洞窟
俺と美沙紀は紫園のいる洞窟まで来た。
洞窟は俺たちよりも大きく、三メートルくらいある。
洞窟の中から殺気が漂っている気がする。
「ここに兎たちがいるのか」
「うん、いるよ。海斗君が戦っている時、たくさんこの洞窟から出てきたからね」
「ということは、中にはほとんどいなくなっているってことですか」
「さあね。中に入ったわけじゃないから、そこまではわからないね」
肩をすくめて答える紫園。
でも、彼女の口ぶりから結構の数の兎がここから出ていったことがわかる。
「どうすんだ。このまま突っ込むってわけにもいかないだろ」
「そうですね。まだ中にいる可能性もありますし」
「それはないと思うよ。ここに来た時は結構濃いにおいがしたけど、今はにおいが薄くなってるし」
「においで中の様子がわかるのか」
「私の耳と尻尾は犬だからね。嗅覚にはとても長けてるの。それに二人のにおいは結構特徴的だしね」
そう言って、俺と美沙紀のにおいを嗅ぐ紫園。
なんか女子ににおい嗅がれるって恥ずかしいな。
「あれ、顔が赤くなってるよ。もしかして、嗅がれてるのが恥ずかしくなってきちゃった?」
「べ、別に恥ずかしいなんて思ってないけど」
「嘘を言わなくていいんだよ。女の子ににおいを嗅がれるなんてなかなかないんだから。それに君のにおいは今までの男の中で私好みのにおいだから」
「って、何をしてるんですか!!こんなとこで破廉恥なことをしないでください!!」
「全く美沙紀ちゃんはまじめちゃんだね。まあ、ふざけるのもここまでだね。敵が近づいてきてる」
「それもにおいでわかるのか」
「まあね。ちなみに美羽ちゃんもこの洞窟の中にいるよ。熟れた桃のにおいがするからね」
美羽が洞窟の中にいることも教えてくれる。
美羽って桃のにおいがするんだ。
「来るですよ」
美沙紀がそう言うと、洞窟の中から一斉に兎たちが飛び出してくる。
先ほどの数ほどではないが、それでもたくさんの兎たちが出てきて俺たちを囲んだ。
「やっぱりこうなるわけか」
「でも、この数なら三人で倒せますです。フォルム・チェンジです!」
美沙紀は身体にモモンガの皮を生やす。
「そうだね。私たちの敵じゃないよね。来い、村正!」
紫園が叫ぶと右手に日本刀が握られる。
「やってやろうぜ!アーム・チェンジ!!」
力を右腕に注ぎ込んで、狼の腕にする。
「私が兎たちを飛ばすので、二人はとどめをさしてくださいです」
「わかったよ」
「了解!」
俺と紫園は、美沙紀の風を受けない高さまで飛び上がる。
一方の美沙紀は、洞窟の横の壁に誘導しつつ兎たちの自分の見えるところに誘導する。
「いきますですよ!風起こし(ウイング・ブロー)!」
美沙紀が兎たちに強風を当てる。
兎たちは壁に次々に飛ばされて打ち付けられる。
「今です!」
「海斗君、先に攻撃して」
「わかった」
俺は兎たちに突っ込みながら、腕を振りかぶった。
「くらいやがれ!!」
兎たちに向けて思いっきり腕を振って殴った。
周りにいた兎は盛大に吹き飛び、殴られた兎たちはその場で原型がなくなるほどぐちゃぐちゃになった。
「海斗君、そこから離れて!」
紫園に言われて、その場から離れる。
紫園が兎に日本刀を向ける。
「すべてのものを闇に葬れ!妖刀・村正!!」
地面に日本刀を突き刺すと紫色の魔法陣が現れる。
その魔法陣の中にいる兎たちはだんだん元気を失くしていき、ぐったりとしてしまう。
紫園が日本刀を抜いた瞬間、兎たちは破裂して周囲に血の雨が降り注ぐ。
兎の数も多かったので、俺と美沙紀にも血の雨が降り注ぐ。
「そろそろこのやり方もどうにかなりませんですか。いつもこの血を洗い流すのは私なんですよ」
「これと村正を振る以外の方法がわかんないんだよ。それにこの数の獣を片付ける方法がこれしかないしね。いつも負担かけてごめんね」
「全く、こっちの身にもなってくださいです」
緑のオーラが俺たちを包み込む。
俺に付いていた血が見る見るうちに消えていく。
「ありがとな、美沙紀。さて、どうする?このまま突っ込んでいくか」
「どうですか。中にはまだ多くの獣がいるですか」
「中から嫌なにおいがするけど、これはたぶんボスのものだと思う」
「ボス単体ってことなのか」
「たぶんね。私たちをここに来る前に潰そうって作戦みたいだったけど、見事に外したみたいね」
美沙紀も紫園の意見に頷く。
しかし、俺は頷けなかった。
その作戦が本当に敵の狙いだったのか?
