1.たかが夢、されど夢
「おめでとうございます!抽選に当たりました!!」
「…っ!?」
突然、後ろから降ってきた声に私は驚いて振り返った。すると、そこには私と同い年ぐらいの少年が笑顔で立っていた。
「そんなコワイ顔しないでくださいよー!僕はただ、『贈り物』を届けに来ただけですから!」
「はっ……!?」
普通の人なら「変な夢」で片付けられるところだろうが、私はそうはいかない。
誰も居ない筈の夢の中に突然、しかも全く知らない人が意味不明な言葉を言いながら現れたことに私は大いに戸惑った。
この少年は誰?
何でここにいるの?
頭に次々と疑問が浮かぶ。
そして、その疑問に答えるように少年は言った。
「初めまして、レオと申します!抽選に当たった奏様に『贈り物』を届けに来ました!」
そう言って、ぺこりと頭をさげるレオさん。
私の頭はまだ混乱したままだ。
「え、ちょ、レオ?だ、だれ?なんで……」
「えっと、気持ちは分かりますが落ち着いて下さいねー!」
そんなこと言われても…!
「ではまず、『贈り物』の説明から始めますね!」
「えええええぇ!?」
いや、よく見てよ!理解できてないの分かるよね!?落ち着けてないのわかるよねぇ!?
「抽選に当たった奏様には、『贈り物』、“魔女”のジョブが贈られます」
そんな私の様子を無視して、レオは話を続けた。
……もう、いいです。諦めて聞きますよ。
私は、レオの話に耳を傾ける事にした。
レオが説明した事を簡単にまとめると、こんな感じだった。
この世界には、ジョブというものが存在する。ジョブというのは、ひとりひとりの役割や仕事の事をいい、人生ゲームでいう、職業カードみたいなものである。この世界に居る人は皆、ひとつはジョブを保持している。
レオの場合は“天使”。
「え?」
「何でしょう?」
「天使………?」
「はい!」
え、天使って…あの天使?
「はい!まぁ、天使の中でも低級な方ですけどね!」
へぇー……なんか、ぴったりだと思う。
ジョブの中には、普通とは違う、レアなジョブが存在する。海賊、妖精、竜使い、その正確な数は知らされていないが、とても珍しく、貴重なものである。
そして、それを持つ者は、そのジョブのスキルを使うことができる。
例えば竜使いのスキルは、その名の通り全ての竜を意のままに操り、従わせるというものだ。スキルの威力などは、ジョブのレベルによって変わり、レベルが高ければ高いほどスキルの力が増し、低いとその分、力も弱くなる。
「レベルを上げるには、とにかく頑張って経験値を高くすることが大事です!」
「ふーん…」
なんか、レベルとか経験値とか、本気でゲームみたいだね。
「ちなみに、このジョブを持っている人は他人の名前、ジョブ、それにそのレベルを知ることができるんですよー!」
プライバシーのへったくれもないな。
…………あれ?
そこで、私はあることを思い出した。
───抽選に当たった奏様には、『贈り物』、“魔女”のジョブが贈られます
「『贈り物』……?」
「はい!奏様には『贈り物』として“魔女”のジョブが贈られます!もちろん“魔女”はレアですが、その中でもとても珍しいジョブなんですよ!」
「はぁ……..」
正直、ピンとこない。いや、ピンとくるもなにも夢か。そんな深く考えるようなものじゃないよね。聞きたいことは沢山あるが、とりあえず、そうゆう事にしておこう。
「“魔女”のジョブはこの世にひとつしかなく、とても希少です!スキルは魔法で、完璧に使いこなせればきっと、“魔法使い”と並ぶ、最強のジョブでしょう!」
“魔法使い”?
