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プロレスラー・オーボエファイター木村とジミー少年

作者: 斉藤寅蔵
掲載日:2026/03/14

 しいな ここみ様主催『無謀! 瞬発力企画2』参加作品です。

※オーボエ:木管楽器の一種。大きくて豪華な縦笛みたいな。

 俺はデビュー2年目になる新進気鋭のプロレスラー。

 リングネームはハウリング木村。

 悪魔の呪いを受け、狼男に変身して人間を襲う悲しき運命を背負いながら、チビッ子達の遊び相手になったりする優しさを失わないという、二面性を持つモンスターレスラーという設定だ。

 その俺は初の海外遠征先であるロサンゼルスのアリーナの一室で頭を抱えていた。


「いやオーボエファイターって……狼男とオーボエ関係ないだろ……」


 悩み呻く俺の右手にはこのロサンゼルスのプロレス興行の運営から渡された一本のオーボエが。

 そもそもは、俺のリングネーム『ハウリング木村』がロサンゼルスを地元とするレスラー、ハウリング・キムとリングネームが被っていたため、運営から俺のジムに連絡がきたのがことの始まりだ。


「そんなわけでさー、ロサンゼルスじゃ木村のリングネーム変えてもらいたいんだよねー」

「はあ、それは構いませんが。どんなリングネームに?」

「『ハウリング』は日本語でなんて言うんだい?」

「『遠吠え』ですかね」

「なら『トーボエファイター木村』で決まりだなHAHAHA」


 で、そのトーボエファイター木村が伝言ゲーム状に伝わっていくうちにオーボエファイター木村に変わってしまった。


 今日、会場入りした俺はいつもの黒パンツに狼を模した顔面ペイントに加え、上半身だけモーニングのジャケットを着せられてオーボエを持たされた。

 そこで初めて説明を受けて俺がオーボエファイターになってることを知り、「ちょっと一人にさせてくれ」と控え室を出てこの物置部屋みたいなとこに籠って現在に至るというわけだ。


 ……いや途中で誰かおかしいって気づかなかったのかよ!?

 このキャラでどうしろと!?

 俺オーボエなんか吹けねえぞ?

 オーボエ振り回して暴れるか?

 いや武器っぽいものならともかくオーボエだぞ?

 意味わかんなくて客もポカーンだろ。

 レスラーのキャラにはコミカルなものやシュールなものもあるけど、それでも統一性は必要なんだよ!


「いっそオーボエとか無視していつもどおりやるか」


 いや、ポスターにまで雑コラ風に俺の顔の下にオーボエの画像合成してるんだ。

 運営の意向に逆らうと後が面倒になる。

 下手したら賠償とかの話になりかねない。


 と、悩んでいると、突然ドアが開いた。

 ドアの向こうで少年がびっくりした顔で立っている。


「ハウリング……!」


 え!?俺の日本のリングネーム知ってるの?

 まあ、マニアなら情報くらい仕入れてるんだろうけど。

 と、少年は今度は俺の持つオーボエを見て目を輝かせた。

 あれは興味あるものを見る目だ。

 もしかして吹けるのか?


 俺は謝って退出しようとする少年をカタコトの英語で招き入れて、改めて自己紹介を交わす。

 少年の名はジミーというそうだ。

 地元のお坊ちゃんで、プロレス観戦のついでにアリーナ内を冒険してたらこの部屋に行き当たったらしい。

 で、俺は室内の洗面台でオーボエのリード(吹き口)を洗い、タオルで拭ってジミー少年に渡してみる。

 ジミー少年は


 俺の入場テーマ曲を吹き始めた!

 え、それ吹けんの?

 っていうか上手い!


 軽く1分ほどの演奏を終えたジミー少年に俺は心からの拍手を送った。

 ジミー少年も嬉しそうだ。


 と、そこで俺はあることに気付く。


「ジミー、済まないが、お願いがあるんだが」


 ◇◆◇




 ついに出番がきた。

 目の前の扉が開き、黒パンツに顔面ペイントの狼男がリングへの花道を一歩踏み出す。

 そんな狼男を先導するのは顔の上半分を仮面で隠し、フードを被った少年悪魔。

 少年悪魔はオーボエの音色で狼男に呪いを掛けるのだ。


 まあ、顔を隠したジミー少年に俺の入場テーマ曲吹いてもらいながら俺を先導してもらってるんだけどな。

 当然だが運営に頼んで入場テーマ曲は流さないでもらっている。

 ジミー少年のアレンジを聞かせた演奏が物悲しく、それでいて力強く会場に響く。


 このやり方なら、俺はいつもどおりのキャラでいい。

 それでいて俺にオーボエファイターのキャラ付けをした運営の意に反してもいない。

 八方丸く収まるのだ。

 まあモーニングのジャケットは使いようがないんで捨てさせてもらったが。


 正直、ジミー少年にこんなことを頼むのは心苦しかったが、成績が下がって親からオーボエ演奏を禁止されていたらしいジミー少年は大喜びでこの話に食いついてきた。

 ジミー少年にはいくら感謝してもしきれなふい。


「カーン!」


 ゴングが鳴って試合が始まってからもジミー少年は活躍した。

 基本的にはリングサイドでおとなしくしてるのだが、俺が技のタメに入ったところでオーボエでBGMを入れてくるのだ。

 このメロディーとタイミングが実にいい。

 俺にオーボエを寄越した無能運営なんかよりよっぽどプロレスをわかっている。

 客もノリノリだ。

 最後はたっぷりと滞空時間をタメてからのブレーンバスターで相手をマットに叩きつける!


 と、次の瞬間、俺は隙を突いてきた相手にフォールされてスリーカウントを取られ負けてしまった。


 まあ、試合の勝ち負けなんて小さいこと。

 真の勝利者は俺達だ。


 俺は雄叫びを挙げると、入場と同様にジミー少年に先導してもらって花道を歩く。

 会場を出て控え室に続く廊下に入り、後ろのドアが閉まったところで


「イエエエエイ!」

「Yahooooooo!」


 俺達はハイタッチを交わし、ゲラゲラと笑い続けたのだった。


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