十八話
すぐ後にあった電信柱に体を預けた。円形の電信柱は寄り掛かりにくい。
敬はもう見える範囲にはいなかった。瀬良家の庭に潜んで会話を聞こうとしているはずだ。彼の後を追うことは出来なかった。頭の片隅に慎重に行動して欲しいという言葉が残っていたからだ。
一瞬、神谷が言ったのは慎重に行動しろだったか余計なことはするなだったか分からなくなった自分がいた。
キャプテン失格発言にしろ先程の発言にしろ敬の言葉で心はだいぶ傷付けられていた。
このまま神谷の言うことを聞いているだけで良いのかと悩んでさえいる。
突然ポケットに入っている携帯電話の振動が全身に伝わった。どうやら電話のようだ。最近この携帯に掛けてくる人物は神谷しかいない。
「はい」
「僕です。今、海里の話を聞き終えました。そっちはどうですか?」
どうやら神谷側には大きな収穫があったようだ。声に明るさが含まれている。
「亀谷の尾行には成功した。今、彼は瀬良という表札がある家に入って行ってそれを待っている状態だ」
「瀬良?知ってる家ですか」
やはり神谷も知らない家のようだ。
「いや、俺も知らない」
「そうですか。一回僕の家に集合しませんか?住所が分かればその家のことも少しは分かると思いますから」
無理してでも探れとは言わないのか。
「余計なことはするな」また敬の言葉が脳裏に浮かぶ。
「どうしました?」
「何でもない。分かった、これから行く。でも敬は多分来ない」
敬のことを言うべきか迷った。
「どういうことですか。一緒じゃないんですか?」
「話を聞くって言って庭の方に一人で行った」
「そうですか。茂さんは一緒に行かなかったんですか?」
「亀谷達に見つかる可能性が高いと思って行かなかった」
友達の悪さを先生に報告する中学生の様な気分になっていた。先生の説教を避けるために弁解をする中学生だ。
「分かりました。とりあえず敬さんにも後で部屋に来るようにメールをしてもらえますか?」
勝手な行動をした敬を非難はしない様子だ。了承すると電話を切った。
携帯の画面に目を向けた。通話料金は請求されていなかった。今回は本当に神谷が掛けて来たらしい。そのままメール作成の画面を開き敬宛のメールを作成した。送信を終えると携帯をポケットに入れ来た道を引き返した。途中、瀬良家の庭を見ることが出来た。
自然と敬の姿を探していた。何処かに身を潜めて中の会話をどうにかして聞こうと躍起になっているはずだ。
庭はそれほど広くなかった。今立っている位置からも充分、全体を見回すことが出来る。
しかし敬の姿を見つけることは出来なかった。庭のどこにも彼はいなかった。
彼は確かに庭で話しを聞くといった。他により良いと思われる場所を見つけ潜んでいるのか。そんな穴場があるとは思えなかった。
それがどういうことを指すのか考え立ち止まり、庭に面している窓に目を向けているとカーテンの隙間から一瞬だが人影が見えた。
その人影は全部で三つあった。