地獄耳の心音(ころん)
作品の中にBBAの文字かありますが、ビービーエーとお読みください。
それ以外の読み方は間違ってもしないように、死にたくなかったら。
【時は、1980年代前半】
パラリラパラリラ! フォンフォンフォーン! ブオォォーン!
某県の海沿いにある某市の市内に、真っ昼間から改造車の直管マフラーの爆音やホーンの音が聞こえて来た。
真っ昼間から市内を暴走してる族がいるようだ。
ウーウーウー! 「止まれー!」
暴走してる奴らを追尾しているのか? パトカーのサイレンと停車を求める拡声器の声も聞こえる。
パラリラパラリラ! フォンフォンフォーン! という音が市内に響き渡り始めると、女性たちが沿道に群がり始めた。
下は4〜5歳の幼女から上は腰が曲がり杖をついたお年を召したお姉さんまで、多数の女性が沿道に群がる。
逆に男性は口と頭に手を当てて建物の中に引っ込んだり、路地の奥に駆け込んで行ったりした。
沿道に残っている男は、他県から遊びに来たらしい街路樹の傍に立っている若い男の2人だけ。
暴走している族の姿が見えて来た。
2輪(自転車)3輪(3輪車)4輪(補助輪付き自転車)が数十台、中央分離帯で区切られている片側2車線の道路いっぱいに広がり蛇行走行をしている。
蛇行走行をしている数台の2輪や4輪の荷台にはラジカセが縛り付けられていて、そこから直管マフラーの爆音やホーンの音が流れ出ていた。
先頭で2輪を蛇行させているのは、背中に喧嘩上等と狂走族『虎乱』四代目総長の文字が縫いつけられた白い特攻服を着て髪を緑色に染め、頭の上に団子のように纏めている10歳前後の可愛い女の子。
その後に続く2輪3輪4輪の搭乗者たちも、10歳前後から4〜5歳の女の子たち。
荷台にラジカセを積んで無い2輪や4輪の数台は2人乗りをしていて、後ろに乗る女の子たちは走行を妨害しない程度の大きさの旗を振り回している。
振り回されている旗は、日章旗と旭日旗に狂走族『虎乱』と書かれた旗。
沿道に群がっていた女性たちは先頭の女の子の姿が見えた途端、黄色い声で声援を発する。
「「「コロンちゃーん!」」」
「「「コロン! コロン! コロン!」」」
手を振る幼稚園児や小学生の女の子たちだけで無く、腰の曲がったお年を召したお姉さんたちも杖を振り回しながら叫んでいた。
そんな騒ぎを余所に、お喋りしている他県の若い男たち。
「今日お前と遊びに行くから小遣いくれって言ったらよ、あのクソBBA……」
男の片割れがBBAと言った時だった、ヒュンっと音と共に何かが飛んで来て、BBAと言った男の頭皮スレスレを掠め街路樹に突き刺さった。
街路樹に突き刺さったのは肉切り包丁。
もう1人の若い男はBBAと言った男の頭を見ながら、声を掛ける。
「あ! あ、頭……」
「え? 頭がどうし……」
連れの言葉で頭に手を当てて驚愕する。
綺麗に整えられていたリーゼントが、頭皮スレスレで断ち切られている事に気がついたからだった。
驚愕している男に下から声が掛けられる。
「オイ! 今なんつった?」
え? と思い、リーゼントを頭皮スレスレで断ち切られた男は目線を下に向けた。
目線の先には両手に肉切り包丁を1本ずつ握った緑色の髪の女の子がいて、自分を睨みつけている。
彼女の後ろには手に手に金属バットや鉄パイプにトンカチや園芸用ゴテなどの道具を持った、数十人の特攻服姿の女性……もとい女の子たちがいて同じように彼を睨んでいた。
その女の子たちの背後には、沿道から緑色の髪の女の子に声援をおくっていた多数の老若の女性たちがいて、彼を険しい顔で睨んでいる。
それでも彼は虚勢を張り緑色の髪の女の子に反論した。
「あー? テメエにはうちのBBAをなんと言おうと関係ねーだろーが」
「うちのって言うことは、アンタの母親の事を言ったのか?
