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風が止まった世界で、俺はもう一度“生きる理由”をつくる  作者: GT☆KOU


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第25話 ツイン・エコー【後編】

風が止まる世界で、

風だけが震えた。


ツイン・エコー——

紅い瞳のアイシャが、静かに地上へ降り立つ。


その着地音すら無い。

まるで、彼女の存在が「音」という概念を拒絶しているみたいだった。


「……あなたは、“選ばれなかった記録”。」


その言葉は淡々としていた。

けれど、その一言だけで胸の奥が鋭く締めつけられた。


アイシャは拳を握る。

「ねえ……それは、どういう意味なの?

 私とあなたは——同じじゃないの?」


紅の瞳は、まばたきもしない。

「同じ。だからこそ、違う。

 “生きる理由”を持った時点で、あなたは——選択肢から外れた。」


「生きる理由を持つことが……間違いだというの?」

アイシャの声が、少しだけ震える。


「間違いではない。“最適ではない”だけ。」


——最適。


その言葉に、カイルの二重コードが反応した。

右腕が蒼と紅の光を交互に弾き、

Dヘルツァ粒子が皮膚の下で暴れる。


「テメェ……人の人生を、機械みたいに測ってんじゃねぇ……ッ!」

カイルが一歩踏み出した瞬間、

周囲の風が激しく巻き上がった。


でも、それは“風”ではなかった。


——静寂だ。


音が、ひとつずつ消えていく。

足音も、風も、遠くの街の鳴る音も、

全部、吸い込まれるように沈んでいく。


「カイル、離れて!」

アイシャが叫んだ時には遅かった。


ツイン・エコーの影が、

彼の右腕へ“触れずに触れた”。


その瞬間——

二重コードが悲鳴をあげた。


「ぐ、ぁ……ッ!」

カイルの膝が崩れ、

右腕から光が噴き出す。


蒼い光と紅い光が混ざり、

彼の腕を軸に空間が歪む。


「やめて……!

 カイルに触らないで!」

アイシャが駆け寄ろうとする。


しかしツイン・エコーの周囲には

“無風の壁”が張られていて、

一歩踏み込むだけで胸が圧迫されるような苦しさが襲う。


紅い瞳がアイシャに向けられた。


「彼の右腕には、“世界を選ぶ権限”がある。

 ゆえに、干渉が必要。」


「干渉って……何をする気?」

アイシャは呼吸を整え、睨み返す。


ツイン・エコーは一切揺れずに言った。


「彼が選ぶ“未来”を——矯正する。」


「矯正……?」


「あなたに偏り過ぎている。」

紅い瞳が、微かに動いた。

「それは世界のバランスを崩す。

 彼があなたに寄り添えば寄り添うほど、

 “もう一つの世界”が崩壊する。」


アイシャは凍りついた。


「……そんなの……知らない……!」


目の奥が熱くなった。

涙ではなく、悔しさだった。


(私は……誰かの人生を、壊す存在なの?

 そんなはず、ない……)


リュカがそっとアイシャの手を握る。

小さな手なのに、とても温かい。


「違うよ。

 あなたの“理由”は、誰かを壊すためじゃない。

 あなたが“生きたいと思った”から生まれた風なんだよ。」


リュカが空に向けて手を伸ばす。

その掌から、風の粒子が溢れた。


「だから……世界は“二つ”欲しがったんだよ。

 一つじゃ足りなかった。

 それだけ、誰かの“想い”が強かったってこと。」


ツイン・エコーの紅い瞳が、わずかに揺れた。


「——その言葉は、観測層の誤差を増やす。」


リュカは泣きそうな顔で、でも強く言った。


「誤差じゃないよ。

 “本当”だよ。」


静寂と風が衝突した。


空から落ちていた記録の光、

地面から昇る再生の粒子——

全部が震え合って、

世界そのものが低く唸り始める。


ツイン・エコーの足元から、黒い風が吹き上がった。

風ではない。

風が止まる風だ。


「世界は、選択を迫っている。

 どちらの“アイシャ”を軸にするか。」


声が、空気を切り裂く。


「もしあなたを選べば、

 この世界は未来へ進む。

 けれど、その分岐に耐えられない層は崩壊する。」


アイシャの胸が痛いほどに締めつけられる。

息が苦しい。


「じゃあ……あなたが選ばれたら?」

アイシャは震えた声で訊いた。


ツイン・エコーは淡々と答えた。


「変化は止まり、記録は安定する。

 誰も傷つかず、誰も失われない。

 世界は永遠に凍りつく。」


——永遠に、凍りつく。


それは“優しさ”にも聞こえた。

でも、それは——

生きることをやめる世界だった。


アイシャはゆっくりと握り拳を作った。

足が震えても、逃げなかった。


「……たとえ誰かが傷ついても、

 私……生きたい。

 一緒に生きたい人がいて……

 その人たちと、笑い合いたいと思った。」


その瞬間、EchoBANDが強く光る。

青い風が、彼女の背中から吹き上がる。

まるで世界そのものが、

“その言葉を待っていた”みたいに。


ツイン・エコーが初めてオーラを揺らした。

一瞬だけ、表情にも似た影が走る。


「……それが、あなたの“理由”か。」


アイシャは涙を拭い、

真っ直ぐに影の自分を見る。


「あなたの理由は、何?」


その問いに、ツイン・エコーは初めて言葉を詰まらせた。


紅い瞳が揺れる。

唇が、かすかに震える。


「……私には……理由がない。

 私が持っているのは……

 “与えられた機能”だけ。」


その声は、初めて人間の声に近かった。

痛みを隠している声だった。


リュカが、悲しそうに呟く。


「じゃあ……あなたにも“つくろうよ”。

 生きる理由を。

 一緒に……」


その時——


世界が、揺れた。


空の裂け目が広がり、

上空の“もう一つの街”が、

巨大な影を落としながら近づいてきた。


二つの世界が、

重なろうとしていた。


ツイン・エコーが、かすれた声を漏らす。


「……間に合わない。

 分岐点が……収束を始めた。」


アイシャが息を飲む。


「じゃあ——

 **世界が、私たちを“同時に選ぼうとしてる”**ってこと……?」


カイルの右腕が強く輝く。

蒼と紅が混ざり、まるで答えを急かすように脈打つ。


世界の風が鳴り響いた。

静寂と風の両方が、同時に吹いた。


——次の瞬間、

二つの空が、一つに重なった。

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