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祝福されなかった力  作者: おすぎ


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2/2

魔法が消える現象

王都アストリアの朝は早い。

 祝福の儀から一夜明けた神殿前広場では、さっそく新たな祝福者たちが力を試していた。

「見ろよ、これが火属性だ!」

 赤毛の少年が手のひらを掲げる。小さな炎が揺れ、友人たちが歓声を上げた。

「すごい……!」

「将来は騎士団だな!」

 クロトは石段の端に腰を下ろし、その様子を黙って見ていた。

 無属性。

 神々に認められなかった者。

 昨日から、彼を見る視線は露骨に変わっている。好奇、嘲笑、憐れみ。

(……慣れてる)

 村でも似たようなものだった。

 だが胸の奥に残る冷たい感触だけは、まだ消えていない。

 昨夜、自分の影が蠢いたこと。

 黒い刃の形を取ったこと。

 あれは幻ではなかった。

「おい、無属性」

 声をかけられ、顔を上げる。

 火を出していた赤毛の少年――レオンが、にやりと笑っていた。

「昨日は災難だったな。まあ、気にするなよ。才能ってのは平等じゃないからな」

 慰めのつもりなのか、ただの優越感か。

 クロトは立ち上がった。

「別に、気にしてない」

「強がるなって。ほら、せめて俺の魔法でも近くで見せてやるよ」

 レオンは得意げに炎を大きくする。

 ぼっ、と音を立てて燃え上がる橙色の火。

 周囲の子供たちが一歩下がった。

 そのときだった。

 ふっ――

 炎が、消えた。

 煙も残さず、唐突に。

「……は?」

 レオンが呆然と手のひらを見る。

「おい、今のどうやった?」

「消してないぞ!」

 再び魔力を込める。

 今度は先ほどよりも大きな炎が生まれた。

 だがそれも、数秒と保たない。

 まるで見えない何かに呑み込まれたように、音もなく掻き消える。

 ざわ、と空気が揺れた。

「魔力切れか?」

「いや、まだ余裕あるはずだ……!」

 レオンの額に汗が浮かぶ。

 クロトは無意識に、自分の足元を見た。

 影が、わずかに揺れている。

(……まさか)

 胸の奥が冷える。

 レオンが三度目の炎を生み出した瞬間、クロトの鼓動が強く鳴った。

 どくん。

 炎が、歪む。

 揺らぎ、細くなり――消える。

「なんでだよ!?」

 叫び声。

 今度は別の少女が水球を生み出した。透明な球体が宙に浮かぶ。

 それも同じだ。

 ふ、と霧のように消滅する。

「水まで……?」

「魔法が、消えてる……?」

 広場に不安が広がる。

 神殿の扉が開き、神官たちが駆け出してきた。

「何事だ!」

「祝福に異常が?」

 神官の一人が簡易の測定具を掲げる。水晶が淡く光り、すぐに色を失った。

「周囲の魔力が……減衰している?」

「減衰だと? そんな現象は記録にないぞ」

 ざわめきが増す。

 クロトは一歩、後ずさった。

 自分が動くたび、影がわずかに伸びる。

(違う……僕じゃない)

 否定した瞬間、胸の奥で何かが脈打った。

 どくん。

 広場中央で、風の魔法が巻き起こる。小さな旋風。

 だがそれも、途中で崩れ落ちるように消えた。

 まるで、この場所そのものが魔法を拒んでいるかのように。

「全員、魔法の使用をやめよ!」

 神官の声が響く。

 子供たちは怯え、魔力を引っ込める。

 静寂。

 だが、空気は重い。

 クロトの呼吸が浅くなる。

(やめろ……)

 自分の中の何かが、外へ広がろうとしている。

 冷たい波のように。

 吸い込むように。

 ――祝福を拒まれし者よ。

 昨夜と同じ声が、脳裏をかすめる。

 理に属さぬ力は、理を侵す。

「……っ」

 クロトは胸を押さえた。

 その瞬間、広場の端に置かれていた街灯の光が、ぱちりと消えた。

 昼間だというのに、影が濃くなる。

「な、なんだ……寒くないか?」

「急に空気が……」

 神官の一人がクロトを見た。

 視線が合う。

 鋭い、疑念の眼差し。

「……お前」

 心臓が跳ねる。

 影が、足元からじわりと広がった。

 石畳を染めるように。

「そこを動くな!」

 神官が杖を向ける。

 光属性の魔法陣が展開される。

 眩い輝き。

 だが――

 ぱきん。

 硝子が割れるような音がして、魔法陣が崩壊した。

「なっ……!?」

 光が消える。

 完全に。

 神官の顔から血の気が引いた。

「光が……消えた……?」

 クロトは震えていた。

(止めたいのに……)

 胸の奥の力が、祝福の光を押しのける。

 否定する。

 塗り潰す。

 吸い込む。

 それは破壊ではない。

 存在の拒絶。

 祝福そのものを、なかったことにする力。

 やがて。

 ふっと、圧が消えた。

 影が元に戻る。

 空気が軽くなる。

 恐る恐る、レオンが火を灯す。

 今度は消えない。

 安堵のざわめきが広がる。

「……収まった?」

「一体何だったんだ」

 神官たちは互いに顔を見合わせる。

 そして、ゆっくりとクロトを見る。

 何も言わない。

 だが、その目は明らかに告げていた。

 ――異物。

 クロトは唇を噛む。

(僕のせい、なのか……?)

 答えは出ない。

 だが一つだけ分かった。

 自分の中の力は、祝福と相容れない。

 それどころか――打ち消す。

 神々から与えられた力を、消す。

 それが何を意味するのか。

 少年にも、うすうす理解できた。

 これは、祝福ではない。

 祝福の対極にある何かだ。

 遠くで鐘が鳴る。

 昨日とは違う、不穏な響き。

 神殿の奥深く。

 七柱の神像の前で、大神官ガルディアは報告を受けていた。

「広場一帯で、魔法が消失……?」

「はい。原因は不明。しかし、無属性の少年が中心にいたとの証言が」

 沈黙。

 神像の影が、長く伸びる。

「……監視をつけよ」

 低い声が命じる。

「もしあれが“記録にない現象”であるならば――」

 言葉は途中で止まる。

 神像の瞳が、わずかに軋んだように見えた。

 一方、クロトは一人、王都の路地裏に立っていた。

 夕暮れが迫る。

 足元の影が、ゆらりと揺れる。

「……お前は、何なんだ」

 問いかけても、答えはない。

 ただ、胸の奥で冷たい鼓動が続いている。

 祝福が消える現象。

 それは偶然か。

 それとも――始まりか。

 神に選ばれなかった少年はまだ知らない。

 自分の存在そのものが、世界の均衡を揺るがしていることを。

 そして。

 神々が、彼を恐れ始めたことを。

第二話をお読みいただき、ありがとうございます。

少しずつ、世界に異変が広がり始めました。

祝福が消える理由とは何なのか。

ぜひ次話も、見届けていただければ嬉しいです。

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