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絶望殻  作者: 朝花 谺
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それは

唐突な出会いだった


もしかすると

出会いなんてものは

そんな堅苦しいものではなく

無造作にそこに転がっていて

気付くか気付かないかでしかないような気がする


手を伸ばせば

簡単に掴めるのに

それをしない行為は

まだ自分自身が

強い存在だからと

思い違いをしているからだろう

そして

それは

自分が自分に迷い

墜ちているからこそ

気付かされる

ないものねだりのようなものだと思う




暗闇の路地裏

いつもの僕の

特等席に

見知らぬ男が座り

煙草を吹かしていた


そいつは

当たり前のように

僕に笑いかけ

手招きをした


例え

それがどんなに

不気味で恐ろしい結末だとしても

その時の僕には

抵抗する意思はなかった


独りの時ほど

他人を欲する

例えそれが

殺人鬼でも

僕はついていってしまうだろう


それくらい

僕の

危機感は薄れていた




近くまで行くと

その男の輪郭がはっきりとしてきた

細身だが

がっしりとしていて

髪は黒く綺麗に整えてあり

この場には相応しくない清潔感があった


煙草を持つ手が

とても

美しい気がした


その男も

僕の姿を見ていた


僕は自分の服の

汚なさに少し

恥ずかしくなった

いつもは別に

気にしない事なのに


あれ…いつ

着替えたんだっけ?


僕は自分の

昨日までをすっかり忘れてしまっていた

それほど意味のない時間だったのだろう


僕はまた自虐的な笑いを浮かべて

男の向い側に座った


僕達を挟んで

間に1人通れるくらいの狭さだ


こんなとこ

通る奴もいないほど

この街の裏側は

静かだった



「煙草…ちょうだいよ」


僕はその後に

殺されてしまう

可能性なんて

一切無視して

そんな

行動に出ていた


別に僕が死んでも

悲しむ人もいないし

楽になれるなら

それでいい…とさえ

思っていた


男は胸ポケットから

煙草を取り出し

僕に渡す瞬間に

ピタリと動きを止めた

そして僕を見ながら


「お前…未成年だろ?」

と笑いながら言った


「…違うよ」僕は嘘をついたが

男は真に受けたのか

どうでもいいのか

僕に

煙草を投げ渡した


火の灯るライターに

煙草がジジジ…と

心地良い音で

焼かれる


「お前…ここに来て

何日目だ?」

男は自分の煙草を靴の底で消しながら

話かけてきた


僕は煙草の煙で輪っかを作りながら

鼻で笑った

「何…あんた警察?」

もしそうなら面倒臭いと思ったが

男は違うと答えた


「…なら黙秘権を行使します」


「はっ…最近のガキは面倒くせぇな」

男は

笑い飛ばしながら

僕を

見据えながら言った

「俺は

ここら界隈の地主だ

正確にはその息子だ

けどな

親父はもう歳で

長くねーから

今は俺が任されてる

それでだ

最近ここに若いガキが1人でウロウロしてるっていう話を聞いた

最近のガキは物事を知らないくせに

やることは見境ないからな

今から放火でもすんのか?」

男は僕に渡したライターを指さしながら

真顔で言った


その言葉に苛つき

「テメーのだろっ」

ライターを男に

向かって投げつけた

男は簡単にそのライターを手に取り

静かに重みを

増した声で話始めた

「まぁ…それでな」男が煙を吐き出しながら豹変するように

僕を睨みつけた


その目つきは鋭く

さっきまでの笑顔は

嘘のようだった


そして

ゆっくりと近づき

僕の肩を掴んだ

「ここら辺でウロウロされんのも困んだよ

放火やら売人やら

そんなもんは知ったことじゃねぇ

ただ面倒事が嫌いなだけだ…解るな?」

男の手に少し

力が入る

冷たい表情は

そのままだ

僕は

その迫力に押され

震える声で

「…うん」

とだけ答えた

別に僕は何もしてないのに悪人に仕立てあげられてしまった

しかし

そんな理不尽にも

応じるしかないような恐怖感があった


男は手を放し

解ればいいんだよ

と呟き

また僕の特等席に

座り直した


「おい…」

その呼びかけに

僕は少し震えながら

その顔を見た

すると

「…とまぁ…地主の

言い分としてはここまでなんだが俺個人としてお前に興味がある


こんな所で

何してんだ?」


さっきまでの顔は

どこに

いったのだろう

僕は戸惑いながら

その顔を見つめることしか出来なかった

「ん?

怖かったのか?」

男はまたさっきまでの笑顔を浮かべて

煙草の煙を

吐き出しながら

言った

「俺から言わせると

お前のほうが

怖いぜ?

毎日ここにきては

何もしないで

座ってる

傍から見れば

いつ爆発するか解らん時限爆弾みたいな感じだぞ」

またそこで男は笑う


僕にはこの男の

どこまでが本当なのか解らなかった

この笑顔の裏側には

あの冷酷な顔が

あるのだと思うと

僕はその人への言葉にさえも

恐怖を抱いてしまった

それはあまりにも

僕の身勝手と偏見だということに

その時は

気づいてはいなかった

そんなことを横目に

男はズカズカと音を立てながら僕の心に入ってくる

「学校のことか?

それても親か?」

この男には遠慮という言葉はないのか

それともわざとなのか

そのことに

一々反応するように

僕の心は

敏感に痛んだ


当たっているからだ


僕は混乱した

何故こんな目にあっているのか

見ず知らずの人間に

心を傷つけられる筋合いはどこにもないはずだ

なんで僕だけこんなことに巻き込まれるんだろう

そんな風に考えると

何故か

涙が出てきた



理不尽な壁みたいなものが周りを囲い

僕の声は届かない

だけど周りの声は

僕には届き

そして

壁に反射しながら

いつまでも心を抉る


黒い塊が

僕に囁く


お前は

生まれてくるべきじゃなかった


お前の居場所なんて

どこにもないんだ


死ぬことも出来ない

お前に生きる力もないんだ



黒い影は

何人も何人も溢れ

その言葉は壁に反射して僕に突き刺さる


僕はたまらず

頭を抱え

そこに

蹲ってしまった



その僕の姿を見た

男は静かに

僕の肩に触れた


さっきとは違い

とても

優しい気がした


僕は顔をあげた

顔は涙でグシャグシャだった

男の顔が

ぼやけて見えた

なんか笑っているようで腹が立った

「なんだよ…何笑ってんだよ

なんで僕だけこんな目にあうんだよ」

涙と嗚咽で声にならない声で僕は泣き崩れた

誰から見ても

格好悪くて

それさえもが

自己嫌悪だった


でもその男は静かに

でも

優しい声で


「それはお前が

生きてるからだ」

それは馬鹿にしたような言葉だった


生きているから

苦しんで

傷つけられて

そして死んでいく


その道に

一体どんな意味があるのかが解らない

もしかしたら

意味などないのではないか

そんな

気持ちにさえなる


僕は男の顔を

睨みつけた


「もし生きる意味が

あるのなら

こんなに不幸に

なんかならないし

こんなに

傷つかないでいいはずだ」

僕は声を荒げて

吐き出した

答えのない質問に

誰もが嫌な顔をする

決まった流れだ

しかし

男は顔色変えずに

優しい声のまま

「俺には

お前の不幸や

傷の深さが解らない

だけど

不幸を幸せにすることや傷を治すことは

絶対に出来る」

男は僕をずっと見つめたままだ

優しい顔をしていた


今まで何回も聞いた

その答えに

何故かその時は

信じてしまえる


そんな力があった



それはきっと

この男が同じような

境遇に立っていたからであろう




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