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海斗と美羽と寧子

 美沙紀との自主練を終えて、演習場を出る。

 そこには、座り込んで息を乱している玲奈がいた。

「ちょっと、玲奈さん。何してるです」

 美沙紀が玲奈を睨みつける。

 流石の玲奈も少し怯えている。

 俺は美沙紀の前を手で遮る。

「待て。何か訳アリっぽいぞ」

 こいつのことだから覗いていたんだろうけど、今はそういうことではないみたいだ。

「玲奈、何かあったのか」

「いや、うちにもよくわかんねーんだ」

 玲奈が立ち上がる。

「保健室に行けば美羽がいるけど、話してくれるかわかんねーぞ」

 困り顔をする玲奈。

 美羽に何かあったのだろうか。

「そうか。わかった。美沙紀、先に帰ってくれ」

「え、でも海斗さん」

「大丈夫だよ。疲れが残ってるわけじゃないから。心配してくれてありがとな」

 美沙紀の顔が赤くなる。

 俺は玲奈に美沙紀のことを見てもらうようにアイコンタクトする。

 玲奈は俺のアイコンタクトの意味がわかったようで、親指を突き立てて俺に見せる。

 俺は保健室に向けて走った。

「ところで美沙紀、海斗を名前で呼んでるんだな」

「ぅえ!?な、何の話しですか!?」

 二人の会話を聞いて、意外と仲がいいことを知ることができた。


 外は夕日が沈みかけている。

 息を切らしながら、保健室の前まで来た。

「ここだよな。まさか、一日で保健室に二回も行くなんて想像もしなかったな」 

 ただでさえ、世話になることがほとんどない場所だ。

 俺は保健室の扉を開ける。

 開けると、ひとつだけカーテンの閉められたベッドがあった。

 そのベッドに向かい、カーテンを開けると美羽が寝ていた。

 額にはタオルが置かれていた。

「美羽!大丈夫か!?」

「んぅ……、あ……海斗……君」

 苦しそうに俺の名前を呼ぶ。

 顔も赤く、呼吸も荒い。

 風邪を引いているみたいだ。

「無理すんな。それよりも何があったんだ?」

「ちょっと……無理して……熱を……出しちゃった」

 優しく微笑む美羽。

 しかし、その表情は悲しく見えた。

「他に何かあったのか」

「え……?」

「お前、俺がここに来てから悲しそうな顔をしてるから」

「そんな……こと……ないよ」

 もう一度ほほ笑む美羽。

 俺はその表情を見るのがとても辛かった。

「どうしても話してくれないのか」

「別に……そんなこと……ない」

 どうやら俺に話しても大丈夫そうだ。

「話したくなかったら、別に話さなくてもいいぞ」

「ううん……隠しても……いつか……ばれるから」

 そう言って美羽は起き上がる。

「起きるな。熱がひどくなるぞ。寝てろ」

「だめ……なの。こういう……ちゃんとした……話しは……起きて……しないと」

「わかった。だけど、無理だけはすんなよ。辛くなったら、いつでも横になっていいんだからな」

 美羽は小さく頷く。

 俺は近くにある椅子に座る。

「実は……寧子……ちゃんと……喧嘩……しちゃった……んだ」

「喧嘩?なんで喧嘩なんか」

「これ……」

 美羽はポケットから何かを取り出す。

 手には、ボイスレコーダーが置かれている。

「これを聞けって言うのか」

 美羽は小さく頷く。

 俺はボイスレコーダーを再生する。

 レコーダーから水野の声が聞こえる。

 内容から今日の授業の時間に撮られたものみたいだ。

「いつの間にこんなの撮ってたのかよ」

「見つからない……ように……するの……大変……だった」

 見た目以上に大胆なことをする子みたいだ。

 そんな俺たちをよそにレコーダーは流れ続ける。

 流し続けると水野が寧子に質問している場面が流れる。

 寧子は答えることができず、水野が呆れる。

 そこでレコーダーが止まった。

 どうやらここまでしか撮っていないようだ。

「これを寧子にも聞かせたのか」

「うん……。その後に……喧嘩を……しちゃった……んだ」

 悲しそうに俯く美羽。

 俺はこのレコーダーのことについて聞いた。

「このレコーダーって水野と寧子の会話しかないのか」

「うん……。寧子……ちゃんの……ことで……気になる……ことが……あって」

 そう言って、横になる美羽。

 どうやら限界になったみたいだった。

 俺はタオルを桶に入った水で濡らして絞る。

 それを美羽の額に乗せる。

「寧子のことか。いつもこんな感じじゃないのか」

「ううん……。いつも……なら……先生の……質問に……答え……られる……はず……だから」

 顔を赤くしながら、俺に話してくれる美羽。

