3.見つかる
「ふぅー……」
深呼吸をして、息を整える。
久しぶりに思いっきり走った。
別にどうせ、いつか見つかるから逃げても無駄だってことは、分かっているけれど。
もしかしたら、このままいつも通り過ごせるかもしれないと思ってしまった。
それに、あの場で彼等に話しかけられでもしたら、大変なことになる。即、イジメだ。
それだけは避けたかった。
ゆっくりと廊下を歩き、教室の前にくると、なんだか中が騒がしい。
時折、女子の悲鳴のようなものも聞こえる。
なんだろう?
……嫌な予感がする。
その予感はすぐに的中する事となった。
私が教室に入ると、中に居た生徒達の視線が一気に私に注がれた。一部の女子からは明らかに嫉妬の目を向けられている。
そして、教室の中心に居たのは───……
「あ!奏ちゃん」
「おー、やっと来たー」
笑顔で私の名前を呼ぶ、〝王子″。
そして私を思いっきり睨むその取り巻き。
私の高校生活終わったな。
ふっとそんな考えが頭を過った。
ニコニコと手を振っているのは生徒会庶務。
欠伸をしながら、机の上に乗っているのは生徒会会計。どちらも私と同じ、一年だ。
できれば、この場からダッシュで逃げたかった。
そのくらい周りの視線がすごく痛い。特に女子。
な、何でこんなことに……
ずんずんとこちらに向かって来る2人に思わず、後ずさる。
「じゃぁ、行こうか」
躊躇なく私の手をとる生徒会庶務。
悲鳴を上げる女子生徒。
や、やめてくれ……!
そんな私の様子を面白そうに眺める生徒会会計。
キッと私が睨むと、さらにニヤニヤと笑っている。
「大丈夫ですかー?“魔女”サン」
「………」
その後、半ば引きずられるようにして連れてこられたのは、生徒会室。
中に入った途端、無理やりソファーに座らされ、両脇を会計と庶務に挟まれた。絶対、逃げられない。
「どうぞ」
出されたお茶を一口飲む。
……さて、どうしよう。
逃げるのは無理だし……しらばっくれる?
でも、表示された「魔女」という文字が事実を証明している。
「はぁー…」
今日何度目かも分からない溜息を吐く。
すると、
「初めまして、魔女さん。俺は三年の篠原 洸。生徒会の副会長で、ジョブは見ての通り“王子”。よろしくな、相川。」
一瞬女かと間違えるほどの美しさで、笑いかけられた。少しドキッとする。
慌てて私も自己紹介をしようと顔を上げた。
「あ、初めまして。一年の相川 奏です。えっと……───」
私が続きを言おうとした時、
「あっ、俺は久世 遥!一年で生徒会の庶務だよ。よろしく!ジョブは同じく“王子”」
久世くんのハイテンションな言葉によって遮られた。
ちょっとムッとする。
そして、そのまま会計が自己紹介をし始めた。
「おれは一年の三鷹 千歳。会計でーす。よろしくー。ジョブはおんなじー」
面倒くさそうに、少しはねた黒髪を弄りながら自己紹介をする三鷹くん。ぼーっと見ていると、目が合った。
何故かじっと見つめ返され、どうしようかと私が思っていると、
「ああぁー!チトセが魔女っ子ちゃんと見つめ合ってるー!ひゅーひゅー、ラブラブー!」
突然、自己紹介も無しに乱入してきた書記の声に三鷹くんから目を逸らす。
てゆうか、今時魔女っ子ちゃんとか大丈夫かこの人。
そして、三鷹くんが一方的に見てくるだけで断じて見つめあってなんていませんから。そんな、三鷹くんファンにボコられそうな事言わないで下さい。
「おい、早く自己紹介しろ…」
呆れた様に言う篠原先輩。
「はいはい、分かってまーすよ!僕は生徒会、唯一の二年!さくら 結城でーすっ!よろしくーぅ!」
「書記でジョブはみんなと同じ、な」
久世くんが付け足す。
「あ、そーそー!めんごー」
………天然?
