第28話《空の底で、君を呼ぶ》
空が反転した。
青だった光は墨に沈み、
黒だった影は白に滲む。
アイシャは落ちていた。
風に抱かれたまま、真っ逆さまに。
「っ……く、はぁ……! まだ……遠い……!」
呼吸が荒くても、声は途切れない。
風が答えるように彼女の髪を持ち上げ、
EchoBANDが青く脈打つ。
その光が導く先——
ひとりの影が膝をついていた。
カイル。
地面に手をつき、肩を震わせている。
空から降っていた「記憶の雨」が、
彼の背中を通り抜けていくたび、表情が変わる。
「……誰にも……届かないはずの記録だったのに……」
低く震えた声。
それでも丁寧で、静かだ。
アイシャは着地と同時に駆け寄る。
「カイル!」
肩に手を伸ばした瞬間、彼は振り返る。
瞳の奥が濁っていた。
見ているのは目の前ではなく——空。
「アイシャ……ここじゃ……誰も繋がらない」
声は掠れ、言葉は短い。
けれど痛みだけが伝わる。
アイシャは眉を寄せ、無理に笑う。
「繋がるよ。私が来た。風も一緒に来てる。
だから……ほら、ちゃんとこっち見て!」
カイルの肩が微かに揺れた。
視線が、ようやく彼女へ向く。
その瞬間、アイシャの胸が締め付けられた。
思わず声が漏れる。
「そんな顔……しないでよ……」
「顔?」
カイルは自覚していない。
いつも通り、優しく静かに聞き返す。
それが余計に苦しい。
「助けてって言ってる顔だよ……。
言葉にならなくても、分かるんだから」
カイルの喉が震えた。
言葉を飲み込むように目を伏せる。
「……僕は……誰かに求める資格なんて——」
「あるよ!!」
声が割れた。
アイシャは自分でも驚くほど強く叫んでいた。
「だって……私が求めてるから!
あなたがどんな傷でも、どんな過去でも……
私は、繋ぎ止めたい!!」
風が渦巻いた。
記憶の粒子が二人の周りを旋回する。
その内側で、カイルの瞳が揺らぐ。
「……どうして……そこまで……」
アイシャはふっと目を伏せ、
それから照れたように笑った。
「知らないよ……。
気づいたら、あなたばっか見てるんだもん」
その笑みは
風より柔らかく
刃物より鋭かった。
カイルは息を呑む。
「……アイシャ……君は——」
言葉の続きを言おうとしたとき、
空が悲鳴を上げた。
記録の雨が逆流し、
空の裂け目から“影”が降りてくる。
白い髪、赤い瞳。
無声の存在。
——ツイン・エコー。
風が震えた。
記憶がざわつく。
アイシャは身構え、
腕のEchoBANDが蒼炎のように輝く。
「来るなら……来なよ。
今度は、守る側で戦うから!」
カイルは立ち上がる。
右腕が黄金に脈打ち、
データの光が神経に走る。
「……逃げない。今度は、僕も一緒に」
ツイン・エコーの影が低く揺れ、
言葉なき声を放つ。
>《同期──開始》
世界が、ふたたび裂けた。




