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drive mail  作者: 犬芥 優希
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十九話

茂は神谷の家の玄関に立ち、直紀の部屋があった場所を見上げた。

お前が生きていた時もこんな頻度で通ってなかったよな、と部屋の窓に問い掛けた。直紀の家に遊びに来た時はいつも玄関に着くと彼に着いたというメールを送っていた。するとすぐに直紀は自分の部屋の窓を開け、窓越しに五分程度雑談をしてから家に上がるようにしていた。特別な理由が有ったのかわ分からないが、言わば遊ぶ前のウォーミングアップだったのかもしれない。

携帯を取り出し神谷にメールを送った。部屋を見上げるとそれに反応するように窓が開いた。顔を覗かせたのは直紀ではなく弟の方だったがそれでもあの時のことが再現されているようで嬉しかった。

「入って下さい」

「メールで返事が来ると思ったよ」

少し高さがあったので喉を震わせ声を大き目に出す。

「この前、茂さんに電話しちゃったので節約しているんですよ。もう由希さん来てますから早くして下さい」

気だるそうに神谷は言う。あまり大声で話すと親に聞かれる心配があったのかもしれない。だからそれ以上は言わず、いつものようにチャイムを押さずに家に入った。これもまたいつもと同じように出迎えてくれる人はいない。

部屋には神谷と由希、二人の姿があった。二人は知らない間に距離を縮めたらしい。今、部屋に入った時も談笑をしていた。

「邪魔だったか?」少しからかってみる。

「何言っているんですか。早く座って下さい」

雑に座布団を投げつけてきた。それを受け取り下に置くと荒く着席した。

「敬はまだ来ていないみたいだな」

「そうですね。メールの返信は来ましたか?」

「あれから一切連絡はないよ」

「そうですか。じゃあ、とりあえず始めましょうか」

口にこそ出さないが神谷も敬が来ない可能性も考慮しているようだ。

「瀬良っていう家についても調べてあります」

訪ねる前に家の住所は教えていた。

「教えてくれ」

「あそこは空き家になっていました。家の持ち主の瀬良一家は夜逃げしたらしいです。だからいまあそこの家はもぬけの殻。小中学生の溜まり場になっているみたいです」

空き家か。では瀬良という人物は今回の事故には関係していないようだなと茂は考えた。

「どうやって調べたんだ」

「友達に調べてもらいました。ネットの中のですけど」そう言いながらパソコンを指差した。

「それって信憑性あるのか?ネットの世界って間違った情報多いんだろ」

「そうですね。だから全てを鵜呑みにしてはいけません。ある程度の取捨選択をする必要はあります。ただ今回の情報は信憑性があると思いますけど」

どうやら詳しく説明する気はないようだ。

「じゃあ、あそこで亀谷と唐沢が密会をしていたって可能性もある訳か」

「その可能性は高いと思います。この大切な時期に他の人物と会う可能性は低いですし。他に仲間がいるっていうなら別ですけどね」

他の仲間。あの時見た人影を思い出した。確かにあの時人影は三つあった。

「もし唐沢と会っていたなら尾行をあの時点で止めたのはもったいなかったんじゃないか。何かしらの情報を得れたかもしれないし」

「その後の尾行は敬さんに任せたから大丈夫だと思います」

神谷が敬を信用しているのか分からなくなった。今の口振りを見ると敬が来る物だと信じきっている様に見える。

「僕達が行った海里の方がどうなったのか話しましょうか」

「ああ、頼む。結構話しは聞き出せたんだろ?」

「はい。海里が事故に関与していたことは確信出来ました。そこでちょっとトラブルがあったんですけど」

「トラブル」

「ちょっと私が手出しちゃって」

いつの間にか正座になっていた由希が恥ずかしそうに言う。

「由希さんがやっていなかったら僕が同じことをしていたと思いますから彼女を責めないで下さい」

「責めるも何も状況が分からないからな。それで、海里を怒らせちゃったのか?」

海里が暴言を吐いたのだろうが、由希はともかく神谷まで熱くなるのは予想外だ。

「僕ももう情報を聞き出すのは無理になったと思いました」

「思いましたってことはそうはならなかったのか?」

「ええ、まあ。彼は話を続けてくれました」

「どうしてだ。俺達に話をメリットが彼にあるとは思えない」

「メリットはありません。ただ事前に多少の脅しはしましたし、それに何より海里は唐沢のことを恨んでいるようです」

「恨んでいる?」それは考えていない展開だった。

「どうやら唐沢はバス会社から巻き上げた慰謝料の分け前を約束の半分しか海里に渡していなかったみたいです。その後、一切連絡も取れなくなったみたいで」

「それで海里は唐沢を恨んでいるのか」

「はい。だから色々と情報を教えてくれました」

その後、神谷はどのようにして唐沢達が慰謝料を巻き上げたのかの説明をした。

「方法は簡単な物でした。バス会社側には慰謝料を払う必要性はある訳ですから。唐沢達は自分達が代表者だということを納得させれば良いのです。自分達にまとめて払えば事は終わるという証明です」

「それにしても、遺族達が唐沢に一任したのは事実だから何の問題もないのか。証明出来る物も揃えているだろうし」

「その通りです。本当に良く出来ていると思います。僕達はこれから何をすれば良いと思いますか?」

何も思い浮かばず、切羽詰まって意見を求めているのでは無いようだ。おそらく神谷は既に自分の中で一つの考えは持っていて、他人の意見を参考にすることでその考えの基盤を固めるつもりなのだろう。

「出来ることは少なくとも二つはあると思う。まず遺族達に騙されていることを伝える。それはいずれする必要があることだしな。もう一つは亀谷に海里がされたことを密告する。分け前を誤魔化される恐れがありますよってな。これは効果があると思う」

「内輪揉めを狙うのですね。僕の考えとほとんど同じです」

一応合格点はもらえたのかとほっとしている自分がいることに気付いた。神谷からの信頼を信じているならばそんな気持ちにはならないはずなのに。

「遺族達は唐沢を信じきっています。それを崩すには骨が折れるでしょうね。亀谷に伝えるにも僕達はまだ彼に尾行という形ではなく直接、接触する方法すら手に入れていません。何にせよ、時間はかかるでしょうね」

「ところが、そんな時間はないみたいだぞ」

部屋の入り口に敬が立っていた。来ない可能性の方が高いと思っていた茂は驚いた。

「どういうことですか?」

敬が登場したことにも神谷は驚いていない様だ。冷静に対処している。

「それをやるには慰謝料を巻き上げる前に終わらせる必要があるだろ。ところが唐沢達はその作業を明日実行するらしい。もう時間はないだろ?」

「ないだろってそんな他人事みたいにいうなよ」

「もう他人事だよ。俺は別に復讐が成功しようとしまいとどっちでも良いしな。どうなっていくのかを見届けたいだけだ。こっから先、俺はただの傍観者になる」

「そうですか。でもその前に潜入した後、どうなったのか教えてもらえますか?」


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