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提案

 実践訓練を終えた昼休み。

 俺は学食に向かっていた。

 クラスメイトとは、馴染めることができたものの未だに俺に近づくことができないみたいだった。

 一人で食べることに慣れているもののクラスメイトから敬遠されているみたいで気持ち悪かった。

「こんな暗い気持ちこそ、何かいいものを食べて明るい気持ちにならないと」

 気持ちを切り替えて、学食に向かった。

 学食が見え始めた時、学食の扉の前で周りを見回している女子を見つけた。

 顔を右左に動かすと、ツインテールも右左に揺れている。

 どうやら、美沙紀が誰かを探しているみたいだった。

「誰を探してんだ」

「ひゃうぅ!」

 いきなり話しかけられた美沙紀は、驚いて尻もちをついた。

「おい、大丈夫か」

「いたた。いきなり話しかけるのはやめてほしいです。驚くじゃないですか」

「悪かったよ。立てるか」

 俺は美沙紀の前に手を差し出す。

 美沙紀は恥ずかしそうに顔を赤くしながら俺の手を取る。

 俺は美沙紀の手を握り、手を引っ張って立たせた。

「今度からは気を付けるよ」

「気を付けてほしいです。それと何も見えてないですよね」

 美沙紀が顔を赤くしながら、スカートの裾を押さえる。

 何が言いたいかその行動でわかった。

「大丈夫だ。何も見えなかったよ」

「そうですか。それは安心したです」

 スカートの裾から手を離す美沙紀。

「そういえば、私は自己紹介をまだあなたにしてなかったですね」

「そうだな。ちゃんと名前を聞いてないな」

「改めて、私は神崎原美沙紀です。珍しい苗字だと思いますが、そこは気にしないでほしいです」

「ああ、よろしくな。俺は出雲海斗だ」

 お互いに握手をする。

「ちなみになんて呼べばいいんだ?」

「できれば名前で呼んでほしいです。不本意ですが」

 顔を逸らす美沙紀。

「そうか。じゃあ、俺のことも名前で呼んでくれ、美沙紀」

 俺が名前を呼ぶと、美沙紀は顔を真っ赤にした。

「やっぱり苗字で呼んでほしいです!かなり恥ずかしいです!」

「お前が言えって言ったんだろ。それに俺も名前で呼んでいいんだからお互い様だろ」

「そ、それは……そうですが」

「それに俺のことを名前で呼んでないのは、たぶんお前だけだぞ」

「え、それはほんとですか」

 少し慌てた表情をする美沙紀。

 たぶん、ツンデレってこういう素直になれない子のことを言うんだろう。

「わかったです。あなたのことを名前で呼ぶので、私のこともその……名前で呼んでほしいです」

「わかったよ。じゃあ、改めてよろしくな、美沙紀」

「こ、こちらこそ、よろしく……です。か、海斗……さん」

 俯きながら名前を呼ぶ美沙紀。

 なんかいけないことをさせてしまった気分になるのはなぜだろう。

「ところで、美沙紀は誰を探してたんだ?」

「じ、実は海斗さんを探していたんです」

「俺を?なんで」

「詳しい話は昼食を食べながらにしましょうです」

 そう言って、学食の中に入っていった美沙紀。

 俺も美沙紀の後を追っていった。

 扉を開こうとした時、背後から不穏な人の気配を感じた。

 俺は後ろを振り向いたが、そこには誰もいなかった。

 気配もすでに消えていた。

「誰もいない?」

 もう一度辺りを見回したが、やはり誰もいなかった。

「気のせいか」

 そして、俺は学食の中に入っていった。

 学食の中に入ると、美沙紀がショーケースをじっと見つめていた。

 俺が近づいているのに気づいたらしく、美沙紀がこちらを向いてきた。

「遅かったですね」

「まあ、ちょっとあってな。それにしても、学食のメニューが多いな」

「ほんとですね。迷うだけで昼休みが終わってしまいそうです」

 ショーケースの中を見回す美沙紀。

「本当にそうなりそうだから、それは言ってほしくなかったな」

「ふふふ、そうですね」

 美沙紀が俺の言葉を聞いて笑った。

 初めて美沙紀の笑顔を見たけど、結構可愛いな。

「どうしたです。私の顔に何か付いてるです?」

「いや、別に何もないよ。それよりも何食うか決めたのか。俺はもう決めたけど」

「待ってほしいです。もう少しで決まりそうですから」

 そう言って頭を抱えて悩む美沙紀。

 本当に決まるのだろうか。

 美沙紀が悩んでから二分。

 ようやく決まったらしく、美沙紀が立ち上がった。

「じゃあ、早く行くですよ」

