表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
drive mail  作者: 犬芥 優希
6/19

六話 明かされる真実

事故から二週間後、やっと神谷の家を尋ねる時間を取ることが出来た。家までの道のりも目的地も直紀に会いに行く時と同じなのに目的としている人物は違う。茂にとってそれは不思議な感覚だった。家を出る前に神谷にはメールを一通送っておいた。「これから会いに行く」という旨のメールを送ったのだが返信を待っている余裕はなかった。今日を逃したら次はいつ時間を取れるか分からなかったからだ。

家の前に着いた時メールが一通届いていることに気付いた。神谷からだった。

「わかりました。鍵は開いているので入って下さい。兄の部屋にいます」

黙って家に入るのはさすがに気が引けたが神谷にもチャイムを鳴らして欲しくない理由があるのかもしれないので、指示に従うことにした。ドアを開ける前に由希にメールを一通送った。

「これから神谷に会ってくる。話の内容は後で教えるから」

由希はあの事故以来、精神的にすっかり参ってしまっていた。学校にも来なく、ずっと部屋にこもっている。何度か家にも行ったが入ることは出来なかった。。そんな由希を心配して何かある毎にメールを送るようにしていた。由希に寂しさを感じさせたくなかった。メールの送信が完了したことを確認すると携帯を

しまい改めてドアを開けた。リビングを通ることなく二階に行けるような造りになっていたので神谷の親に顔を合わせる心配はない。家族が家にいるかどうかも分からないが。

何度も通い慣れていたので、直紀の部屋は簡単に見つけられた。 ドアを二度軽くノックする。

「入って下さい」

その声は二週間前に聞いた少年の声と一致していた。遂に会うことが出来るのか、年下に会うというのに妙に身構えてしまった。

茂は静かにドアノブを捻り中に入った。平常心を装って顔を上げると、一人の少年がこちらの方を向いて座っていた。くっきりとした目、鼻、口の形。髪型こそ坊主ではなかったがその顔立ちは彼が直紀の弟だということを証明していた。直紀の生まれ変わりを見ているようで暫く目を離すことが出来なかった。

「この部屋何も変わってないでしょう」神谷は突然話しを切り出した。

軽く辺りを見回したが、確かにこの部屋は何も変わっていなかった。机の位置もマンガ本の数も落ちている紙屑の場所でさえ生前の直紀の部屋と何一つ変わっていない気がした。

「親がこのままにしておきたいと言っているんですよ。こんなことをしたら余計忘れることなんて出来なくなるのに」

「そうだな」相づちは打ったが、茂は直紀の両親の気持ちも分かる気がした。きっと息子の死を彼等は実感したくないのだろう。自分だってまだ部員の死を認められないのだから。

お茶を勧めるでもなう神谷はさらに真剣な顔付きになった。

「本題に入りましょうか。何から聞きたいですか?」

真実を知る権利を得ることが出来たのだが、何から聞きたいのかと改めて言われると、何処から切り出せばいいのか分からなかった。聞かなければならないことが多すぎたからかもしれない。そんな茂の気持ちを見抜いたのか、何も言わず神谷は話し出した。

「どうやって茂さんに電話を掛けさせたのか、から話しますね」

今思い返すと、そこが神谷と始めて出会った時となる。

「あれは本当に大したことありません。もう気付いていると思いますけど、その直前に来た変なメールを開いたら僕に電話が掛りましたよね?あのメールに変な記号が羅列されてませんでしたか?」

「ああ確かにあった」

「あれはタグというやつです。ホームページを作る時なんかに使う物です。簡単に言うとあれを付けることで機能を追加することが出来るんです。そしてあのメールで僕が追加した機能は強制発信のタグ。と言ってもそんな物騒なタグは実在しません。タグの中には他のサイトにリンク、つまり移動させたい時に付けるタグがあります。本来ならばサイトのURLを入れるのですがその代わりに電話番号を入れるとその番号に電話が掛かることになります。もちろん掛かる電話番号は僕の携帯電話に設定しました。ここまでは分かりますか?」

茂は仕組みについては大体理解することが出来たが、本当にそんなことが出来るのか半信半疑だった。しかし、実際に自分は神谷に電話を掛けた訳だから信じる他ない。だが一つ附に落ちないことがあった。