「次は会長ですよー」
「ん?……おぉー、ごめん…」
三鷹くんが言うと、奥からやる気のなさそうな声が帰ってきた。
寝癖でボサボサの髪を軽く直しながら、のろのろと歩いて来る「会長」と呼ばれたイケメンは私の目の前にやってくると、一言。
「……よろしく…」
それだけ言うと会長はまた、奥に戻って行ってしまった。
「…….......…」
一瞬、その場がしんと静まり返った。
「えっ、と……」
どうしたらいいのか分からず、篠原先輩の方を見る。
でも、篠原先輩も篠原先輩で微妙な表情をしていた。
「ごめん、悪い奴じゃないんだ。気にしないでくれ。」
「は、はい……」
篠原先輩、いい人だなぁ。
そう私が感心していると、すぐ隣で笑い声が聞こえて来た。
「あんなのでも、会長になれるんだよー!すごいよねー!」
「俺らでもなれるかも。なぁ、チトセ!」
さくら先輩は会長をバカにし過ぎだと思う。あと、久世くん。三鷹くんちょっと困ってるよ。……あれ、そうでもない?そうですか。
「結局、会長の名前は?」
「へ?」
戻ってしまって、聞けなかったから言ってみると酷く驚かれた。
「え、奏ちゃん本当に知らなかったの……?」
「そりゃあ、もちろん」
怪訝そうな顔で聞いてきた久世くんにそう言うと、また驚かれた。
何で?
だって初対面だし、知ってるわけない。当然の事だ。だから聞いたのに。
何でこんな反応されなきゃならないのだろうか。
そう言うと、今度は笑われた。意味分からん。
「え、じゃぁ俺達の名前も最初、分からなかった?」
「う、うん」
まぁ、そりゃそうでしょう。普通の事じゃないの?
「普通の女子はみーんな僕等の名前ぐらい知ってるもんなんですよー」
三鷹くんが説明してくれた。
え、それってファンとかだけじゃ無いの?
「ファンの子は名前どころか、身長、体重、視力、何でも知ってるみたいだよっ?」
「そんな情報どこで手に入れるんだろうなー」
こ、こわっ……
それに視力なんて、知ったところでどうする気なんだろう?メガネでもプレゼントするのだろうか。
どちらにしろ、私には一生理解できない世界だ。
「まぁ、流石にそこまでいく子は少ないだろうけど、だいたいは知ってるのが多いな。生徒会だし。」
篠原先輩の言葉に「なるほど」と頷く。
「奏ちゃんって変わってるねー!!」
「やっぱ、“魔女”だからー?」
「……はっ!」
“魔女”という単語に忘れかけていた事を思い出した。
そっと口元に手を当てて、声を潜めながら聞いてみる。
「……あの、私それについて全然知らないんですけど、本当にあるんですか?その……ジョブとか」
だって、信じきれない。
先生や生徒達の頭上に文字が浮かんでいるのを見たけれど。
やっぱり、はっきり言ってもらわないと。
それに、レオに聞いたこと以外は全くといっていいほど知らない。
情報は命だ。
「ジョブとかは実際、あるよー!」
「ない」という言葉を少し期待してたので残念だが、まぁ、しょうがない。別に良い。
そう、私が続きを聞こうと顔をあげた時───
朝のチャイムが生徒会室に響いた。
***
結局、話は放課後にまた生徒会室に集まってすることになり、とりあえず解散となった。
本当は行きたくなかったのだが、情報を集めるためには仕方ないので行く事にした。
そして、先輩達とは別れ、廊下を3人で歩いている時。
「あ、そうだー、相川サン」
突然、三鷹くんが話しかけてきた。
「なに?」
「今、相川サン俺の彼女だからー」
「…っ!?」
吹いた。
何を言いっているんだ、この人は。
「いやー、このままだと相川サンがいじめられちゃうと思ってー」
いや、それでなんでこうなる。
普通、逆じゃないか?
「大丈夫『俺の彼女に手だしたらただじゃすまないから』って言っておいたからー」
ニヤニヤと笑いながら言う、三鷹くん。
確信犯か。
「ではでは、また放課後ー」
「またねー!」
2人とも違うクラスなので、ここで別れる。
「……またね」
最後に三鷹くんを睨みつけてやった。
会長が一瞬しか出てない……!
これは、キャラがまだ決まってないからです←
難しいw