放課後の保健室
この回は、寧子視点です。
私たちは、ウミ君とミサちゃんの後を追って演習場に来た。
「二人ともここに入っていったよね」
「だな。美沙紀が鍵を開けてたしな」
私の上からレイちゃんの声が聞こえる。
「とても……仲が……良さそう」
下からは美羽ちゃんの声が聞こえる。
ちなみに私たちは演習場の扉の隙間から中の様子を見ている。
上からレイちゃん、私、美羽ちゃんの順で並んでいる。
「何話してんだろう」
「耳でも立てるか?」
レイちゃんが提案する。
確かにその提案はいいかもしれない。
「そうしよう」
私たちは、それぞれ耳と尻尾を出した。
そして、扉に向けて耳を当てた。
「……だよ!ここで着替えるんじゃなくて別のところで着替えろよ」
微かに二人の会話が聞こえる。
何かいけない会話をしている気がする。
「着替えがどうのこうのとか言ってんな」
レイちゃんがウミ君の代わりに代弁する。
扉の隙間から覗くと、ウミ君がこちらに向いていて、その向こうでミサちゃんが着替えていた。
「え?何あれ。なんで着替えてんの」
「いや、なんか他に着替える場所がなかったみたいだぞ」
レイちゃんが答えてくれる。
それにしても二人とも近くない。
もう少し離れてもいいと思うんだけど。
「あれ、そういえば美羽の声が聞こえないんだけど」
レイちゃんの言う通り、耳と尻尾を出してから美羽ちゃんの声が聞こえない。
私は下を見る。
そこには、顔を茹でだこのように真っ赤にした美羽ちゃんが倒れていた。
「嘘!?美羽ちゃん、大丈夫!?」
「大……丈……夫……だか……ら……」
そう言って、美羽ちゃんは気を失った。
まるで熱があるように身体が熱かった。
「レイちゃん、私、美羽ちゃんを保健室に連れていくね」
「おう、こっちはうちに任せとけ。後で何が起きたか言ってやるから」
「うん、ごめんね」
私は美羽ちゃんを抱えて、廊下を走った。
美羽ちゃんの身体はほんとに熱くて、とても軽かった。
私は保健室の扉を開けると、美羽ちゃんをベッドに寝かせて水道にあった桶に冷たい水を入れた。
そして、戸棚からタオルと体温計を取り出して、美羽ちゃんのところに行った。
「あ……寧子……ちゃん……」
「気がついた?驚いたよ。下を見たら倒れてたんだもん」
「ごめん……ね。迷惑……かけちゃ……た」
笑顔で話す美羽ちゃん。
でも、私から見たらその笑顔はとても無理しているように見えた。
「とりあえず、体温計で熱測って」
「うん……」
美羽ちゃんは起き上がって私が持っていた体温計を受け取って脇に入れる。
私はタオルを桶に入った水で濡らして絞る。
その間に体温計が音を鳴らして測り終わったことを教えてくれる。
「どうだった」
美羽ちゃんは脇に入れた体温計を取り出し、モニターを見る。
「三十……九度……だって」
「高熱じゃん!とりあえず、寝てて」
私に促されて美羽ちゃんはベッドで横になる。
そして、私が濡らしておいたタオルをおでこに置く。
私は、タオルを美羽ちゃんのおでこに置いてから戸棚から薬を取りに行く。
「ねえ……寧子……ちゃん」
「何?」
「寧子……ちゃんは……海斗……君の……ことが……好き……?」
私は持っていた薬を落としそうになった。
熱で頭がおかしくなったのかを疑いたい。
「ななな、何いきなり。どうしたの急に」
自分でも結構慌てているのがわかる。
顔も熱くなっているのがわかる。
「今日……一日……見てて……思ったの」
「今日一日を見て?私、普通にしてたよね」
美羽ちゃんは首を横に振った。
「違う……。今日……寧子……ちゃん……ずっと……海斗……君を……見てた」
「そ、そうだったかな。ちゃんと授業を受けてたけど」
私が反対すると、美羽ちゃんがポケットから何かを取り出した。