ふざけんじゃねーぞ、ゴラ!」
「何がふざけてるだ? BBAをBBAと言って何が悪いんだ?」
「悪いに決まってるだろがぁ! テメエを腹を痛めて生んでくれて、育ててくれたのは誰だと思ってるんだ? 飯作ってくれるのも洗濯してくれるのもテメエの母親だろうが! そういう人に言う言葉じゃねーだろ! お母さんって言いやがれ!
まだ四の五の抜かすなら、テメエの物ぶった切って女にしてやろうか?」
そう言いながら緑色の髪の女の子は、右手の肉切り包丁を男の股間に突きつける。
「ヒッ!」
連れが女の子と言い争っている間、もう1人の男は周りを見渡し助けてくれそうな人の姿を探す。
が、蛇行走行していた女の子たちを追尾していたパトカーの警官たちは彼らに背を向けて、自販機のコーヒーを飲みながら我関せずという感じで駄弁っている。
周辺の商店の奥の暗がりや住宅の2階の窓から此方を眺めている男たちは、身振り手振りで早く謝れと指示していた。
それを見て助けが来ないのを確信した男は、連れと女の子の言い争いに介入する。
「止めろ、止めろ、此の子の言う通りだ。
サッサと謝れ!」
「アタシじゃねー! テメエの母親に詫び入れろ、詫び入れなかったらテメエの家に押しかけるからな!」
「分かった、分かった、地元に帰ったら必ず此奴の家に行って此奴のお袋さんに謝らせるから、勘弁してくれ」
「ならサッサと帰りやがれ」
連れの男は、まだ何か文句を言いたそうな顔の女の子と言い争っていた男の襟首を掴み、自分たちのバイクの方へ引っ張って行った。
因みに家に押しかけるって言うのは脅しでは無く、約束を守らないと本当に押しかけて来る。
此の街の男たちはそれを身を持って知っていた。
男たちの誰かが女性の悪口を言った途端、何処からか肉切り包丁が頭皮スレスレに飛んで来て、緑色の髪の女の子が突っ込んで来るのだ。
だから誰が言い出したかは分からないが、街の男たちは緑色の髪の女の子を地獄耳の心音と二つ名で呼び、恐れていた。
大の大人と子供が喧嘩になれば、いくら女の子が肉切り包丁を持っていても激高した大人に勝てる訳は無い。
だが、彼女と喧嘩になれば喧嘩した男は全員その報いを受ける。
男の母親、連れ合い、娘、若しくは恋人などに、飯は作ってもらえないわ、洗濯はしてもらえないわ、下手すると家から叩き出されるのだ。
だから男たち(男性警察官含む)は、緑色の髪の女の子に関わりにならないようにしていたのだった。
去って行く男たちを見送った緑色の髪の女の子が愛車の下に戻ろうとしたとき、応援のパトカーが到着し応援のパトカーから交機の制服を纏った女性警察官が降り立つ。
女性警察官は緑色の髪の女の子に声を掛けた。
「心音! 帰るよ」
「あ、ママ」
心音ちゃんに声を掛けた事で交機の女性警察官に気がついた、群がっていた女性たちのうち30代から40代のお姉さんたちが歓声を上げる。
「「「キヤァァァー! 初代様よ」」」
初代様と言われた交機の女性警察官はそちらをチラっと見て軽く会釈した。
ママと言ってから心音ちゃんは彼女に付き従う女の子たちに声を掛ける。
「皆んなー! 今日は此処で解散するぞー!」
「「「分かりました!」」」
付き従っていた女の子たちが返事を返す。
女の子たちが返事を返した途端、追尾していたパトカーの後ろを走っていた多数の乗用車から女の人たちが降りて来た。
そこに向けて返事を返した女の子たちは口々に、「ママー」「お母さん」と言いながら駆け寄って行く。
心音ちゃんも愛車をパトカーのトランクに積んで貰うと、パトカーの助手席に座り帰って行くのであった。
【アフォの祭典 主催者コロン様からの頂き物】
虎乱の初代は心音ちゃんのママ、2代目はママの妹、3代目は心音ちゃんの年の離れたお姉ちゃん、5代目の地位を今5歳の従姉妹が狙ってます。
因みにママの妹と心音ちゃんのお姉ちゃんも、交通機動隊の警察官です。