再びの強襲
階段を上りきると、太陽の光が俺を出迎えてくれる。
久しぶりの外の空気が俺に今まで地下にいたことを教えてくれる。
空は相変わらず薄紫色の色をしている。
「えっと、ここからは前衛組で行動だっけ」
「そうなのです。さて、作戦でも考えますですか」
「なあ、美沙紀。作戦の前にすごく言いたいことがあるんだが」
「なんですか」
「俺、あの子と初顔合わせなんだけど」
俺はその子の方を向く。
その子は俺が見たのを睨まれていると思ったのか、怯えてしまっている。
見た目はとても可愛らしく、髪をシュシュで括ってポニーテールにしている。
地下の生活のせいかわからないが、肌の色は白かった。
「そういえば、海斗さんは初めてですね。名前くらいは知っていると思いますですよ」
「すまん。まだ顔と名前が一致してないんだ。だから、おこがましいと思うけど名前教えてくれない」
俺は少女に手を合わせてお願いする。
少女は呆気にとられたような顔をしていた。
「何バカなことしてるですか。困っているじゃないですか」
「あれ、こうすれば女の子は何でも教えてくれるって書いてあったんだけどな」
「いったいどこから得た知識なのですか!」
「プ、フフフ……」
俺と美沙紀がバカなことをしていると、俺たちのやり取りを見ていた少女は笑った。
「ようやく笑ってくれたな」
「え、……」
「だって、俺のことを怯えてたでしょ。大丈夫だよ。悪いことはしないから」
「でも、昨日今日で海斗さんはどれくらい私にその、は、破廉恥なことをしたと思ってるんですか」
「な、美沙紀!せっかくいい人みたいに見せてたのに何でそうやって人を貶めるようなことを言うんだよ!」
「ほんとじゃないですか。……海斗さんの……エッチ」
「どうしてそうなんだよ!」
「ぷ、あは、あははははは。二人とも面白いね」
また、少女が笑ってくれた。
俺と美沙紀の会話を聞いていて緊張がほぐれたのかもしれない。
「えっと、自己紹介すればいいのかな」
「ああ、済まないけどいいかな」
「うん、私は紫園美沙都。あなたは出雲海斗さんだよね」
「俺の名前知ってんのか」
「初日に自己紹介してたでしょ。それに、実践訓練の時なんか犬の頭を粉砕した挙句に血まみれになってんだもん。目立たないわけないし、印象もすごかったんだよね。君がいない時なんてみんなで集まって君の話しで持ち切りだったんだよ。みんな君の第一印象は怖い人って言ってたから、遠征で同じ組になった時はどうしようかと思ってたけど、話してみると全然怖くないよね。それよりも優しいから驚いちゃったよ。あ、それと私のことは紫園って呼んでね」
「え、ああ、よろしく」
俺は紫園と握手をする。
俺のことをよく思ってくれたことはよくわかった。
それよりも俺は別のことに驚いていた。
「美沙紀、紫園ってこんな子なの」
「まあ、熱くなったらなかなか静かにならない子なのです」
俺が言うのもなんだけど、どうして俺の周りには変なやつが多いんだろ。
「さて、自己紹介が終わったところでさっさと作戦を決めるですよ」
「急に上から目線だな。まあ、いいんだけど」
俺たちは集まって作戦会議を始める。
もちろん、敵にばれないように草陰に隠れながら。
「さて、この地図だと今回の場所はここみたいなのです」
「結構遠いんだね。どうやって接近する」
「そうですね。ばれずに接近というのは難しいですね」
「なあ、美沙紀がモモンガの力を使って空から行けばいいんじゃ……」
俺がそう言うと、美沙紀が微かに口元を引きつかせた。
あれ、俺なんかまずいこと言ったか。
「そ、それは、ほら、どうしても近づけない時の最終手段ってことで取っとくのです」
「そうか。それならいいが」
今、美沙紀は明らかに何かはぐらかされたような気がした。
それとも俺の考えすぎかな。
「じゃあ、どうやって近づくのさ」
「とりあえず、物陰に隠れながら少しずつ近づくしかないですね」
「地味な作戦だが、今はそれしかないならそれを実行するしかないか」
俺と紫園は、美沙紀の作戦を採用する。
美沙紀は、地図をしまって立ち上がる。
「それでは、そろそろ行きましょうです。この時間がとても惜しいです」
「そうだな。もうすぐ誘拐されてから半日くらい経ってるしな」
「美羽ちゃんを助けに行かないとね」
俺たちは円陣を組んで美沙紀が円陣の真ん中に手を出す。
美沙紀の手の上に俺が手を乗せ、紫園がさらに俺の上に乗せてきた。
「それでは、死ぬことだけがないように行きましょう」
「「おーーー!!!」」
掛け声を終えて、俺たちはそれぞれ物陰に隠れた。
俺は狼の特性を生かすために木の上に隠れず、太い木の裏に隠れる。
周りの様子を窺うが、特に変わった様子はない。
(海斗さん、そちらの様子はどうですか)
いきなり、頭の中から美沙紀の声が聞こえた。
「え、何!?どういうこと!??」
(落ち着いてくださいです。というか、大声出さないでほしいです)
俺は咄嗟に口を押えた。
周りに何もいないことを確認する。
(今、意識を海斗さんに送ってるのです)
意識を送っている?
