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東方凛理観  作者: のんの
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プロローグ

 暑い、茹だるような暑さだ。じりじりと照りつける太陽が鬱陶しくて敵わない。

 そんな中で、永遠に続くのかと思えるような荒れ果てた石段を上っていく。


「はぁはぁっ……長っ!」


 散歩なんて始めなければこんな事には……。

 ところどころ苔が生えている石段を一歩一歩確認しながら上っていく。


 この石段、大分古いものなんだろう。ボロボロで、一段ごとの高さもまちまち。気を付けなければすぐに足を滑らしてしまいそうだ。

 そしてなにより、長い。

 途中で降りてしまおうかと何度考えたかわからない。


 でも、あとちょっとかもしれない。そう思うと降りるに降りられなかった。


「やっぱり森で散歩なんて……あ?」


 ふと顔を上げると、石段を少し上った先に真っ赤な、なんと言ったか……鳥居。それだ。

 鳥居を発見した。

 やっとゴールを見つけた俺は最後の力を振り絞り、鳥居の元まで一気に駆け上がる。


「ゼェ……はぁ……死ぬかと思った」


 一旦鳥居の前で立ち止り、膝に手をついて荒い呼吸を整える。


 この鳥居、近くで改めて見るとよくわかるが、かなり傷んでいる。

 赤く塗られているペンキは少し変色していて、てっぺんに書いてある神社の名前なんか掠れていてよく読めない。


 それに境内だってここから見える限りでもかなり荒れている。

 ボロボロの建物の前にちょこんと置かれている賽銭箱にはネズミでも住んでるのか穴が開いてるし、屋根の瓦はところどころ剥げている。

 ……そこらのお化け屋敷よりもずっと雰囲気あるなこれ。


 それから一息ついたところで、今まで上ってきた石段を振り返る。


「うわぁ……」


 思わず声が漏れた。

 森で迷子になっていた時に偶然発見し、興味本位で上り始めたこの石段。

 ここから見ると、結構な急勾配だったことがわかる。

 我ながらよく上り切ったものだ。


 まぁ、今はそんな事よりも身体を休めたい。

 視線を神社に戻す。かなり古くなっているけど、あの縁側なんかが座るのにちょうど良さそう。

 今にも倒れそうな鳥居を潜る。


 その瞬間、何かが弾けるような音が響いた。


「ん、何?」


 音の正体を確認するために後ろを振り返る。すると、俺が潜った鳥居が歪んでいた。


 ……すっごく、ぐにゃんぐにゃん。


 潜った場所を中心に、螺旋状に空間がゆがんでいる。

 さらに、その歪みは段々と広がっていって、周りの景色まで飲み込み始めた。


 ……。


「な………」


 なんだこれッ!? こ、これは蜃気楼か何かか!?


 何かの錯覚ではないかと目を擦ったりしてみるが、変わりはない。むしろ大きくなってきている。

 歪みはまるでたくさんの絵具を混ぜ込むように周りの景色を飲み込んでいく。


「……だ、ダメだっ、逃げないと!」


 やっと動き出した脳で導き出した答えは“逃げる”それだけ。


 しかし、唯一の逃げ道である石段は目の前の歪みに遮られている(恥ずかしい話だが、この時の俺の頭に浮かんだ逃げ道はこの石段しかなかった)。


「くッ……! お、おぉぉぉぉぁッ!!」


 普段の俺なら、いや、普通の人ならこんなことはしなかっただろう。

 だけど、この時の自分はこの上なく混乱していて、冷静な判断が出来なかった。

 それに、人間は窮地に陥ると意味の分からない行動に出る。


 そう、俺はその歪みに飛び込んだ。


 そして、その歪みを通り抜け、少しの間浮遊感を味わい――――


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