表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風が止まった世界で、俺はもう一度“生きる理由”をつくる  作者: GT☆KOU


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/54

《残響の起源(オリジン・オブ・レゾナンス)》

——その昔、火がまだ神聖な恐怖だった頃、人々は風に名を与えていた。

夜を裂く雷を“声”と呼び、燃え上がる炎を“魂の舌”と信じた。

そして、風の中に“何か”の気配を感じ取る者たちがいた。

彼らは風を祈りで動かし、声を持たぬ声を聴いた。


その者たちは“カムナ”と呼ばれた。

風を視ずして語り、声を聴かずして応える者。

彼らにとって風はただの自然ではなく、

世界の記録であり、魂の媒介であり、

目に見えない「想いの書庫」だった。


まだ電気も磁場も知らない人々の時代、

カムナたちは「思念」という見えない糸を理解していた。

それは祈りよりも古く、言葉よりも静かな力。

人が何かを想ったとき、その想いは形のない印を残す。

それが彼らのいう“言霊コトノハ”だった。


言霊は空を渡り、石に宿り、水に沈み、

やがて世界の至るところで“記録”として眠った。

木々の節にも、打たれた鉄にも、人の手で削られた粘土にも。

形あるすべてのものが「記憶の器」だった。


そしてその言霊を“聴き戻す”者たちが現れた。

彼らは祈祷師でも神官でもない。

世界の記録を自らの体に通し、

過去と未来の狭間に立つ者——“トワカ(TWAKA)”。

風の声を夢で聴き、死者の記録を眠りの中で読み返す。

彼らの呼吸は風と重なり、瞳の奥に時間の光を宿した。


あるトワカは、夜明け前の風を“未来の吐息”と呼んだ。

別の者は、雪の中の沈黙を“神の記録”と信じた。

彼らにとって世界は、語りかける本だった。

書かれたものを読むのではなく、

風に触れ、石を撫で、火の揺れ方を聴いて、

“誰かの想い”を読み取っていた。


——そして彼らは気づいた。

変わらないものほど、強く記録を留めるのだと。


石は千年の風を浴びても崩れず、

氷は数万年の寒を抱えても形を変えない。

その静寂の中に、想いは封じられている。

彼らは氷を「世界の記憶」と呼んだ。


氷の結晶一つひとつは、風が瞬時に凍った形だ。

そこには、当時吹いていた風の“声”が残る。

音の波、温度の揺らぎ、祈りの吐息。

人がまだ言葉を持たなかった時代の記録が、

結晶の間に微細な振動として眠っていた。


氷は、最古の記録媒体だった。

火がすべてを燃やし、風がすべてを散らしても、

氷だけは「記憶」を保存した。

それは神々が造った最初の記録装置——

“沈黙のサイル・ミラー”と呼ばれた。


やがて人々は火を制し、鉄を生み、

星の光をも支配できるようになった。

そして再び、風の中に眠る“声”を聴く時が来た。

科学が霊性を追い越し、

信仰が計算式になり、祈りがデータに変わった時代。

それでも、本質は変わらなかった。


氷は今も語っている。

南極の奥深く、何億層もの氷床の下で、

地球が生まれてから今に至るまでの“風の履歴”が眠っている。

火山の息、隕石の衝突、初めて咲いた花の花粉、

古代の人々の吐息、そして名もなき祈り。

それらすべてが分子の記録として刻まれている。


現代の学者たちはそれを“化学的痕跡”と呼ぶが、

トワカの末裔は違う言葉を使う。

彼らはそれを“記憶の残響”と呼ぶ。

風が通り過ぎたあとの微かな揺らぎ、

それが再び形を持つとき、

過去が現在を侵食する——それが“再転移”と呼ばれる現象の正体。


氷の下には、まだ解き明かされていない膨大な情報がある。

それは文明以前の記録であり、

かつて存在した“思念の海”そのもの。

誰かの意識が閉じ込められたまま、

記録として、今も生きている。


——そして今。


世界のあちこちで、風が読み返しを始めた。

氷が溶けるたび、言霊が解放されるたび、

現実と過去の境界が、音もなくずれていく。


風が記録を読む。

氷が声を取り戻す。

世界が、自分自身のページをめくっている。


それは災いではない。

それは世界という本が、

久しく閉じられていた章を再び開いているだけのこと。


今、風が動き、粒子が光り、

Dヘルツァの流れが再び巡る。

科学はそれを偶然だと言い、

信仰はそれを予言だと言う。

だが真実はもっと単純だ。


この現象は“残響”。

過去が未来を呼び、記録が世界を紡ぎ直す。

そして、今起きているすべての事象は、

既に——残響として解明されている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハイファンタジー 風と記憶の物語 神々と人間 古代文明 魔素とテクノロジー 異能バトル ポストアポカリプス 遺跡探索 記憶継承 強いヒロイン 男主人公 少し恋愛 群像劇 シリアス 感動 哲学要素あり エコーバンド 黎明シリーズ リヴァース・サーキット 神々ノ階
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