美羽ちゃんの手には、ボイスレコーダーが置いてあった。
「美羽ちゃん、このボイスレコーダーって」
美羽ちゃんが小さく頷く。
「聞いて……みて……」
私は、美羽ちゃんに言われてボイスレコーダーを受け取って再生した。
「…………というのは、この世界に存在する…………」
水野先生の声が聞こえる。
話している内容から、今日の授業みたいだ。
「どうしたの、これ」
「撮って……おいたの。撮るの……大変……だった」
まさか、美羽ちゃんがこんなことをするような子だとは思わなかった。
私は内心ショックを受けた。
「じゃあ、ここの問題は……そうだな、美月。答えてみろ」
ボイルレコーダーから水野先生が私の名前を呼ぶ声が聞こえる。
「ぅえ!?は、ひゃい!えーと、えーと、な、なんでしたっけ……」
「美月、ちゃんと人の話しを聞けよ」
これは、私は先生の出した問題に答えられなかった時の音声だった。
ボイスレコーダーはここまでしか撮られてなかった。
「何なの、これ」
「寧子……ちゃんは……この時……先生に……声……かけられる……まで……ずっと……海斗……君を……見てた。どうして……?」
まさか、美羽ちゃんにばれるとは考えもしなかった。
私は手に持っていたボイスレコーダーを床に落とした。
「なんだっていいじゃん」
「何でも……よくない。いつもの……寧子……ちゃんなら……こんなに……挙動……不審に……ならない」
「何でもいいって言ってるじゃん!だいたい、何で美羽なんかに心配されなちゃいけないのよ!海斗のことをどう思ったって私の勝手じゃない!どうして美羽が私のことを心配すんの!?」
自分でも何を言っているのかよくわからなかった。
でも、心のもやもやを取るにはこうしないと取れないと思った。
美羽ちゃんも今の言葉にショックを受けたようで、泣き始めてしまった。
「違……うの……。ただ……私は……寧子……ちゃんに……海斗……君が……好きか……聞きたい……だけなの」
私は奥歯を強く嚙み締めた。
「それがどうでもいいことなのよ!もういいよ!!美羽なんて知らない!!!」
私は持っていた薬を美羽ちゃんに投げつけて保健室を出る。
扉を開けてすぐに何かにぶつかった。
上を向くとレイちゃんが立っていた。
「何々、どうしたんだよ」
陽気に笑ってくる。
今の私にはその行動がムカついた。
「別に、何もない」
そう言い捨てて、私は保健室を走って去った。
すでに外は暗かった。
でも、私は電気を点ける気にならなかった。
暗い部屋で一人でいるのはとても心地よいものだ。
でも、なぜか寂しさが私の心にあった。
「私、何であんなこと言ったんだろ」
冷静になってから保健室の出来事を考えた。
あの時はほとんど感情的になって言ってしまった。
後悔先に立たずって言葉を考えた人を褒めたいと思った。
「でも、今から行って謝っても許してくれるかな」
感情的とはいえ、美羽ちゃんに酷いことを言った挙句、途中で看病を放棄したのだ。
こんな酷い私に美羽ちゃんが許すわけがない。
「ごめんね……。ほんとは……あんなこと……いうつもりじゃ……なかったのに……」
自然と涙が溢れ出る。
視界が涙でぐしゃぐしゃになる。
私は一人で枕を抱えて泣いた。
泣いても泣いても涙は止まらない。
できれば、謝りたかった。
でも、今は一人でこのまま居たい気持ちでいっぱいだった。
月の光がさらに私を暗い気持ちにさせる。
「誰か……私を助けてくれる……王子様とか……いないかな」
そんな現実味のないことを言ってみた。
すると、私の部屋の扉が勢いよく開いた。
「はあ、はあ、はあ……、見つけたぜ、寧子」
そこには汗だくのウミ君が立っていた。
ウミ君は中に入ると、私の前に立って手を差し出した。
「今から俺と美羽のところに行こう」




