十四話
茂と敬は公園のベンチに座り、コンビニで買ったおにぎりをほお張っていた。
そのベンチからは亀谷が住んでいるマンションの彼の部屋を見ることが出来る。
監視は昨日からずっと続けていた。昨日は全くというほど何も起こらなかった。カーテンの開閉や漏れ出る明かりから判断するに亀谷は家にはいるようだった。しかし一度も部屋から出てこなかった。
「気付かれているのかな?」
ここまで行動が無いと茂が不安になるのも無理なかった。
「今はバス会社から金を巻き上げる大切な段階だろ。きっと慎重に動けって唐沢に言われているんだろ」
丸一日二人きりで一緒にいればする話題だって尽きるものだ。二人は用が無い限り話し掛けないようになっていた。
「ちょっとトイレ行って来るわ」
敬はそういうとベンチを立ち、近くの公共トイレに行った。
噴水がある結構大きな公園だったので子供をつれた家族で公園は賑わっている。無邪気にボールを追いかける少年を茂は目で追いかけながら考え事をしていた。
それは今頭の中にある疑問を敬にぶつけても良いのかどうかということだ。今までその話題を敬としたことは無かった。何となくそれは自分達の中ではタブーになっている気がしていた。
敬がトイレから帰ってきた。茂は敬を呼んだ。
「亀谷に何か動きあったのか?」
「いや、そうじゃいんだけどさ。一つ質問しても良いか」
敬は双眼鏡から目を離した。
「なに?」
「何で敬、部活来なくなったんだ?」
敬がバスケットに着いていけなくて来なくなったのではないことは茂は分かっていた。敬は体力もあったし、バスケットも名門校に行っても通用するくらい上手かった。来なくなる前は練習を一度もさぼらない茂と同じ正規のバスケットボール部員だった。
敬の表情が険しくなる。
「何でそれを今更聞くんだよ」
迫力がある声だった。
「何となく聞いちゃいけないものなのかと思ってたから」
「お前さ、やっぱりキャプテン失格だよ」
突然言い放たれた通告に茂は動揺し、何も言い返せなかった・
「他の部員はやる気が無いとか文句言ってたけどさ、ちゃんと部員に目を向けたことあんのかよ」
「あるさ。どうすれば皆やる気を出してくれるのか必死に探していた」
「じゃあ、何で部員内の人間関係も把握しきれてないんだよ」
「お前もしかして・・・」
次の言葉が続かなかった。
「多数決の原理なんだよ。どんな悪事でも過半数が認めれば許される。だから俺らあいつらからされたのは嫌がらせじゃないんだろうな」
「敬、俺本当に気付いてなかった」
「同情するなよ。別に俺はそれが苦になって行かなくなったんじゃない。精一杯やる理由が見つからなくなっただけだ。だから最後までやり遂げたお前とマネージャーは凄いと思っている」
その時マンション側に動きがあった。部屋のドアが開き、亀谷が出てきた。
「近寄るぞ」
敬の指示に茂は従う。
「一つ言っておく」
敬は走りながら振り向いた。
「俺は、部員達を恨んでいた。そして多分、今もな」