 本人は苦しいのに一生懸命俺に話してくれる。

 それだけ寧子との喧嘩がショックで仲直りしたいのだろう。

「その話って俺以外のやつには話してないのか」

「うん……。さっき……玲奈……ちゃんが……来たけど……このことは……話して……ないよ」

 玲奈が言っていたことはこのことだったのか。

「なんで俺にだけ話してくれるんだよ」

「海斗……君に……関わる……こと……だから」

「俺に、関わること?」

 俺は昨日今日の出来事を思い出す。

 しかし、俺には思い当たる節がなかった。

「海斗……君には……わからない……かも」

「なんだよそれ」

「女の子……には……色々と……秘密が……あるん……だよ」

 にっこりとほほ笑む美羽。

 その笑顔は無理をしたものでなく、自然なものだった。

「俺にわからないことか。秘密にされたら何かわからないな」

 その時、美羽は俺に手招きした。

 美羽に近づくと美羽は俺の頬にキスをした。

 俺は顔を離すと、頬を押さえた。

「な、なな、何してんだよ!?」

「キス……だけど……何か……?」

「いやいや、何かじゃないよ!?何でキスなんかしてきたんだよ!?」

 美羽は赤い顔をさらに赤くする。

「これが……私の……気持ち。たぶん……寧子……ちゃんも……同じだと……思う」

「寧子も美羽と同じ気持ち……」

 それは今のキスと関係あるのだろうか。

 それともそれとは別の意味で同じ気持ちなのだろうか。

 詳しいことは俺にもわからなかった。

 でも、俺にはなんとなく美羽の言いたいことがわかった気がした。

「ありがとな、美羽。なんとなくわかった気がする」

「そう……なんだ。もう……行くの……?」

「ああ、だから待っててくれるか。寧子を呼んでくる」

「うん……。わかった……」

 俺は椅子から立って扉まで歩いて行く。

 そして、美羽の方をもう一度見る。

 美羽は起き上がって俺を見送ってくれていた。

 俺は扉を開けて寧子を探しに行った。


 保健室を出てから一時間は過ぎた。

 俺は未だに寧子を見つけられないでいた。

 学園内や学食などを探したが、全て空振りだった。

「後は……寧子の部屋だけか」

 俺は学生寮を見る。

 立派な西洋風の建物。

 ここの中にいるしか思えなかった。

「あいつ、ほんとにどこにいるんだよ」

 そんな弱音に近いことを言いながら学生寮に入った。

 学園の次に建物内が広いこともあり、なかなか寧子の部屋が見つからない。

 そういえば、ここに始めてきた時も自分の部屋が見つけられなかったっけ。

「見つけることができない気がしてきた。どうしよう……」

 寮の中を走って探すが見つからない。

 その時、ひとつだけ不自然に扉が開いている部屋があった。

 俺はそこの部屋に行き、表札を確認する。

 美月と書かれていた。

「ここか」

 俺は息を切らしたまま扉を開く。

 そこには、枕を抱えたままうずくまって泣いていた寧子がいた。

「見つけたぜ、寧子」

 寧子は俺がこの部屋に来たことに驚いていた。

「今から俺と美羽のところに行こう」

 俺は寧子に手を差し伸べる。

 しかし、寧子は俺の手を払った。

 そして、俺に背を向けてしまう。

「どうして私の部屋に来たの」

 言葉に威圧感を感じる。

 美羽との喧嘩が相当堪えているのだろう。

「事情は美羽から聞いた。喧嘩したんだってな」

「それが何よ。ウミ君には関係ないよ」

 言葉が震えている。

「関係なくないぞ。美羽が言うには、俺が関わってるみたいだしな」

「だから関係ないって言ってるでしょ!!!」

 大声で俺に叫ぶ寧子。

 俺もその声に驚く。

 ほんとに何を話したんだろう。

「一人にして」

「え?」

「今は一人にしてほしいの。お願いだから……だから」

「……わかったよ」

 これ以上説得しても寧子を悲しませるだけだろう。

 俺は寧子の部屋から出た。

「結局、何にもできなかったな」

 美羽に期待させといて説得できないとかダメな男だな。

 その時、学園内にけたたましいほどのサイレンが鳴り響く。

「なんだよ。このサイレン」

 寮内の赤いランプが光っている。

 そして、学園内に放送が流れる。

「学園内に侵入者を確認。生徒は至急学生寮の中庭に集合せよ。繰り返す……」

「侵入者?」

 どうやら何かが学園の中に入ってきたようだった。

 でも、どうやったら入れるんだろう。

「それよりも、中庭に集合だよな」

 俺は、中庭に向けて走って行った。

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