「それって、男か女か以外に何か違いがあるの?」
ふと疑問に思い、私が聞いてみると、
「基本的には、あまり変わらないんですが、スキルの性質がちょっと違うらしいですよ」
「らしい?」
不自然な言い回しに思わず聞き返す。
「はい。───“魔法使い”という存在は昔から謎に包まれていて、実際に見た事がある例は、まったくと言っていいほど、ありません。今、この世界に存在しているのかどうかすらさだかではなく、ほとんど伝説のようなものです。」
「ふーん…」
ま、あまり私には関係のない事か。てか、夢だし。
レオは、そこで「ふぅー」小さく息をついた。
「では、これで説明はほとんど終わりですね!何か質問はありますか?」
……あ、そうだ。
「何で私の夢の中に私以外の人がいるの?」
私の一番の疑問。
普通の人からしてみれば、夢の中に自分以外が居るなんてあたりまえだろうけど、私にはちょっとした大問題。
……まぁ、その大問題を夢の中にでてきた人に聞くってのもおかしな事かもしれないけど。
でも他に聞く人なんて居ないのでしょうがないと思う。
私の質問を聞くと、レオは何故かとても困った顔をしてどもりだした。
「えぇっ、あ……えっと、そ…のー…それは…」
焦った様に目を泳がすレオ。
「?」
てっきり、「夢なんだから、自分以外が居てもおかしくないでしょ」と笑われると思っていた私は、予想とは違ったレオの反応に少し驚いた。
「そ、それは…また後でお答えします…」
………気になる。気になるけど、レオの凄く困った顔をみると、問い詰める気になれない……それに。
多分これがみんなの言う「夢」ってやつなのかもしれない。
何で急にみれるようになったのかは分からないけど。
もしそうなら、別に聞かなくてもいいと思う。
「じゃあ、とりあえずいいよ」
「……ふー」
レオの顔に安堵の表情が広がる。あやし過ぎるだろ。
「普通」の夢って、なんかおもしろいな。
「では、また来ますね!」
笑顔で手を振るレオ。また、来るのか。
「うん」
私も笑って手を振り返す。
その瞬間、私の視界が大きくブレた。
「!?」
そして、足下が一気に崩れ、声をだす暇もなく私は深い闇に堕ちた。
堕ちた時、一瞬だけ見えたレオの口元がかすかに動いたように見えた。
『気をつけて』
───ピピピ、ピピピ
「うー…」
ピピピ…シャコッ
手を伸ばしてアラームを止める。毎朝、力の限りおもいっきり叩いていたため、押した時の音が微妙な感じになってしまったのはちょっと申し訳ない。
ゆっくりと体を起こし、伸びをする。
「…っーう」
そして、昨日の夢の事をを思い出す。
不思議と、ジョブやスキル、レオの事、その時感じた事、思った事などはっきりと覚えていた。もちろん、『贈り物』として“魔女”のジョブを贈られた事も。
まぁ、信じてないけどね。
だって、たかが夢だし。それに夢ってそうゆうもんなんでしょ?初めてだから、ちょっと驚いたけど。
にしても、夢ってこんな設定とか細かく表現出来るのか。もっと曖昧なものだと思ってたわ。
制服に着替えて下におりると新聞を読んでいるお父さんと、朝食を作っている最中のお母さんがいた。
「あら、奏おはよう」
「おっ、今日は早いな?」
「おはよう。実は私、今日……」
おもしろい夢を見たんだ、って言おうとした。
でも、言えなかった。
目の前の光景が衝撃的すぎて。
相川 塔子 主婦 Lv.18
相川 志郎 サラリーマン Lv.24
お母さんとお父さんの頭上に浮かび上がったそれは、紛れもなく、2人の名前と職業だった。
──────ちなみに、このジョブを持っている人は他人の名前、ジョブ、それにそのレベルを知ることができるんですよー!
頭の中にあの時のレオの言葉が響いた。
主人公 相川 奏 (あいかわ かなで)
恋愛にあんまり興味のない高一の女子。
見た目: 肩につくぐらいの、ちょい茶髪。
背は普通。
の、予定。