「では、このままボスのところまで突っ込みましょうです」
美沙紀が洞窟の中に入る。
その後を紫園が追っていく。
俺も二人の後を追う。
洞窟の中は暗かったが、ろうそくの光があるので少し明るかった。
「ろうそくなんてあるんだな」
「獣って言っても元は人間だからね。たまに人間になってうろついてるんだよ」
「人間になることができるのか」
「全員ってわけじゃないですけどね。極僅かな獣が人間になることができるのです」
「それって俺たちみたいに人間が獣の耳と尻尾を出すみたいな感じか?」
「まあ、少し違うけどそんなものかな」
そんな雑談をしているうちに洞窟の奥にどんどん進んでいく。
しかし、ボスの部屋みたいなところが一向に見えてこない。
ろうそくの本数も入った時よりもかなり少なくなって、目の前がほとんど見えていない。
目がまだ暗さに慣れていない。
「何も見えないですね」
「そうだね。でも、この先を行けばボスがいるでしょ」
紫園は、においを嗅ぎながらさらに奥に進んでいく。
美沙紀も紫園を追って後ろを歩く。
俺は、二人を追いながら嫌な予感を感じていた。
(狼って確か、夜行性だったよな)
俺は、力を目に注ぎ込んで目を瞑る。
再び目を開けると、赤と緑のサーモグラフィーのような世界が広がっていた。
目の前の人の形をした赤い線が美沙紀と紫園だとわかる。
そして、俺が視線を下に向けるとたくさんの赤い線が潜んでいた。
土竜が潜んでいるわけではないようだ。
これって全部兎なのか?
そんなことを考えていると、赤い線が俺たちに向かって一斉に動き出した。
「美沙紀、紫園、下に気をつけろ!!」
俺が二人に伝えた瞬間、兎たちが地面から出てきて俺たちに攻撃してきた。
俺たちは間一髪で兎の攻撃を避ける。
しかし、そのまま兎たちに囲まれてしまった。
「油断したね。まさか洞窟の中で囲まれるとはね」
「ほんとですね。どうするですか」
「紫園、村正で一掃できないか」
「出来るけど、美沙紀ちゃんと海斗君は避けることができる?魔法陣の中にいたら二人とも死んじゃうよ?」
さらりと怖いことを言うな。事実なんだろうけど。
上を見上げると、赤い線がたくさん見えていた。
どうやら、この線も潜んでいた兎たちみたいだ。
「この状況じゃ、村正で攻撃できないか」
「二人に当たらない方法があればいいけどね。それがないから攻撃できないんだよね」
「そうだよな。それに上にも兎たちが潜んでるんだよな。これじゃあ、避けようにも避けれないよな」
そうなると、他の方法を考えないといけないよな。
と言っても、他に俺が地面を割って兎たちを地割れの下に落とすしかないんだけど。
それも二人を落としてしまう可能性があるわけで。
「少しずつ倒していくしかないのか」
「それはだめです。多くの力を消費して、ボス戦までに持たないです」
「でも、それじゃあここで俺たちが死ぬってことになるぞ」
「それは……」
美沙紀が黙ってしまう。
これ以上考えても、俺たちにはこれが精いっぱいみたいだった。
三人で背中合わせで兎たちを見る。
兎たちは少しずつ俺たちとの距離を詰めていく。
俺はこのままやられるのを待っていた。
その時、俺の前にいた兎たちの上半身が空中に舞った。
周りに血を撒き散らしながら、上半身が地面に落ちていく。
俺は、何が起きたのかわからなかった。
しかし、俺たちが来た道から赤い線が近づいてきているのがわかると、誰かが兎たちを攻撃したことがわかる。
形から俺たちの仲間が攻撃したみたいだ。
「なんかまたピンチみたいだね。ウミ君ってピンチを招きやすいのかな」
俺はその声を聞いて安心した。
もしかすると、来てくれないかもしれないと思っていたからだ。
「けじめはついたのか、寧子」
「うん、心配させてごめんね。美月寧子、完全復活だよ」
拳を作って俺の胸に軽くつく。
そして、俺に向けてウインクする。
ここに美月寧子が俺たちの仲間に加わった。




