表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風が止まった世界で、俺はもう一度“生きる理由”をつくる  作者: GT☆KOU


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/54

第27話 《風に刻まれる声》


――アイシャ視点


風が……あたたかい。


体を包むのは布でも土でもなく、

流れる光のような風だった。

それは羽毛のように軽く、

水音のように揺れていた。


「……ここは……?」


アイシャはゆっくり目を開ける。

視界には、色のない草原が広がっていた。

草は風になびくたび、花の形に形を変える。

揺れるたびに名前が変わる草たち——そんな景色。


空は深い青。

けれど雲はなく、代わりに無数の光が漂っている。


その光は、しずくのように零れ、

——空へ落ちていった。


「ああ……そういうことだったのね……」


息が漏れる。

記憶が雨になる世界。

空は誰かの想いを写し、

風がそれを持ち運び、

最後には“上へ還る”。


アイシャはそっと手を伸ばした。

指先に乗った光が震え、声になった。


> 『……カイル、聞こえる……?』




「カイル……!」


思わず胸が熱くなる。

風が、彼の声を覚えている。

記憶を“風の粒子”として保存している。


風がそっと頬を撫でた。

それはカイルの掌の形に似ている。


「……どうして……こんなに……リアルなの……?」


答えるように、風が言葉を紡ぐ。


> 『記録は、まだ終わってない——』




その声は懐かしくて、

けれど本人ではない。


アイシャは立ち上がる。

足元の草が波のように割れて、

進む道を形作った。


(私を……導いてる?)


風は静かに肯定する。

まるで意思を持った生き物のように。


アイシャは歩き出した。

風の粒子が背を押し、

髪が揺れ、EchoBANDが光を返す。


「……カイルのところへ行かなきゃ。

 だって……私は、そう決めたんだから。」


そう呟いた瞬間、

風が強くうなり、空へ大きな波紋が走った。


その波紋の中に、影がひとつ浮かぶ。


白い髪、赤い瞳、静寂。


——ツイン・エコー。


距離はあるのに、視線が絡んだ気がした。

胸の奥が痛い。

その痛みは、悲しみでも憎しみでもない。


「あなたも……生きたかったの?」


吐き出した言葉は、風に乗って遠くへ消えた。

返事はない。

けれど沈黙こそが答えのようだった。


風が再び吹き、

今度は別の声が重なった。


> 『——風を記す者よ。

  我らは、ここで“始まり”を見てきた。』




声は重なり、増え、

無数の歌になって空へ昇っていく。


アイシャは息を呑んだ。


「これは……世界の“祈り”……?」


風の中に、人の声、獣の声、歌、泣き声。

すべてが風の粒子として漂っている。


記憶の声たちが

アイシャの体に吸い込まれるように集まる。


EchoBANDが光る。

青白い紋様が腕に広がる。


世界そのものが告げていた。


> お前に、“記録の風”を託す。




アイシャは拳を握る。

恐怖と期待と使命感が混ざり合う。

でも、胸の奥で一つの声が答える。


「私は……もう誰も忘れさせない。

 風が上に流れても、

 生きていた証をちゃんと残す。

 そのうえで——生きる。」


風が激しく明滅した。

空が裂け、道が開く。


その向こうに——

カイルが落ちていった“層”が見えた。


「行くから……待ってて。」


アイシャは風に身を投げた。

風と共に落ちていく。

記憶が光となり、背中を押す。


空は再び鳴く。

それは祈りでも、叫びでもない。


——世界そのものの息づかい。


そして、

アイシャは“風の層”から飛び出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハイファンタジー 風と記憶の物語 神々と人間 古代文明 魔素とテクノロジー 異能バトル ポストアポカリプス 遺跡探索 記憶継承 強いヒロイン 男主人公 少し恋愛 群像劇 シリアス 感動 哲学要素あり エコーバンド 黎明シリーズ リヴァース・サーキット 神々ノ階
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