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始まり

 六年前、その時まだ小学生だった俺・出雲海斗は、友達と一緒に学校の校庭で遊んでいた。

 とある事情で同じ学校の男子と遊ぶことができなかった俺は、同じクラスの女子とよく遊んでいた。最初は、やっぱり恥ずかしい気持ちが強かった。でも、そんな生活をしていくうちに恥ずかしかった気持ちなんてどっかいってしまっていた。

「今度は何して遊ぼうか」

 鬼ごっこで遊んでいた俺たちだったが、もう二時間も遊んでいたのだ。

「でも、もうすぐ五時になりそうだよ」

 少し大きな丸眼鏡をかけた渚湊がそう言った。

 学校に取り付けられた時計を確認すると、長い針が十と十一の間に、短い針が五の近くを指していた。

「ほんとだ。じゃあ、今日はこれで解散にする?」

 俺は小学生だからこそ、早く家に帰らないといけないことを自覚していたんだと思う。

「待って。さよならする前にみんなでやりたいものがあるの」

 花の髪飾りをつけた美月寧子が帰ろうとしたみんなを引き止めた。

「何……するの?」

 グループの中で一番背の低い小倉美羽が聞く。

「実は、みんなで動物占いをしたいなって思ってたんだ」

 無邪気に笑いながら寧子は言う。

 当時、女子たちの間で占いがとても流行っていた。

 中でも動物占いは、全国の小学生の間で急速に広まった占いだった。

「でも、占いとかつまんなそう」

 普段から占いを見ない俺にとって、占いの面白さがよくわからなかった。

「あはは、あんたみたいな男って占いとかあんまり見てるイメージないもんな」

 褐色の肌を持った御神玲奈が言う。

「大丈夫だよ。男の子でも十分に楽しめるから」

 寧子がにっこりとほほ笑む。

「でも……ここで……やるの?」

「私、今チョーク持ってるからあそこの使われてないバス停に行こう」

 寧子が校庭側の校門の向かいにある寂れた停留所を指さす。

 入り口には立ち入り禁止の文字が書かれていた。

「でも、あそこって危ないから入っちゃダメだってお母さんが言ってたよ」

 湊が言った。

「大丈夫だよ。私なんかあそこでいっぱい遊んでるもん」

 寧子が率先して停留所に行く。

 俺たちもその後をついて行った。

 停留所に張られたロープは、緩んでいたので簡単にまたいで中に入ることができた。

「たぶん、このあたりが真ん中かな」

 寧子は停留所の真ん中でチョークを取り出すと丸い円を描く。

 そのあと、少し離れたところに何か書き始めた。

「何を描いてんの?」

 俺には何を書いているのかわからなかった。

「動物の名前だよ。何匹くらい書けばいいかな」

「十匹くらい書けばいいんじゃないか」

 玲奈の言う通りに寧子は十匹の動物の名前を書いた。

「みんな、あの丸の中に入って」

 寧子に言われるままに俺たちは円の中に入る。

「じゃあ、まず私がやるから見てて」

 そう言って寧子は円の真ん中で目を瞑った。

 そして、目を瞑ったまま歩き始めた。

 あるところまで歩いた寧子は頭を下に向けた。

「私は猫だね」

 そう言って走って俺らのいる円に戻ってきた。

「今見た通り。丸の真ん中で目を瞑って、そのまま歩くだけだよ。そして、ここでいいって思ったところで止まって止まった場所から近い動物の名前が自分がなりたい動物って占いなの」

 淡々と説明をする寧子。

 なんか地味な占いだな。

 まあ、遊び程度で遊ぼうかな。

「じゃあ、誰からする?」

 寧子は俺らの顔色を窺う。

「んじゃ、うちからするわ」

 玲奈が円の真ん中に立ち、目を瞑って歩き始める。

 あるところまで歩いた玲奈が頭を下に向けた。

「おお、うちはキツネか」

 とても満足そうに玲奈が戻ってくる。

「思った以上に面白いぞ、この占い」

「なんで僕に言ってくんの?」

 まあ、唯一の男子だからなんだろうけど。

 そのあとは湊、美羽の順番で占いをやっていった。

 それぞれ、湊はリス、美羽はウサギだった。

 そして、ついに俺の番が来た。

「最後に海斗君の番だね」

「うん、やってくるね」

 寧子に背中を押されて、俺は円の真ん中に立つ。

 立った瞬間、そこだけ違う何かであるような感覚が襲ってきた。

 ちょっとした恐怖を感じながら目を瞑る。

 もちろん、目の前が真っ暗になるのでさらに恐怖が俺を襲う。

(大丈夫だ。落とし穴とかあるわけじゃないんだから)

 何も見えない中、少しずつ歩く。

「男なら、堂々と歩けよ」

「もっと一歩を大きく!」

 外野からの言葉を無視しながら。

 暗い中、歩き続けると白い丸い光が見えてきた。

(この光。これを目指して歩けば)

 光を目指して歩く。 

 少しずつ白い光が近づいていく。

 少しの間歩いたところで光が近づかなくなった。

(ここでいいかな)

 少しずつ瞼を開けていく。

 目を開けると夕日に照らされた学校が目の前に見えた。

 足元には白いチョークで何かが書かれていた。

「僕は……オオカミだ」

 足元には、大きな字でオオカミと書かれていた。

 後ろにいる女子たちの方を向いた。

 寧子と玲奈がこちらを見ながらにやにやしていた。

「な、なんだよ」

「ぷっ、あっははは、いやー、誰かさんにぴったりだと思って」

 玲奈は懸命に笑いを堪えていた。

「オオカミねぇ。…うん、海斗君にぴったりだね」

 意味ありげに言ってくる寧子。

 二人とも明らかに俺の占いの結果をバカにしていた。

「もういいでしょ。それよりももう帰らないとお母さんに怒られちゃうよ」

「そうだね。じゃあ、帰ろうか」

 寧子を先頭にロープをまたいでいく。

 俺がまたいだとき、後ろに誰かの視線を感じた。

 後ろを振り向いたものの誰もいなかった。

(気のせい……かな)

 俺はそのまま帰路に着いた。

 この後、自分の人生が大きく変わることになるとは思いもせずに。


 海斗たちが居なくなった停留所に一人の男が降り立った。

「まさか、あの占いがこんなに広まってるとはね。そろそろ、対策を考えないとあの子たちが中学生になった時には大変なことになるな」

 男が手をかざすとチョークで書かれた文字と円が少しずつ消えていった。

「それにしても、男の子がこの占いをしているとこを見たのは僕でも初めてだよ」

 そう言い残して男は停留所から姿を消した。

「動物占い」

・占う本人がどんな動物になりたいかを占うための占い。製作者は日本国内にいるが詳細までは不明。学園長が製作者じゃないかという噂もある。ちなみに占いとその内容はフィクションである。

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