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東方凛理観  作者: のんの
6/25

第三話 紅魔の館は真っ赤っか  上

『ミドリマリサタケ2号』


マリサタケ科マリサタケ属



私が見つけた5番目の新種のキノコ。とても美味らしい。しかし、幻覚作用があるため注意が必要。(アリスで検証済み)

とても珍しく入手困難であるが、意外に栽培が簡単であことが発覚。今後の魔法実験の成果に期待。



―――――――――霧雨魔理沙著『霧雨的キノコ図鑑』より―――――

 俺は驚いた。本当に驚いた。娘が突然彼氏を連れてきた時のお父さん並みに驚いた。

 その驚き様に八雲さんは、言ってなかったかしら、と首を傾げ、霊夢は我関せずとお茶を啜る。


「いや聞いてませんよ! ここ日本なんですか!?」


 八雲さん曰く、この幻想郷は結界で隔離されている日本のどこか、なのらしい。どうりで日本に似ているはずだ。

 幻想郷が日本のどこかなのかは教えてくれなかったが、俺がここに来る経緯から考えて、ばあちゃん家のすぐ近くだ……。


「まぁ、厳密に言えば、今の幻想郷はまさに異世界なのだけれど」

「……? どういうことですか?」


 しかし、俺の疑問は適当にいなされてしまった。

 いえーい、となぜかピースをしている八雲さんに脱力してしまう。

 俺の覚悟は一体なんだったんだ……。

 俺が真っ白に燃え尽きていると、八雲さんは俺のお茶を取りゴクゴクと風流もクソもなく、一気に飲み干した。

 ……熱くないのだろうか。


「いやだからね、ここって陸続きじゃない?

それで、またあなたが博麗大結界に触れて壊すことなんて簡単だから、そうなる前に殺しちゃおう、って私言ったのよ。

そしたら霊夢が『殺して悪霊になって来ても面倒くさいからパス』って言っちゃって……」

「もう、言わないでよ……」


 ……。


「いやいやいやいや! なに物騒な話してんの!? しかも霊夢お前照れるとこじゃないし!」


 渾身の突っ込みをするが、この二人には全くの無意味。俺はさらに脱力した。

 いまなら力が抜けすぎてタコにも負けぬ動きが出来そうだ。


「いや、ここと外が繋がっているという事実をあなたに伝えなかったのには、ちゃんとした理由があるのよ。

だって凛、考えてみなさいな―――霊夢、お茶。……ん、ありがと。

それで凛考えてみなさいな。博麗大結界は幻想郷には必要不可欠。その博麗大結界の脅威となるあなたを―――ちょっと、お煎餅欲しいわ。え、ないの? ……しょうがないわねぇ。

で、そんな脅威となるあなたを―――あ、そういえばウチにお煎餅ある。しかも今人里で有名なやつ。

そうそう、あれあれ!