俺たちってそういうこともできるんだな。
(方法は簡単です。意識を送りたい相手の顔を頭の中でイメージしてほんの少しだけ力を使って相手の意識の中に入り込むんです。言うよりやる方が早いです。早速、私に送ってみてください)
美沙紀に言われるままに、俺は美沙紀に意識を送ってみる。
まず、目を瞑って美沙紀の顔を考える。
イメージが出来上がってきたところでほんの少し力を出す。
力の制御ができててよかった。
そして、出した力を頭に送り込む。
すると、頭に電気が走ったような感覚がよぎった。
(こんな感じでいいのか?)
(はい、大丈夫です!流石は海斗さんです。しかも、ちゃんと力の制御もできてます。昨日教えたばかりでここまでの成長はすごいですよ!)
(興奮しすぎだって。ちなみに、こっちには誰もいなかったよ)
(わかりましたです。それでは、前進しましょうです)
美沙紀の意識から離れて、俺は音をできるだけたてないように前進する。
ある程度走ったところで、俺は太い木の後ろに隠れる。
その時、何か嫌な臭いが俺の鼻を刺激する。
辺りにも同じ臭いが充満している。
俺は特に焦げ臭い臭いがする方へ顔を向ける。
「な、なんだよ……あれ」
そこには、赤く燃え上がっている炎が見えた。
誰かが森に炎を放ったのだろうか。
そういえば、この先はうさぎたちの巣だったような。
炎を見つめていると、後ろから草が擦れる音がした。
後ろを向くと、赤い目をした兎たちが俺を囲んでいた。
「おいおい、何で俺が囲まれてんだよ」
(海斗さん、そちらはどうですか)
美沙紀の声が聞こえる。
俺は美沙紀に意識を送って状況報告をする。
(まずいね。兎たちに囲まれた。しかも、俺の向かう方向で山火事が起きてるよ。はっきり言って、俺はピンチの真っただ中にいるよ)
(ほんとですか!?それじゃあ、これから紫園さんとそちらに……)
(大丈夫だ。俺一人でどうにかするよ。それよりも美沙紀は山火事をどうにかしてくれないか。これじゃあ、応援を呼ぼうにもできないから)
(わかりましたです。紫園さんには、兎達の巣を突き止めてもらうように言っておくです)
俺は美沙紀から意識を離れる。
もう一度周りの状況を確認する。
俺の周りには兎の集団が囲んでいて、後ろでは炎が燃え上がっている。
「助けは必要ないって言ったけど、余裕があるわけじゃないんだよね」
一匹の兎が俺に目がけて噛みついてくる。
俺は右腕に力を送り込む。
「アーム・チェンジ!!」
そう叫ぶと俺の右腕は狼の腕に変化する。
そして、噛みついてきた兎を殴る。
兎は吹き飛ばされ、そのまま地面に叩きつけられて動かなくなる。
それで攻撃してきてほしくないが、兎たちは容赦なく襲ってくる。
薙ぎ払っても薙ぎ払っても数が減るどころかどんどん増えていく。
「ぐぅ、これじゃあ、きりがねえ」
どれだけ攻撃しても次々に襲い掛かって来る。
ついに対処しきれず、左腕を噛まれる。
それを皮切りに次々と俺の腕や脚や身体に噛みついてくる。
俺は全身に力を送って兎たちを弾き飛ばす。
吹き飛ばされた兎たちは、木にぶつかったり地面に落ちたりした。
しかし、身体中を噛まれていて重症とまではいかないものの立ち上がるのがやっとだった。
「これは流石にヤバいかもな。でも、ここで死ぬわけにはいかないんだよな!」
俺はさらに右腕に力を込める。
兎たちはチャンスとばかりに一気に畳みかけに来る。
俺は腕を構えてギリギリまで引きつける。
兎たちとの距離が数センチになったところで腕を振りかぶる。
「くらいやがれ!!」
目の前の兎を殴ったのを皮切りに、飛びついてきた兎たちを次々に殴っていく。
殴られた兎は、吹き飛んだり肉が粉砕したりした。
兎は俺に怯えたようでその場で動かなくなる。
それをチャンスと見て、俺は地面に向けて腕を構える。
「これで終わりだーーーーー!!」
地面を思いっきり殴る。
俺が殴った場所から地面に亀裂が入って、兎たちが立っていた場所で地面が割れて兎たちはその中に落ちていった。
