遠征組
中庭には、すでに学生が集まっていた。
そこに寧子と美羽の姿はなかった。
「全員集まったか」
水野が確認をする。
「先生、寧子ちゃんと美羽ちゃんがいません」
誰かが二人の不在を言う。
「そうか。小倉はわかっているが、美月はどうした」
「寧子なら部屋にこもったままです」
俺が寧子のことを伝える。
「何をしてるんだ。まあ、いい。とりあえず、今ここにいる者だけに伝える。たった今、兎型の獣が侵入して小倉を連れ去った」
その言葉に生徒たちがどよめく。
「これから小倉奪還に向けての遠征組を発表する」
「遠征組?」
初めて聞く言葉だ。
「この学園には、学生が獣に連れ去られたときに獣たちの巣に行って学生の奪還と獣の殲滅をする為の生徒を決めるのです。それに選ばれた生徒は遠征組と呼ばれるのです」
俺の隣にいた美沙紀が説明してくれる。
「でも、遠征するのは今回が初めてなのです」
「そうなのか」
それにしてもみんな落ち着いてるな。
「この為にみんな実践訓練をしてきたんです」
美沙紀の言葉にも、少し力が入っている。
「では発表する」
先生が遠征に行くための学生たちの名前を呼ぶ。
「御神玲奈」
「しゃあ!やってやるぜ!」
拳を作って気合を入れる玲奈。
「神崎原美沙紀」
「まあ、私が選ばれるのは当然のことです」
そんなことを言いながら手が震えているのが見えた。
やっぱり緊張してんじゃん。
「何見てるですか」
「え、いや、何もないよ」
俺は咄嗟に違う方へ顔を向ける。
「美月寧子……はここにはいないが、後で誰か遠征に行くように言ってくれ」
寧子も行くのか。今の状態で言っても大丈夫なのかな。
「最後に出雲海斗、以上が今回の遠征組だ。出発は翌日の早朝だ。それまでに遠征組は準備をするように。では、解散!」
そう言って、水野は学園に向けて歩き去った。
そうか、俺も遠征組に選ばれたんだ。
「海斗も遠征組か。よろしくな。美沙紀もな」
「そうですね、お互いに頑張ろうです」
玲奈と美沙紀はお互いに握手をする。
なんだかんだでこいつら本当に仲がいいんだな。
「さて、後は寧子だな。でも、あの状況だと連れ出していけるかわかんないな」
さっき一人にしてほしいとか言われたばかりだからな。
周りには俺と玲奈と美沙紀以外に残っている人はいなかった。
「どんな感じだったんだ」
「なんつーか、混乱してる感じだったかな。とりあえず、今は下手に刺激しない方がいいかもな」
「そうか。でも、美羽が連れて行かれたことは言った方がいいんじゃないか」
玲奈が提案してくる。
しかし、俺は首を横に振って提案に反対する。
「そんなことは口が裂けてでもできないな。もし、そんなことをしたら寧子は自分自身を責めるだけだろう」
美羽と喧嘩した後だからこそ、変に刺激をしない方がいいと思う。
「なんか複雑になってるですね。とりあえず、今は明日の遠征に向けての準備をしなければいけないのです」
美沙紀はその場から去ろうとする。
しかし、玲奈がそれを阻止する。
「美沙紀、お前あの二人があのままでいいと思ってるのかよ!」
「思ってないですよ。だからこそ、今は海斗さんを信じているんですよ」
「海斗を……信じる……」
美沙紀は俺に向かってウインクをしてくる。
俺はその合図に頷き、玲奈に近づく。
「玲奈、寧子のことは俺に任せてくれ。俺には一つ作戦があるんだ」
「海斗……わかった。お前を信じるよ」
「ああ、任せとけって」
俺と玲奈はがっちりと握手する。
「それじゃあ、私は自分の部屋に戻るです。玲奈はどうするです」
「うちも準備にあたらせてもらうよ」
そう言って、学生寮に戻る二人。
「さて、俺はあの野郎のとこに行くか」
俺は二人とは逆に学園に向けて歩いて行った。
昨日行ったばかりなのに、俺は学園長室の扉の前に立っている。
初めてここに来た時は外はまだ少し明るかったっけ。
「さて、行くか」
俺は扉をノックする。
「はいはい。居ますよー」
相変わらず、暢気な声が聞えてくる。
俺は扉を開く。
「失礼します。……って、何してんだよ」
「え?いや、僕もこんな歳だからね。身体を鍛えていたわけだよ」
扉の向こうには、腕立て伏せをしている学園長が出迎えてくれた。
心なしか、とても清々しく見える。
「そうなのか。まあ、そんなことはどうでもいいけど」
「あらら、また冷たいことを言ってくるのねぇ」
どうしよう。この人がオネエにしか見えなくなってきた。
そんな関係のないことは考えずに、俺は本題を切り出す。
「学園長、実はあんたに頼みたいことがあるんだ」
「昨日の今日で急だね。まあ、君のことだから遠征のことかな」
腕立て伏せを中断して、俺の前に来る学園長。
嫌に堪がいいな。
「そうだ。寧子のことで相談というか、頼みたいんだ。もしかしなくても、これは俺のわがままかもしれない。それでもいい。だけど、これだけは聞き入れてほしいんだ。あんたじゃないといけないんだ。俺のわがままを聞き入れてくれるか」
「そうかい。君はやさしいんだね。わかった。この僕が同志として君の頼みごとを聞き入れようじゃないか」
胸をポンと叩いて頼もしく構える学園長。
こういう時良き理解者がいるって本当に助かる。
「で、僕は何をすればいいのかな」
「明日の遠征組のメンバーは知ってるだろ」
「もちろんだよ。なんせ僕は学園長だからね」
「その中に寧子が編成されてると思うけど、寧子には学園で待機してもらうことを水野先生に伝えてほしいんだ」
学園長は、不気味に眼鏡を光らせる。
「それは、どういう狙いなのかな」
「寧子は今、美羽と喧嘩してるみたいなんだよ」
「あら、それはまた大変な事態だね。でも、それだとはっきりとした理由にならないよ」
確かにただ喧嘩しただけじゃ何の理由にもならない。
「あいつ、頭の中が混乱してるのかもしれない。そんな状態で遠征に行っても足手まといになるだけだ。それに、今回助けに行くのは美羽だ。仲直りもしてないのに行かせるのは酷だと思うんだ。学園長には、寧子が助けに行きたいと言った時に行かせてやってほしいんだ」
「監視役を僕にやってほしいってことかい?」
「ああ。嫌なら断っていい。どうせ俺のわがままだしな」
「言ったよね。僕は君を同志として頼みごとを聞き入れるって。男に二言はないよ」
学園長はそう言って、頷く。
「やってくれるのか?」
「いいとも。僕が言えば、みずのんもわかってくれるでしょ。なんたって僕は学園長だしね」
水野を愛称で呼んでいることはガン無視する。
「ありがとな、学園長。明日は頼んだ。じゃあ、俺はこれから遠征の準備をするから自分の部屋に帰る」
「わかったよ。明日は気を付けるんだよ。獣の巣に行くんだからね」
「ああ。任せろ」
俺は学園長を出る。
そして、エレベータに向けて歩く。
「そういえば、遠征って何を持っていけばいいんだ?」
まあ、その辺は美沙紀や玲奈に聞けばいいか。
俺はエレベータに乗って、学生寮に向かった。