あのお煎餅は塩加減が絶妙で……あ、よだれ出ちゃった。もう我慢できない。

じゃあ、ちょっと取ってくる」


 八雲さんはそう言うとスキマに入っていき、霊夢は八雲さんの分の湯呑を取りに行った。


「自由かッ!!」


 周りを全く気にしない霊夢、そしてフリーすぎるフリートークをした上に煎餅取りに行った八雲さんに魂の突っ込みが炸裂するが、本人等はその場にいない。


 本当に、あのときの決意はなんだったんだ。俺はこいつらを信頼していて大丈夫なんだろうか……。

 そこで霊夢が帰ってきて、よっこいしょういち、と座る。おっさんか。


「な、なぁ霊夢。あのさ……」

「大丈夫よ」


 霊夢は見る者を安心させるような笑みで頷く。


「お煎餅、あなたにも分けてあげるから」

「そうじゃねぇよッ!!」


 俺が突っ込むと、霊夢は首を傾げた。


「あら、いらないの?」

「いや、いるけどさ……」


 八雲さんが絶賛する煎餅に興味がないと言えば嘘になる。

 俺は煎餅が大好きだ。あのボリボリといった歯ごたえが好きなのだ。それに比べ―――いや、話が脱線してしまった。

 俺は一度咳払いをしてから、話を元に戻す。


「なんで、ここが日本だって教えてくれなかったんだよ」

「あんたそれ知ったら、外へ出るために博麗大結界を破りに行きかねないでしょ。

無闇な殺生はしたくないの」


 つまり、そうしようとしていたら殺されていた、と……。

 恐ろしい話をさも当然のように語る霊夢にぞっとする。


「な、ならどうして今頃教えてくれたんだ?」


 八雲さんの言うとおり俺は博麗大結界の、いや幻想郷の脅威だ。そんな俺に対して、なぜ嘘を突き通さずに真相を教えたのか。

 しかし俺のそんな疑問は、それくらい自分で考えなさい、と突き飛ばされてしまった。


 俺は湯呑を手に取り、八雲さんのように一気に煽ろうとして、やめる。

 ……とても熱かった。


「さて、本題に移るわよ」

「え、本題?」

「そう、本題」


 俺は湯呑を置いた。

 本題、と言うからには重要な話に違いない。心して聞くことにしよう。


「さてと、本題だけど。あなたのこれからの生活についてよ」

「あぁ……」


 霊夢はまたお茶を啜り、ふぅ、と静かに息を吐く。

 なるほど。これからの生活について、か。

 帰る方法が見つかるまで、当然ここで暮らすことになる。そんなことも思い至らなかった自分に少し呆れる。


「申し訳ないけど、ここに住まわせることはできないわ。傷付いた博麗大結界を維持しなきゃならないから、妖怪退治はしばらくできないの。

だから、その……わかるでしょ?」


 霊夢は妖怪退治の報酬と賽銭で生計を立てているらしい。俺は神社にあまり行かないから知らないが、賽銭など雀の涙だろう。

 だから、妖怪退治の報酬が主であることは容易に想像できる。

 それがなくなったということは、そういうことなのだろう。


「あぁ、なんか悪いな。俺のせいで……」


 罪悪感を感じずにはいられない。

 悪気はなかったとはいえ、俺のせいで霊夢は収入源を大幅に失ってしまった。霊夢の生活はかなり苦しいものになるのではなかろうか。

 だが、霊夢はそんな状況で俺のこれからについて考えてくれている。感謝してもしきれない。


「私の事は気にしなくていいの。今はあなた。

一応住む場所は決まってるわ。あなたの保護且つ帰る方法を探せる場所、紅魔館というところよ」


 保護、という単語が少し気になったが、住める場所だけでなく帰り方を探せるところ、というのはかなり限定されたことだろう。それを見つけ出すのはかなりの労力だったはずだ。


