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みっくんの命令により放課後の張り込みを始めて一週間。さすがに飽きてきた。下駄箱の扉と見つめ合うだけの2時間なんて飽きて当たり前だ。むしろ今までよく堪えたと自分を褒めてやりたい。
ってゆーか、ここまでぴったり張り付いてたら、誰も近づかないよな。
自分にそう言い訳をして、ゆっくりその場を離れた。それでも帰るわけにもいかないし、行くところもないので、この数日微妙に気になっていたことを確認すべく行動を起こした。
昇降口の一番端から、徐に下駄箱の数を数える。毎日たくさんの下駄箱に囲まれて、一体いくつあるのだろうと密かに気になっていたのだ。全校生徒が600名くらいだったと思うのでそれ以上はあるはずだ。縦×横でおおよその数字は出せるが、一つ一つ数え上げることにこだわりじりじりと横へ動きながら、顔を上下へ動かし脳内で数字を積み上げていった。
構造上の問題で、他の列と数の違うところがあり、中途半端なところでキリのいい数字になるので気を抜けない。ちょうど300を数えたところで、忘れないようにその扉に手を置き一息つく。意外と首が疲れるな。大きく息を吸い込んで気合いを入れると、再びカウントアップを始めた。
カタッと小さな音がした。その音に気を取られた瞬間、積み上げた数字が一気に砕け散った。視線を泳がせてしまったせいで、どこまで数えたのかも分からなくなった。なんてことだ!せっかく300番台までいったのに!誰だよ邪魔したのは!
「あの…」
突然声がして、挙動不審にあたりをキョロキョロと見渡す。どうやら、一列向こう側に人がいるらしい。ようやくここに自分がいる理由を思い出し、向こう側は、自分の下駄箱のある列だなと考えていると、ここ数日ですっかり聞き慣れた、愛の告白シーンが始まった。またか。
「俺のどこが好きなの?」
「あの、最初に見たときからカッコイイなと思ってて…」
「ごめん無理」
えー!自分から聞いといてぶった切った!どんだけ!女の子の走り去る足音が完全に聞こえなくなるのを息をつめて待っていると、ガンっと、勢いよくなにかを叩くような音が響いた。叩いた?なにを?
男がゆっくりと歩み去るのを気配で確認してから急いで自分の下駄箱を確認すると、4度目の悲劇に見舞われた可哀相な扉を発見して泣きそうになった。
「で、誰だったの?」
翌日、みっくんに事の次第を報告すると、至極もっともな疑問を返された。
「さぁ?」
「見てないの?」
「声は聞いた」
「意味ない!」
だってあの雰囲気で出て行けないよ。ピリピリした空気がこっちまで伝わってきた。
「で、殴った理由はなんなの?」
「それがわからないんだよね」
「告白されてたんでしょ?」
「うん。普通の告白シーンだったよ。あ、でも…」
「なになに?」
「どこが好きなの?って自分で聞いたくせに、無理とか言ってぶった切ってた」
「なにそれ?」
「さぁ?普通そんなことする?」
「俺はしない。その場でどこが好きかなんて聞かないし、聞いたからには最後まで聞くね」
「だよねー」
「それにしても、同じ奴が犯人なんだとしたら結構なペースで告白されてることになるよね」
「そうなの?」
「同じ状況で、殴ってるんだとしたらそうだろうね。だとしたら…」
そうか。そうだな。大体週一ペースってことか。それはすごいな。
「犯人わかった」
「え!なんで!誰!?」
「宮井だよ。うちの学校で、そんなに告白される奴って言ったらアイツしかいない」
「宮井?」
「こないだすれ違ったろ?」
「…あぁ。王子様!」
「そうそう」
「アイツか!顔知らないけど!」
「見てこい。ついでに声も聞いてこい。そしたらはっきりする」
続く
誤字等ご容赦ください。