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風が止まった世界で、俺はもう一度“生きる理由”をつくる  作者: GT☆KOU


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第32話《裂層の呼び声(前編)》

空に刻まれた裂け目は、ヴァルグレアが消えても閉じなかった。

むしろ逆に、ゆっくりと、しかし確実に広がっていく。


光でも闇でもない――

“見てはいけない何か”が滲み出るように。


ミナトは裂け目を見つめたまま、胸の奥が痛むのを感じていた。

痛みは身体ではなく、記憶の深部。

何かが呼んでいるようで、何かが拒んでいる。


風が二重に流れた。

吹くはずの方向とは逆にも同時に吹く。

音が遅れて届き、遅れていない音も重なった。


ルカが眉をひそめた。


「……なぁ、世界こんなだったっけ?」


カイルが空を見上げたまま答える。


「裂層の拡大で観測域が乱れ始めてる。

 本来なら認識できない“層”が重なり始めてるんだ」


ルカはため息をつく。


「わかりやすく言うと?」


「世界が……自分の形を忘れかけてる」


「わかりやすくねぇよ!!」


軽口が風に流れる。

だが、その裏でミナトの身体がふっと薄くなる瞬間があった。


光に透けた。

ほんの一秒。

でもアイシャは見逃さない。


「ミナト……今の、何?」


「……ちょっと、めまいがしただけだ」


笑ったが、声に力がない。


アイシャは手首のEchoBANDを見下ろした。

光が脈打っている。

さっきまでの戦闘とは違う、もっと大きな波。


「……ミナト、“帰還”は成功してるのよね?」


ミナトは視線をそらす。


「……たぶん。

 でも……世界側が俺を“どっちに分類するか”迷ってる感じなんだ」


「どっち……?」


彼は静かに言った。


「“ここにいるべき存在”なのか、

 “戻ってきてはいけない存在”なのか――」


その瞬間。


風が止まった。


空間の色がわずかに歪む。

それは熱でも冷気でもなく、時間とも違う。


アイシャの耳に、“足音”が届いた。


石を踏む音でも

風を裂く音でも

魔素の震動でもない。


記録が歩いてくる音――そんな感触。


ルカが警戒態勢に入る。


「おい……誰か来るぞ!」


カイルが目を細めた。


「いや……“誰か”じゃない。“何かだ”」


裂け目の近くに、黒い影が浮かび上がった。


人の形をしている。

しかし輪郭が二重にずれている。

歩くたび、背後に時間差の残像が生まれる。


アイシャの心臓が跳ねた。


影の胸元で、小さな光が明滅している。

それはEchoBANDによく似ていた。

しかし、色が違う。


“赤”。


カイルの声が震える。


「……やばい。あれ、観測者のテンポラル・セアーだ」


ルカが叫ぶ。


「観測者ぁ!? 何だそいつら!」


「世界の揺らぎを“読む”勢力。

 ただし……本来はこんな場所に現れない」


影はゆっくりと歩み寄る。


ミナトを見た瞬間――

影の輪郭が揺れた。


あたかも、認識そのものが“バグる”ように。


アイシャのBANDが強く光り、ミナトの体もそれに呼応して震えた。


影が口を開く。


声は一つではなかった。

複数の時間帯の声が同時に聴こえる。


> 「……外縁の観測者か……いや……違う……」

「“あなた”は、戻るはずの存在ではなかった……はずなのに」




ミナトが問う。


「……俺を知ってるのか?」


影は答える代わりに、空の裂け目を指した。


そして――アイシャだけに届くような声で囁いた。


> 「触れるな。

まだ、あなたが触れていい“層”ではない」




アイシャの手が止まる。

心が震える。


「……どういう意味?」


影は、悲しむように、あるいは祝福するように言った。


> 「あなたは“風を記す者”。

そして――その男は

まだ“決定されていない存在”。」




カイルが息を呑む。


「決定……されてない……?」


影は最後にミナトを見て言った。


> 「――観測が追いつく前に、逃れよ。

さもなくば、あなたは“作り直される”。」




次の瞬間、影は風に溶けたように消えた。


残されたのは、沈黙と――

空の裂け目が大きく鳴動する音だった。


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