「ありがとうな、何から何まで――」

「あら、紅魔館に話を通したのは私よ?」


 俺が霊夢に頭を下げると、八雲さんが見計らったようにスキマから姿を現す。その手には噂の煎餅がたくさん入った受け皿が抱えられている。

 八雲さんがそれをテーブルに置くと、霊夢は嬉々として食べ始めた。


「あ、そうなんですか……」


 もう八雲さんが急にスキマから現れても、そこまで驚くことはなくなった。いちいち反応してたってきりがない。

 八雲さんはそれを見て少しつまらなさそうな顔をしたが、その視線はすぐに煎餅へと向かう。


「凛~、もうちょっと良いリアクションしてくれなきゃゆかりんつまらないわよ~」

「……えっと、すみません」


 それから紅魔館についてお礼を言ったが、煎餅の方が大切なのか適当に流されてしまった。

 二人とも嬉しそうに食べて、頬を綻ばせている。


「八雲さん。その紅魔館っていうところまでの道を教えてくれませんか?」


 俺も煎餅を口に運びながら尋ねる。

 ……あ、本当だ。普通に旨いわこれ。








 霊夢がお茶をズ…と啜る。そして息を吐く。

 何気ない動作だけど、すごく様になっていて、やっぱ日本人は黒髪だなぁ、って思う。


 霊夢に紅魔館がどこにあるのか聞いたところ、一人で行くのは危険だと止められた。

 そこで俺をそこに送ってくれる人―――魔理沙という人らしい―――が来るまで霊夢と二人でのんびりしている。


 八雲さんは煎餅を食べ終わるとすぐに帰ってしまい、本当に何をしに来たのかわからない。やはり謎でマイペースな人物だ。


「なぁ、思ったんだけどさ、神社の仕事しなくていいの?」


 俺は霊夢に話を振った。


 神社の仕事って言っても詳しくは知らないが、境内の掃除とか、お見舞いに来た人を―――あ、そんな人誰も来てないや。

 ……つまり、ここは随分暇な感じの、そういう神社か。


 神社と言えば、八雲さんと霊夢の話を聞くかぎり、この神社は俺が幻想郷に来る前に見たあのボロイ神社らしい。でも中は全然汚くない。

 どうせなら外側も整備すればいいのに。


「いいのよ。今日はお休みなの。それにもう昼だし、お昼ご飯食べるわよ」


 霊夢は立ち上がると、さっさと台所に向かって行ってしまう。

 何か手伝おう。俺も立ち上がり、霊夢のもとへ向かった。






    *   *   *






「なぁ、生活苦しくなるんだろ? 俺食っててもいいのか?」

「それは食べながら言う台詞じゃないわね」

「気付いた時にはご飯が口の中に入ってたんだ」


 白いご飯を口に放り込む。これはもう仕方ない。だろ?


「まぁ、いいわ。そろそろ来る頃だろうし」


 霊夢は溜息を吐いてから、食器を台所まで持って行った。


 ……意外に食うのが早いな。そろそろ魔理沙さんが来るらしいし、俺もさっさと片付けないと……。

 俺は最後のおかずを口に入れ、ご飯をかきこんだ。


「霊夢ー! いるか~?」


 外で霊夢を呼ぶ声がする。おそらく魔理沙さんだろう。

 しまった。もう来たのか。早く食べ終わらないと――


「むぐっ……!」


 ま、マズイ! 口いっぱいに入れ過ぎて喉を詰まらせてしまった!

 飲み物は……このアツアツのお茶のみ。


「いないの~?」


 魔理沙さんが家の中に上り込んできている音が聞こえる。どうやらこの居間を目指して来ているみたいだ。


 勝手に人の家に上り込むとは、なんて……いや、今はそれよりも喉をなんとかしないと。

 ゴクゴク。熱いのを我慢してお茶を飲み干し、喉に詰まったご飯達を押し流す。


「はぁ……はぁ……」

「げ……。れいむー! 部屋に鼻息荒くしてる変態がいるぞー!」


 居間にやって来た魔理沙さん(暫定)が叫んだ。


 俺は、変態、というあまりにも不名誉な言い方に抗議しようとして、魔理沙さんのその服装に釘付けになった。

 何故なら――


「ま、魔女だ……」


 居間に現れた彼女の歳は霊夢と同じくらいだろうか。

 髪は金髪で黒い服の上に白いエプロンを着ている。頭には真っ黒なとんがり帽子。そして極めつけに、いかにも魔女が持っていそうな箒。

 これを魔女と言わずになんと言おう。本職は宅急便に違いない。


「あらあら本当ね。白黒の変態がいるわ」


 お茶を持って現れた霊夢はテーブルを挟んで俺と対面に座った。

 霊夢のかなり慣れた対応に、この二人が友人関係であることが窺い知れる。


「おいおい、乙女に変態なんて言うもんじゃないぜ。

私みたいな清楚な少女はそういう言葉は使わないもんだ(さっきお前が俺になんて言ったか思い出してみろよ)」


 魔理沙さんは、どかっ、と当たり前のように俺の隣に腰を下ろし、霊夢からお茶を受け取る。

 見知らぬ男の隣に気兼ねなく座るとは……。肝が据わっているというかなんというか。


「それでさ霊夢! 見てくれよ!」


 お茶を飲んで一息吐いた魔理沙さんは、帽子を外したかと思うとその帽子の中をあさりだした。


 さっきまで変態と騒いでいたくせに、今度は俺の事など全く眼中にない様子を見せる魔理沙さんに少し困惑する。

 まだ済ませてない挨拶でもした方がいいのだろうか……。

 などと思っているうちに、魔理沙さんは帽子の中から一つの茸を取り出す。それは緑色で、結構気持ち悪い。

 霊夢もそう思ったのか、眉をひそめながら魔理沙さんに尋ねた。


「何よそのきのこ」

「知らない」

「はぁ?」


 さらに顔をしかめる霊夢に対して、魔理沙さんは得意げに指をクルクルと回した。


「逆に考えるんだよ霊夢。私が知らないキノコだぜ? この私が!