「お、おう」

 目を輝かせながら俺を急かす美沙紀。

 人が変わっていると感じるのは俺の気のせいだろうか。

 それぞれ受付で注文をして、注文の品を受け取る。

 そして、空いていた席を見つけてそこに座る。

 ちなみに、俺はかつ丼を頼み、美沙紀はうどんを頼んでいた。

「いただきますです」

「いただきます」

 俺と美沙紀は食べ始めた。

 学食とは思えないほど、美味い。

 俺は美沙紀を見る。

「ズル……ズル……ズル……」

 音を出さないようにうどんをすする。

 うどんを吸い込む口元は少し尖らせていた。

 なんかエロいな。

「ん……何見てるですか」

「え、いや、何もない」 

 俺はすぐに美沙紀から目線を離して、かつ丼を食べる。

 変な雰囲気になる前に俺から話しを切り出す。

「そういえば、俺に話しがあるんだっけ」

「そうなのです。実は、実践訓練で海斗さんを見ていて、まだ海斗さんは自分の力をものにしていないと思ったです」

「自分の力をものにしていない、か」

 俺は包帯が巻かれた右手を見る。

 確かにまだ感覚だけで攻撃をしている感があるのは自分自身でも感じていた。

 その結果がこの右手の怪我なんだと思うことも感じた。

「そうです。そこで、今日から放課後は毎日私と二人で自主練をしようと思うです」

「え、放課後に二人きりで?」

「はいです。まず、海斗さんは自分の力の制御を覚えないといけないです。でないと、また今回のような怪我をしてしまうかもしれないです」

 確かに美沙紀の言う通りだ。

 初めて攻撃をしたときは、相手が単体だったからそこまで力を出さずに済んだが、さっきの実践訓練の時は複数で襲ってきたこともあり、余計な力も出してしまったような感じがした。

 そのための自主練はいいかもしれない。

「でも、美沙紀はいいのかよ。俺の為に自分の時間を無駄にしても」

「海斗さん、私は先生から海斗さんの講師をするように言われているです。それに私は、その……あなたのことが気になったのです。だから、海斗さんが力の制御ができるようになるまでは、私とマンツーマンで自主練をしてほしいのです」

「え、気になるって……」

「あ、いや、気になるって言うのは、あなたの潜在能力のことであって、決して海斗さんが思っているような破廉恥なことではないですよ!」

「大丈夫、わかってるから。だから落ち着けって。みんなこっち見てるから」

 美沙紀は我に返って周りを見る。

 そして、みんなが見ているのがわかると顔を赤くして俯いてしまう。

「すみませんです。ちょっと興奮してしまったです」

「いや、大丈夫だ」

 少しだけしょげてしまう美沙紀。

 その姿が小動物みたいで可愛かった。

 でも、確かにあの時、水野は俺の講師を美沙紀に頼んでいた。

 それに俺自身にも美沙紀には借りがある。

 そう考えると、俺には彼女の提案を断る理由がなかった。

「そうだな。確かに、このままだと俺はみんなの足を引っ張るだけの存在になっちまうな。そうなるんだったら、みんなに認められるように強くなりたい。そのためなら俺はなんだってする。それに俺は美沙紀に借りがあるしな。だから、俺は美沙紀の提案に乗るよ」

 そういうと、美沙紀の表情は明るくなっていった。

「ほんとですか?よかったです。断られたらどうしようと思っていたのです」

 今日一の満面の笑みをする。

 俺はその表情に一瞬ドキリとした。

「どうしたですか。顔が少し赤いですよ」

「いや、何にもない。それよりも早く食べないと次の授業に間に合わなくなるぞ」

「ほんとですね。早く食べましょうです」

 俺と美沙紀は、それぞれの昼食を食べた。

「ごちそうさまです」

「ごちそうさま」

 ほぼ同じタイミングで食べ終えた。

 そして、俺と美沙紀は食器を食器置き場に置いて学食を出た。

「お腹がいっぱいになったです。さあ、午後の授業も頑張るです」

「放課後の自主練も忘れるなよ」

「大丈夫ですよ。午後は眠るだけなのでです」

「いや、ちゃんと起きろよ」

 美沙紀と一緒に歩いていると、また不穏な人の気配を感じた。

 俺は後ろを振り向いた。

 しかし、やはりさっきと同じように誰もいなかった。

「海斗さん、どうしたんですか。遅れるですよ」

「いや、何もない」

 俺はもう一度後ろを見て、誰もいないことを確認して美沙紀のところへ行った。

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