「何とか全頭倒したかな」
俺は右腕に力を込めるのを止め、元の腕に戻す。
右腕を見ると、昨日できた傷口から血が出てきていた。
せっかく美沙紀に治してくれたのにな。
「海斗さん、大丈夫ですか!?」
後ろから美沙紀の声が聞こえる。
振り向くと美沙紀が心配そうに俺を見ていた。
その後ろには、黒い煙が立ち込めていた。
「ああ、なんとかな。それよりも火事は防げたんだな」
「はいです。それよりもこの亀裂は何ですか」
「ああ、これか。俺が兎を一気に片付けるのに地面を殴って作ったんだ」
「腕を見せてくださいです」
「別にいいけど」
俺は美沙紀に腕を差し出す。
「ちょ、血が出てるじゃないですか!しかも、身体中傷だらけですよ?なんでひとりで戦おうとなんて無茶したんですか。少しは自分の身体のことを考えてくださいよ」
「そうだな。心配させて悪かったよ」
「とりあえず、そこから動かないでくださいです」
俺は美沙紀に言われた通り、その場から動かないようにした。
すると、俺の周りを緑のオーラが包んでいく。
とても心が温かくなるような光のオーラだ。
身体の痛みが消えていくのを感じる。
右腕を見ると兎たちに噛まれた傷が消えていき、昨日できた傷も消えていく。
「これで大丈夫ですか」
「ああ、ありがとな。でも、それで治せるなら昨日みたいに包帯を巻かなくてもよかったような」
「これは自然の力を利用して治療するものなのです。地下にある学園内じゃ絶対にできないものなのです。それにこれは結構力を使うので疲れやすいんです」
「そうなんだ。それって俺でもできるのか」
「出来ますけど、あまり使わない方がいいですよ」
美沙紀は先に行こうとする。
「あ、ちょっと待てよ」
俺も慌てて美沙紀を追いかける。
しかし、自分で作った亀裂に足を引っ掛ける。
俺は美沙紀の腕を掴んで転ばないようにする。
「ちょ、海斗さ……きゃあ」
俺は美沙紀を巻き込んで転んだ。
目を開けると真っ暗だった。
光がどこにも射していない。
代わりに生暖かい温もりが左右にある。
顔を上げると後ろから光が射し、目の前にピンク色のものがあった。
「あれ、ピンクの……布?」
「海斗さん、どこに顔を突っ込んでるんですか」
俺がさらに顔を上げると、太陽の光が俺を迎える。
目の前には、美沙紀が俺に尻を向けて倒れていた。
スカートはめくれていて、ピンクの布が見えていた。
というか、パンツが見えている。
「美沙紀さんって、見た目通りに可愛らしいパンツを穿くんですね」
「な……なな、何が言いたいんですか、この変態!!」
美沙紀が俺の顔にめがけて蹴ってくる。
近距離だったこともあり、顔にクリーンヒットする。
「悪かったよ。別に俺だって見たくて見たわけじゃないから蹴んなくてもいいだろ」
「私のお尻からなかなか顔を離さなかったのは誰ですか」
「だああ、悪かったって!それよりも紫園は大丈夫なのか」
「はあ、話しを逸らされた気がしますが、そうですね。確認を取ってみますです」
美沙紀は俺から離れて紫園に連絡をしに行く。
そんなに離れなくてもいいのにな。
「紫園さんはすでに巣を見つけたようですよ」
「割とすんなり見つかったんだな」
まだ見つかってないと思ってたんだが。
「紫園さんのところに合流しに行きましょうです」
「そうだな」
俺と美沙紀は紫園のところに向けて森を走っていく。
待ってろよ、美羽。
俺たちが絶対に助けに行くからな。
・紫園美沙都…十六。女。犬の耳と尻尾を持っている。自分の興味のあることや好きな話になると、自分でも歯止めが効かなくなるほどしゃべりまくる。そのため、いつ使うのかわからないような知識も持ち合わせている。玲奈とはエロトーク仲間として仲良くしている。好きなものは他人の恋バナ、エロトーク、下ネタ、プール。嫌いなものはズボン、冬、興味のない話。身長一六八センチ。体重「玲奈ちゃんは言ってないんだ。じゃあ、私も言わない」




