11 高鳴り
…俺の両手は、架奈美の体を、そのまま包み込もうとしていた。
俺の腕が、架奈美の腕に触れようとした瞬間だった。
「帰っていたの?俊弥義兄さん」
背後の俺の気配に気付いたのか、架奈美が俺の方へと振り返る。
…
…焦った。
架奈美に気付かれたというのも、そうだったが…抑え切れなくなっていたのだ。
…自分の気持ちを。
「…あ、あぁ、今さっき帰ってきて…の、喉が渇いていたから水を飲もうかと」
…見苦しい言い訳だった。
「そうだったの…ごめんね、気付かなくて」
架奈美は、そう言うと、コップに一杯の水をくみ、俺に差し出してきた。
…俺は、それを受け取り一気に喉へと流し込み、深く深呼吸をして、高ぶっていた気持ちを鎮める。
「仕事が遅くなってしまって…今、夕食の準備をしているから、もう少しだけ待っててもらえる?」
そう言うと、架奈美は、再び調理にとりかかった。
…夕食を済ませ、いつものように俺達は談笑を楽しんでいた。
架奈美を意識してからの俺にとっては、架奈美の全てが愛おしく…架奈美と過ごす時間は、夢のような一時だった。
…そして、そういう時ほど時間というのは…すぐに過ぎてしまうものだ。
数時間が数分に感じ、時間の感覚を失ってしまう。
「もう、そろそろ、お風呂に入ってくるね」
そう言い残し、架奈美は部屋を後にした。
架奈美が、風呂を上がったことを知らせてくれた後、俺も風呂に入り、自分の部屋へと向かった。
「…架奈美…」
…ホントにヤバかった。…いや、これから先、自分の気持ちを抑えきれる自信が俺には…なかった。
(伝えたいな、この気持ちを…架奈美に)