「一つ聞きたいんだけど、どうしてそんなことをする必要があったんだ。お前が直接掛ければ良かったんじゃないのか?」

あの時神谷は、通話料金をかけたくないとだけ言ったが、何処か釈然としなかったのだ。

「確かに僕は兄の携帯電話を見たので茂さんの電話番号を知っていますし、そうした方が手っ取り早かったでしょう。でも僕にはこの方法を取る理由があったんです」

「理由?」

「僕の武器を紹介したかったんです。僕が使う武器はこれを複雑にした物ですから」

武器という単語が二回も出てきたが、茂はそれが比喩だということ以外、理解することが出来なかった。

「それは何に使う武器なんだ?」ヒントがない以上、闇の中を手探りで進むしかなかった。

「復讐」聞こえるか聞こえないか位の声で神谷は言った。

「復讐か、あの時もそんなことを言ってたな。でも直紀を死に追いやった人物なんて本当にいるのか。あれはただの事故じゃないのか?」

「何で茂さんは事故だと思うんですか?」

「普通に考えればそうなるだろ。この前の事故にしても直紀の事故にしても、哀しんだ奴はたくさんいるけど、得したのは誰もいないじゃないか。わざわざ事故を起こす理由が俺には分からない」

「偶然だとしか思えない」と付け加えた。

「じゃあ、何で僕は偶然の事故を予知出来たんですか?」

「それは分からない。事故以来、色々考えたけどお前が超能力者だってこと以外に答えは見つからなかったよ。お手上げだ」両手を上に挙げて大袈裟に表現した。

「やっぱり茂さんは面白いですね。でも既に二つ間違っています。当然、僕は超能力者何かではありません。ただの一人の平凡な中学生です。そしてもう一つ、これは大きな間違いです。さっき茂さんは事故では誰も得をしていないと言いました」

そこで神谷は大きく首を振って続けた。

「事故を起こすことで、得をした人はいますよ。それも莫大な利益を得た人物が。大人は何故働くのでしょうか?やりがいがある仕事に就けるのはほんの一握りの人達だと言います。ほぼ全員が何かしらのストレスを持って、辞められる物なら辞めたいと思いながら働き続けています。しかし、彼らは投げ出す事が出来ないのです」

「…金か」

「そうです。自分の生活を裕福な物とするため、借金を返すため、家族を養うために彼等は働き続けます。事故を起こしたのも同じ目的なんです」

「でもどうやって事故を起こして金を手に入れる。遺族に対する莫大な借金を負うことはあっても、手に入れることは出来ないだろ」

「それは間違っていません。現にバス会社は倒産していますしね。彼らの大部分は被害者と言えます。電話でも話したと思いますが僕が復讐をしようとしているのはバス会社そのものではありません。その背後にある物です」

「背後にあるもの?あの時二つの事故は何処かで繋がっていると言っていたな。それはどういうことなんだ?俺にも説明してくれ」

「簡単なことです。二つの事故を起こしたのは同一の会社何です。その会社が後ろで糸を引いていました。会社の名前は明福社。僕が復讐する相手です」

「明福社?」茂は復唱した。聞いた覚えがある会社名だった。

「確か、鞄を造っている会社だよな」サラリーマン向けの大容量で浸水を防ぐという画期的な鞄を造ったとして大々的に宣伝をしているのを見ていた。

「鞄屋がバスの事故と何の関係があるって言うんだ?」

「バスの運転手だってサラリーマン何ですから鞄は使いますよ。もちろん、その鞄と事故に直接的な関係はありませんが」

「じゃあどうして突然、明福社なんて名前が出てきたんだ」

「最後まで聞いて下さい。明福社はただ鞄を売るだけの会社ではありません。むしろ、そちらは副業のような物です。会社の名前を世間に広めるのが目的でしょう。そうした方が信用を得やすいですからね。そしてある程度の信用を得たと判断した彼らは最近本業の方を積極的に行なっています。それはお金を整理することです。ある人々のお金をまとめる仕事です」

「金の整理をする?」茂はそんな職業、聞いたことが無かった。

「詳しく説明する前に一つ聞きたいことがあります。最近茂さん家のポストに手紙が入っていませんでしたか。内容は−−−」

神谷が述べた内容の手紙は三日程前に、茂の家に届いていた。

「確かに来てたな。それがどうかしたのか」

「良かった。これできっかけを掴むことが出来ました。その手紙の指示には必ず従って下さい。そこにお金を整理してくれる優しい人が来ますから」その人物を説明するのに神谷は優しいといったが、その時の声色は確実に逆の感情を備えていた。

その後、茂は神谷が知っている情報を教えられた。驚愕の一言でしか表せない内容だった。そして今後取るべき行動も告げられた。とりあえずそれに従うことにした。今はまだ自分の意志で行動出来る段階ではない。俺はまだ事故の表面の部分しか分かっていない。

しかし、その前にどうしても聞いておかなければならないことが一つだけあった。部屋を訪れる前からこれだけは聞いておこうと決めていた。

「神谷、お前はあの事故から俺以外の部員や顧問を救うことは出来なかったのか?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