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「あーっと、あのさ、ちょっと…話っていうか…、お願いっていうか…」
「なに?なんでも言って」
「…なんでも…?」
「もちろん。佐久間のお願いならなんでも聞いてあげる」
「じゃあ俺の下駄箱壊さないで」
微笑む宮井に後押しされ、言いたいことを直球で伝えた。そろりと顔を上げると、いかにも驚愕してますといった表情の宮井がいた。
「あの、宮井…?」
「ごめんもう一回言ってくれる?」
「だから、俺の下駄箱殴って壊すのやめて欲しいんだけど」
一向に驚愕から立ち直らない宮井の様子に、もしや宮井が犯人ではなかったのかと一瞬不安になったものの、みっくんのお墨付きだしなぁと考えを改めた。
「…いつ?」
「え?」
「いつ殴った?」
小さく紡がれた声を拾い取れず反射的に聞き返すと、表情の戻らないまま再度問い掛けられた。あぁそうか。
「誰の下駄箱かなんて気にしてないよな…。えーと、先週と先々週と先々々週…?あれこんな言葉あったっけ?」
「あると思うよ」
「そっか…」
どうでもいい疑問に素早く返答したあと無言で考え込む宮井に対して、どうすることも出来ずに途方に暮れる。ふと足元を見れば一匹の蟻がふらふらと歩んでいたので、それを目で追いながら時間を潰した。右にいき左にいき、行きつ戻りつしていた蟻が見えなくなるほど遠くまで行ってしまったところで、ようやく宮井が顔を上げた。
「佐久間、ごめん。知らなかったとはいえ迷惑かけたよな」
「あ、うん。いや、いいんだけど」
「お詫びに、なんかおごるよ。おごらせて。ね?お願い」
「いやいや。それほどのことじゃないしいいよ」
「でもそれじゃ俺の気が済まないし。ね?」
「んー、じゃあ…おごられようかな…」
「決まり!じゃあ土日のどっちか、ゆっくり出来る日にしよう。どっちがいい?」
「え?土日?」
「うん。どっち?」
「えーとえーとじゃあ土曜日…」
「じゃあ明日ね。朝迎えに行くからさ。連絡先教えて」
急展開についていけず、よくわからないままに宮井と連絡先の交換をした。俺が王子の連絡先を登録することになるなんて、一体なにがどうなってるんだろう?首を傾げる俺を残し、宮井は機嫌の良さそうな表情で足取りも軽く去っていった。
まぁとにかく、これで俺の下駄箱が悲劇に見舞われることはもうないだろう。一つ大きく頷くと、みっくんに手柄の報告をするべく、駆け足でその場を後にした。
続く
誤字等ご容赦ください。