洞察力と観察力だよ」
「洞察力と……観察力……」
「そうだよ。彼は周りを見る目がありながら、誰が何を考えているかよく見てるんだよ」
確かにウミ君は、昔から誰かが困っていたら、いつも最初に助けてくれていた。
私が困っていた時もいつも最初に助けてくれたのは、ウミ君だった。
「でも、今回のことと今の話しは関係ないんじゃないですか」
「それが関係してるんだよ。何で僕が君に助けに行きたい気持ちが本心かどうかを聞いたかわかるかい」
「……いや、わかんないです」
「海斗君は、君の気持ちを理解してたんだと思うんだよ。君は美羽ちゃんが連れて行かれた原因は自分が美羽ちゃんの近くから離れたからだと思ってないかい」
そう言われた瞬間、私は唇を軽く嚙んだ。
学園長に言われたことは、全て図星だった。
「そうかい。でも、美羽ちゃんが連れて行かれたのは君のせいじゃないよ。美羽ちゃんを守れなかった学園側に原因があるんだから」
「学園長……」
「それに、寧子ちゃんは美羽ちゃんと喧嘩してるって聞いたんだよ」
ウミ君が学園長に言ったんだ。
「喧嘩しているってことは、今を青春しているってことだよ。でも、喧嘩したからしっぱなしってことはだめだよ。ちゃんと問題は解決しないといけないからね」
問題は解決しないといけないか。
その言葉を聞いて、私は心のもやもやが晴れた気がした。
「そう……ですね。ありがとうございます。なんか、気分がすっきりしました」
「そうかい。ならよかったよ。戦えそうかい」
「はい。みんなに迷惑をかけましたし、それに今なら美羽ちゃんに謝れる気がします」
私は迷いもなく学園長に言う。
学園長もわかってくれたようで、縦に首を振る。
「それじゃあ、海斗君のいるところに飛ばそうか」
「え、そんなことができるんですか?」
「この僕を誰だと思っているんだね」
「ただの学園長ですよね」
「ま、まあ、そうだけどね」
顔を引きつらせる学園長。
なんかこの人の弄り方がわかってきた気がしたてきた。
「とりあえず、外に行こうか」
学園長が扉を開けて廊下に出る。
私もその後を追って廊下に出た。
私たちは、学生寮の中庭にやってきた。
中庭には、噴水が真ん中に置いてある。
学園長は、噴水の前に立つと手を前に差し出す。
すると、噴水の下に魔法陣が浮かび上がり、地響きを起こしながら少しずつずれていく。
噴水の下には、地下へと続く石で造られた階段が現れた。
「すごい……。噴水の下にこんな階段があったんだ」
「普段は、ここの地下室は使わないようにしているんだ。ここのことは僕と寧子ちゃんしか知らないよ」
ウインクしてくる学園長。
私は、引きつらせながらも笑顔を見せた。
「じゃあ、行こうか」
学園長は、階段を下りていく。
私も学園長の後を追って階段を下りた。
階段を下り終えると、薄暗い道が真っ直ぐ続いていた。
「この先に、私をウミ君のところに飛ばすことができるものがあるんですか」
「そうだよ。足元に気をつけながらついてきてね」
学園長が歩き始める。
床が石で造られているので、靴音が奥まで響いている。
私は、できるだけ学園長のそばから離れないように歩く。
時々、コウモリらしきものが羽ばたいている羽の音が聞こえる。
一本道とはいえ、何かが出てくるんじゃないかと思ってしまう。
「大丈夫かい。もうすぐ着くからね」
「はい。大丈夫です」
声を震わせながらも返事をする。
暫く歩くと、奥から青白い光が見えてきた。
さっきまでは見えていなかったのに、急に見えてきた。
「学園長、あれが言っていたものですか」
「そうだよ。『空間転送装置(ワープ・ザ・スペース)』だよ」
「ワープ・ザ・スペース……?」
「簡単に言えば、空間を行き来できる便利装置さ」
話していると、目的の場所に着いた。
広い空間には、装置ではなくて魔法陣が浮かび上がっていた。
「これが、そうなんですか」
「そうだよ。もしかすると、巨大な機械が置かれていると思ったのかい」
「別に、そうは思ってないですけど」
嘘をついた。
実は心の中では残念だったりもしている。
「さて、それじゃあ、そろそろ飛ばそうかな」
「でも、ウミ君たちが今どこにいるかわからないのにどうやって……」
「そんなこともあろうかと思って、実は探索装置(サーチ・デヴァイス)を海斗君の首元につけておいたんだよ」
なんて用意周到なことだろう。
そんなことまで準備していたんだ。
「海斗君の現在地は……なるほどね。どうやら、すでに兎たちの巣に入ってるみたいだよ。ただ、囲まれているみたいだけど」
「他には誰と一緒ですか」
「えっとね……美沙紀ちゃんと美沙都ちゃんだね」
「そうですか。でも、早くしないとウミ君たちが……!」
「わかってるよ。それじゃあまず、魔法陣の真ん中に立って」
学園長に言われた通りに魔法陣の真ん中に立つ。
すると、魔法陣の光がより強く発光し始める。
「それからどうすればいいですか」
「何も考えないで、リラックスした状態でいてくれればいいよ」
私は、言われた通りに何も考えずにリラックスな状態でいる。
学園長は、何かを唱えていた。
何を言っているかは聞こえなかった。
「それじゃあ、寧子ちゃんを海斗君のところに転送するよ」
学園長の合図とともに、身体が浮くような感覚に襲われる。
私は、自然と目を瞑っていた。
暫くすると、身体が軽くなったような気がする。
「これから転送するから、身体が浮く感覚がなくなるまで絶対に目を開かないでね。もし、開けてしまったら狭間の空間で一生彷徨うことになるよ」
「き……気をつけます」
「よし、それじゃあ転送を始めるよ!」
学園長が言った瞬間、私の身体に衝撃が走った。
どこかに体を打ちつけたわけではないが、身体に暫く痛みが走る。
痛みに耐えながら、身体が浮く感覚がなくなるのを待っていた。
すると、再び衝撃が身体に打ちつけてきた。
先ほどの衝撃の感覚が未だに残っているので、すぐに立ち上がることができなかった。
身体の浮く感覚がなくなったので、私は目を開ける。
目の前には、三メートルくらいの大きな洞窟が目の前にあった。
「この中に、ウミ君たちが……」
私は、ふらふらとしながら立ち上がって、洞窟の中に入る。
「待っててね、ウミ君。ミサちゃんも、シノちゃんも」
私は、痛みがなくなったのを確認して洞窟の中を走って、ウミ君たちと合流しに行った。




