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朝、いつも通り遅刻ギリギリの時間に登校すると、下駄箱の扉が壊れていた。
「で?なんで壊れてたの?」
行き場のない怒りを友人のみっくんに語っていたら、そんな質問をされた。
みっくんはかわいい。決してナヨナヨしているわけではなくて、中性的な…例えるなら図書室で、オレンジ色の夕日を受けながら静かに読書をするような…そんなシチュエーションがぴったりな男だ。ただし、見た目だけ。
言われてようやくそんな疑問に行き着いた。なんで壊れていたんだろう。
「…俺が知るかよ。朝来たらべこーんってへこんでたんだよ」
「なんか恨まれるようなことしたんじゃないの~?」
「たとえば?」
「購買で最後の一個を横取りしたとか誰かの恥ずかしい秘密をばらしたとか人の彼女を盗ったとか?」
「…みっくんならともかく、俺はそんなことしない」
「それもそうか」
みっくんの可愛さは見た目だけ。中身はとんでもない小悪魔で、普段は猫かぶっているから皆知らないが機嫌の悪いときにうっかり近付くと、とばっちりで酷い目にあうのだ。
あっさり納得したみっくんに複雑な思いを抱きつつ、お昼を過ぎ放課後を過ぎ、数日も過ぎたころにはそんな出来事も忘れていた。問題の下駄箱も、翌日には校務員さんの鮮やかな技術により新しい扉へと交換されていたのだから。ところが…。
「また壊れてたの?」
そーなのだ。俺の下駄箱の扉は、つい一週間ほど前と同じように、べこんとへこんでいた。
「俺がなにをしたっていうんだ!」
「うーん。なにかしたんだねきっと」
「みっくーん慰めてよー」
「ホントに心当たりないわけ?」
「ない」
「じゃあ張り込めば?2度あることは3度あるって言うし」
一理ある。こんなこと、3度あっては堪らないが念のため張り込むことを決意した。
朝練を行う運動部員に紛れて登校し、再び綺麗に取り替えられた下駄箱の蓋と見つめ合うこと一週間。3度目の悲劇が訪れた。
「またぁ?」
「…また」
「張り込んでたんじゃないの?」
「張り込んでたさ!頑張って早起きして、ひたすら張り込んだのに!」
「朝だけでしょ?」
「だって夕方は見たいテレビがあるし…」
「アホか。気合いが足りん!夕方も張り込め!」
「だってテレビがぁ」
「録画しろ!」
「うぅ…」
「まさかと思ってたけど3度目があるなんてね…ふふふ」
みっくんの好奇心に火が着いた。といっても協力してくれるわけではない。友人と言う名の駒となった俺は、毎日放課後の2時間を張り込みに当てることを義務付けられたのだった。あぁテレビが…。
放課後の張り込みを始めて数日、下駄箱付近は愛の告白のメッカであることを知った。
「そんなことも知らないの?放課後の下駄箱なんて定番じゃん」
「そうなの?」
「まぁヒロには縁がないから知らなくてもしょうがないか」
憐れむような視線をみっくんから向けられ、俺は内心ぷんぷんと怒りながら移動教室のため席を立った。
「あ、宮井だ」
「んぁ?みやい?」
「え!宮井知らないの?」
「知らん。だれそれ?」
「王子じゃん!うちの学校の。ほらそこにいる男前」
みっくんの白くて細い指の先を、つつつーと辿っていくと、意外と近くに人がいて思わずのけ反った。みっくん声でかいよ!
慌ててみっくんの腕に飛び付くと、無遠慮に相手に向けられていた指を下ろした。人を指差しちゃいけません!お互い歩きながらの行動だったので、結局噂の王子様の顔を見ることなくすれ違ってしまった。
「みっくん!あんなに近くにいたのになに考えてるの!」
「えぇ?聞こえちゃいないよ」
「それに指差したりして!」
「俺、アイツあんまり好きじゃないんだよね。ちょっとモテるからってすました顔しちゃってさ」
それって八つ当たりってやつでは…?
「ねぇ、俺のほうが可愛いよねぇ?」
「知らないよ。さっきまで名前もしらなかったんだから」
「顔見たでしょ?」
「みっくんのせいで見てない。それより、いつまでもそんな態度だとファンが泣くよ」
そーだった、と突然悩殺スマイルを振り撒きはじめたみっくんに隠れてこっそり深い息を吐きつつ、宮井王子様という存在を好奇心のカテゴリーへ放り込んだ。
続く
誤字等ご容赦ください。




