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drive mail  作者: 犬芥 優希
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九話 一つ目の頼み事

「それで被害者の方達は唐沢に任せるという決断をしたのですね」 再び神谷の部屋へと来ていた。会議の様子を詳細に知らせるためだ。メモを取っていた訳でもないのに、起こったことはほとんど忘れずに覚えていた。前回と違うのは部屋にいるメンバーだ。今回は隣に敬が座っている。そしてその後には由希が立っている。

「ああ、多分そうだ。一人が言った彼に任せるという発言が口火になったんだと思う」

「なるほど。誰か、ですか。その発言をした人物の顔は見てないんですよね」

「顔は見えなかったな。場は騒然としていたし、人も多かったから何処から声が聞こえたのかすら分からなかった」

それがどうかしたのかという手振りをする。

「他の人も同じ心境でしょうね。そういうときに最初に発言をするというのは何気に度胸がいることなんです。周りが同じ気持ちかどうか分かりませんから」彼が言わんとしていることが少し分かった。

「その発言をしたのが明副社の人間だって言いたいのか?」

「あくまで可能性があるに過ぎないですけどね。でもその可能性は高いと思いますよ。用心深いあの会社が唐沢一人しか送ってこないとは考えにくいですから。それに今回の会議は彼らにとってみれば一大ビジネスだから」

ビジネスという言葉にぴくりと反応した。人が何人も死んだというのにビジネスで片付けるのか。少なからず不快に思った。

「何人かいるって推理してたなら、何で行く前に言わないんだよ。知ってれば辺りにも注意していたのに」

「予測なだけで確証はなかったですから。それに、その事を教えることで茂さんが不自然な行動を起こすのを防ぎたかったんです」

「不自然な行動?」思わず聞き返した。

「はい。多分それを知っていたら些細ですが不自然な行動を取っていたでしょう。これは人の心理行動の一つですからどうしようもありません。そしてそれは心理学を専攻している唐沢には確実に気付かれます」

「唐沢か。俺達は会議で彼がやろうとしていることを知っていた。それなのに止めなくて本当に良かったのか?」

あの会議の最中に一言、その男は詐欺師だと言っていれば、唐沢をあそこまで全員が信用する事態にはならなかったはずだ。

「今回の目的はあくまで唐沢に接触することで、彼を止めることではありません。今、焦って行動しても良い結果は期待出来ませんから。それよりもお願いした二つのことはしてくれましたか?」

ホテルに着く前、神谷から二つの頼みごとをメールでされていた。敬が出席するかもしれないと書かれていたあのメールだ。それまではただ会議に参加して欲しいとしか言われていなかった。

「一つ目の頼み事は卒なくこなしてくれた見たいですね」

隣に座っている敬。そしてその後に立っている由希を見て神谷は満足そうに言った。

「まさか由希さんまで連れてくるなんて。これは想定外の、それも良い意味での誤算です」

神谷から頼まれていた一つ目の頼み事。それは敬に状況を説明し、協力してくれるように頼むことだった。

「俺に協力を頼んだのは何でだ?」

父親譲りの、嘘が通用しそうにない眼をしている。

「素直に言えば敬さんの父親が警察関係の人間だったからです」 神谷がその発言をした後、何度も敬の表情を伺った。そんな単刀直入に言って良い物なのかと、内心はらはらした。次の敬の言葉次第では交渉決裂になりかねない。

「良いね。気に入ったよ。それほどはっきり言って貰えるとすっきりするな。ただ、君の要望に答えられるかは分からない。父が捜査状況を親切に教えてくれるとは思えないからな」

「ありがとうございます。そういった判断は敬さんに一存します」 それは暗にいざという時は父親を裏切れと言っているのではないかと感じた。敬はその真意を読み取ったのかどうかは分からないが小さく頷いた。

「ところで、由希さんとはどこで会ったんですか?」

「由希は最初からホテルの会議室にいたよ。俺達が気付いていなかっただけだった」

由希の存在に気付かなかったのも仕方なかったと思っている。彼女は帽子にサングラスという変装をして参加していたからだ。

「私にも出来ること、あるかな?」

由希は神谷に尋ねたが茂も同じ質問を彼女から受けていた。会議が終わり敬と共に席を立とうとした時のことだ。

「もちろんありますよ。宜しくお願いします」

口調こそ違ったが茂がした回答と良く似ていた。

「何で由希は変装なんかしてたんだ?」

「茂を驚かそうと思ってね」 良かった。由希が事故前の明るさを取り戻したように見えて嬉しかった。ちらりと由希を見ると彼女は舌を出してあどけなく笑った。少し恥ずかしくて顔を神谷の方に戻した。一瞬、彼は何かを考え込むような顔付きになっていた。

「由希さんは立ち直った見たいですね。良かった」もういつもの冷静な顔に戻っている。

「うん。いつまでも落ち込んでても仕方ないからね。もう大丈夫」

一応伏線を一つこの話で作ったつもりです。いつ回収出来るか分かりませんが(>_<)

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