十一話 共犯者
神谷はパソコンを起動してからずっと画面と睨めっこを続けている。放っておけば一日中でもやっていそうな、そんな集中力を辺りに放出していた。
茂は何度か話しかけたが返答は期待出来なかった。すっかり自分の世界に入ってしまっている。
しばらくかかるようだったので神谷がパソコンをいじっている間、三人で話をすることにした。
「茂。俺達にも詳しい話を聞かせてくれよ。分からないことばかりだよ」
「ああ。そのつもりだよ。そうだな…じゃあ明福社の狙いについて、から話そうか」
全て神谷の部屋に初めて言った時に聞いた話だ。
「明福社の狙いは大金を手に入れる。それだけなんだ。金を手に入れるために、明福社がするの事は全部で三段階ある」
茂は一度話を切り、話す内容を頭の中で整理した。
「一段階目。事故を故意に起こす、これが全ての始まりだな。二段階目は二人とも見た様に被害者の会に名乗り出る事だ。それに成功したら第三段階に移行する」
「じゃあ、明福社は既に第二段階、半分以上達成しているのか。時間はそんなにないんだな」
「そうなるな。第三段階は至って単純。バス会社から全員分の慰謝料を巻き上げてとんずら。それだけだ」
話終えると茂は二人を見た。自分の知っていることはほとんど話終えた。
「そんなの酷い。それって詐欺だよ」
「そう。唐沢は詐欺師と言っても過言じゃない。鞄のセールスマンというよりはそっちの方がしっくり来るしな」
「そこまで分かっていて何でとめないんだよ」
苛立ったように敬が茂に詰め寄る。
「ここで問題。どの段階で唐沢を止めるのが最善だと思う?」
茂は落ち着き払っている。彼も神谷から話を聞いた時、同じ感想を持ったからだ。
「どれでも変わらないだろ」
「いや、変わるよ。質問を変えようか。俺達の復讐の相手は誰だと思う?」茂は淡々と話し続ける。
「唐沢がいる明福社だろ?」
「半分正解。でも不十分だ。復讐の相手は他にもいる」
茂は人差し指を立てた。
「バス会社の中にもう一人潜んでいるんだよ」
この発言には由希はもちろん敬でさえも驚いた様だ。その証拠に二人とも絶句している。
「そもそもおかしいと思わないか。二件も連続してバスの転落事故が起こっているんだ。偶然な訳が無い」
直紀達、剣道部の事故とバスケ部の事故。二つの事故を起こしたバス会社は違うのに明福社によってそれらは繋がっている。神谷は茂にそう言っていた。
「そうか、分かったかもしれない。二つの事故は指示を出す唐沢と実行役のもう一人の共犯ってことなのか」
「それも半分正解だ。共犯者はいるけど一人じゃない。一人目の共犯者は会社の倒産でリストラされてるんだ。分け前で生活を送ってるんだろうけどな。つまり二度目の事故の実行役は別の人間なんだ」
神谷がパソコンを操作するキーボードの音だけがしばらくこだました。
「そんなに都合良く共犯者が見つかる物なのか?」
その疑問は茂も最初持ったが、神谷の明快な説明を聞くとたちまちに解決した。
「最近のバス会社の現状って知ってるか?」
「どうって、別に普通じゃないのか」
「俺もそう思ってたんだけどな。あんまり思わしくないみたいだ」
ガソリンの値上がりが主な理由だと神谷は言っていた。
「だから?」
「バス会社は生き残るために節約しないといけないと考えた。でもまさか、ガソリン代を節約する訳にはいかない。そうなると削れるのは人件費しかないんだよ」
「あ」敬は気付いた様だ。
「そう。自分がリストラされるって分かったら誰だって必死になるだろ。それこそどんなことだってすると思う。でもリストラは免れられそうにない。そんな時に大金が転がり込む話があったら乗ったって不思議じゃないだろ?」
「バス会社にも恨みがあるはずだしね。だから唐沢さんは共犯者を簡単に見つけられたんだ」
その発想はなかったと茂は少し驚いた。
「そう。だから俺達の復讐の相手は唐沢がいる明福社と共犯者がいるバス会社の二組なんだ」
「じゃあ、俺達が唐沢を止めるのは第三段階の時なんだな」
茂は小さく頷いた。どうやら敬はすっかり理解した様だ。由希はまだ分からない様子できょろきょろしている。詳しい説明を待っているのかもしれない。
「唐沢がバス会社から金を奪い取って山分けする前、その時が一番唐沢にも共犯者にも被害を与えらるんだよ」
茂の代わりに敬が説明した。理解したのかしてないのか、由希は曖昧な表情をした。
「皆さん、ちょっと見て下さい。」
ずっとパソコンを操作していた神谷が声を出した。
三人ともパソコンの前に移動し、画面を覗き込む。
「やっと唐沢の携帯に侵入出来ました。今、彼の通信履歴を見ていたら良く連絡を取っている二人の名前が特定出来ました」
パソコンの画面には鈴木高義と亀谷信太郎という二人の名前が表示されている。
「亀谷とは今も連絡を取り続けてる様ですが、こっちの鈴木っていう人との連絡は大体二か月位前で途切れています。どういうことか分かりますか?」
二か月前、茂が覚えている一度目の事故が起きた日と一致した。
「鈴木は一度目の共犯者、亀谷は今回の共犯者だな?」
「その通りです。唐沢がバス会社から慰謝料を取るまで時間があるはずです。情報収集も兼ねて、彼等に接触して見ませんか?」
「面白そうだな。でも唐沢に感付かれるかもしれないんじゃないか?」
自分のことを調べている人がいると彼等から唐沢に伝えられたら今後動けなくなる恐れがあった。
「その可能性はあります。だからまだ唐沢と繋がっている亀谷は監視をするだけで接触はしません。鈴木にしても何かしらの手は打つので大丈夫です」
「またdrivemailで、か」
「そうですね。どうかしましたか?」
「鈴木達に接触するのは分かった。やり方も神谷に任せるよ。でもさ、そろそろどんなプログラムなのか教えてくれないか?」
茂達三人はdrivemailというのがプログラム名だということ以外何も聞かされていなかった。
「話がややこしくなるので避けてたんですが、もう教えても良い時期なのかもしれませんね」
そう言うと神谷はパソコンの画面を別の物へと切り替えた。
展開が遅くてすいません。。。