これは世紀の大発見に、いや超発見に違いないぜ!」

「それはすごいわね」


 霊夢はそれだけ言ってお茶を啜る。私興味ありませんオーラを全身から余すとこなく醸し出している。

 そんな霊夢に魔理沙さんは溜息を吐いた。


「おいおい、つれないな霊夢。そんなんじゃ老けちまうぜ?

なぁ、見知らぬ奴」

「え、あ、はい……」


 いきなり話を振られ、しどろもどろになりながらも答える。


 それから魔理沙さんは、この茸をどこで見つけた、とか、この茸がどれほど珍しいのか、とかつらつらと述べ始めた。


「――――つまり、このキノコは珍しい! そして、そのキノコを見つけた私はすごい!

……よし、じゃあな!」

「待ちなさい」


 言う事だけ言って帰ろうとする魔理沙さんを霊夢は呼び止める。


 この人、ものすごいマイペースな人物だ。

 八雲さんにこの魔理沙さん。こんな二人を相手にしている霊夢の日頃の苦労が窺い知れる。


「魔理沙に頼みごとがあるわ」


 霊夢は魔理沙さんに切り出す。

 そうだ、そういえば魔理沙さんに何とか館へ連れて行ってもらわなければならない。


 本当は俺が頼むべきなんだろうけど、魔理沙さんの友人である霊夢の方が説得に有利だ。ここは霊夢に任せよう。


「えぇ~、なんだよ。私は暇じゃないんだ。他をあたってくれ」


 自分を中心に世界を回していそうな魔理沙さんは、やはり渋る。だが、これを説得するのが霊夢クオリティ。


 霊夢さん、やっちゃってください! 期待の眼差しで霊夢を見る。


「私はあんたの話を聞いたんだから、あんたは私の頼みを聞きなさい」

「……」

「……」


 博麗神社の居間が沈黙する。


 ……霊夢さん。その理屈は無理あるッス。

 霊夢のむちゃくちゃな理論はやはり通らず、魔理沙さんは霊夢を鼻で笑った。


「おいおい、それはおかしいぜ。もやしが日陰を出てくるくらいおかしい」


 じゃあな、と魔理沙さんは今度こそ帰ろうとする。そんな魔理沙さんを霊夢が再び呼び止める。

 おそらく、これがラストチャンスだ。

 

 霊夢に呼び止められた魔理沙さんは不敵に笑う。


「おいおい霊夢さんよぉ。

この霧雨魔理沙。ちょっとやそっとじゃ説得は――」

「うふふ…」

「よしわかった手伝おう」


 霊夢の、うふふ、という呟きにより、霧雨さんは手のひらを返したように態度を変えた。そして俺の隣に再び腰を下ろす。


「任せな霊夢。この霧雨魔理沙、妖怪退治妖精退治人間退治なんでもござれ、だぜ(何でもって全部退治じゃないか)

早く依頼を言ってくれ」


 何故か冷や汗を掻いている霧雨さんは霊夢を催促した。

 一体、うふふ、にはどんな意味が……。


「魔理沙、紹介するわ。

今あなたの隣にいるのが外来人の凛。博麗大結界を破ってこっちに来たの」

「ほう……」


 霧雨さんは少し驚いたような顔をして、こちらに目を向けた。そして品定めをするように俺を見る。


 ……居心地が悪い。


「ど、どうも……霧雨さん」


 この視線をなんとかしてくれ。霊夢に目配せするも、霊夢はただお茶を啜るのみ。

 そうしていると、霧雨さんが思い出したように口を開いた。


「……あぁ、どうも凛。

私は普通の魔法使いだ。そんな肩に力入れてるとキノコが生えて死ぬぞ。緊張すんなよ。私は良い魔法使いだ。それもとびっきり」

「あ、はい」


 さっきまでの会話を聞く限りそこまで良い奴には思えないが。


「それで霊夢。この木偶の坊がどうしたんだ?」

「とある場所に送ってほしいのよ」


 霊夢が湯呑にお茶を足しながら言う。そんな霊夢に霧雨さんはまたもや不満を零す。


「なんだよ、そんな地味な仕事は――」

「うふふ…」

「オーケー任せとけ。幻想郷どこへでも、霧雨運送開業だぜ」


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