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恋愛・ヒューマンドラマ

それでも1000年生きた魔女は呪いの王子を愛す

作者: 二角ゆう

 レインドール王国に呪われし王子が生まれた。100年に1度の大災厄をもたらすと言われる黒髪に黒い目をしている。怒りがこもると目が赤く光だし大地震や疫病、戦争を引き起こすと言い伝えられている。


 だが、見た目はどの王子よりも目鼻立ちが整っており魅力的なため、魅惑の悪魔と呼ばれている。



 ここに1人の少女がいる。金髪で紫色の瞳をもつ可愛いらしい風貌だ。この少女は見た目からは想像出来ないが1000年生きた魔女。そろそろ終焉を迎えたいが死にたいが、自分では死ねない。そして死ぬ方法をずっと探していたのだ。


 そこへ呪われし王子が生まれたと聞きつけた。王子は王城の周りにある森の中に離れが作られておりそこへ隔離されていたのだ。



 少女は森の中の王子がいるという離れを見つけた。平民の別荘のような2階建ての家のように見える。木の造りで王族が住んでいるとは思えなかった。


 少女はぐるりと家の周りを一周すると窓から中を覗いてみた。中もシンプルな造りのようでベッドとその脇にサイドテーブルと本棚がある。


 だが、本人はいないようだ。


「また野次馬か? 警備の兵士に突き出すぞ」


 少女の後ろから声がした。少女は振り返ってみる。噂通りの漆黒の髪に黒い目をしている。漆黒の髪は艶があり頭には光の反射でエンジェルリングが出来ている。黒い目は呪われたと言うにはほど遠い綺麗な瞳をしている。身長は160センチ満たないほど、見た目は12歳前後に見える。


「あなたが呪われし王子?」

「そうだ、皆もそう呼んでいる。面白いか? 帰ってネタにでもするか?」


「帰らない。帰るところがないんじゃ」


 少女は落ち着いた調子でそう答えるとお腹が高らかと鳴った。少女は口を尖らせた。それを見て王子は笑った。


「ははっ家出少女か」


 その後すぐに真顔になって家の中に入っていった。

「とりあえず飯でも食ってけ」


 王子は扉を開け放した。王子はそのままキッチンに向かった。少女は興味深そうに王子のやることを見ている。王子は手際よく肉に塩コショウを振ると肉の表面を焼きはじめた。隣には寸胴鍋がありそれに火をつけた。肉のおいしそうな匂いが立ちこめてくる。


 両面が焼けると火を落として蓋をした。隣の鍋はコトコトと音を立て始める。肉が焼き上がったようだ。王子はお皿に肉乗っけると少女に渡した。


 少女はテーブルへと運ぶ。戻ってくると王子は続けてソースの入った瓶を渡してくる。その間に王子は肉を焼いていたフライパンを洗いはじめた。


 また、なんて慣れた手つきなのじゃ。ずっとここに1人で暮らしているのか?


 少女が戻ってくると今度は木のおわんを取り出し隣の鍋からスープをすくう。そしてまた王子は少女に渡してきた。少女はおわんを覗くと野菜のポトフだった。


 テーブルで王子を待っていると、ナイフとフォークとスプーンを持ってきた。手を合わせると2人で食べ始める。


 少女は肉を大きめに切り分けると勢いよく口の中へと入れた。


「むぐ⋯⋯んー!! ⋯⋯おいしい!」


 少女は思わず声を上げる。それを見た王子は嬉しそうな笑顔になる。だがそれは一瞬で真顔に戻った。少女はリスのように頬を膨らませてもぐもぐと肉を平らげていく。


 肉が終わると野菜のポトフも頬張った。久しぶりの誰かの手作りの料理に少女は喜んだのであった。食べ終わると食器を片付けて、王子はマグカップにお茶を淹れてくれた。王子は少女にマグカップを渡してきた。


「そろそろ君の事を教えてくれないか?」

「わしは1000年生きた魔女じゃ」


 それを聞いた王子は目を見開いて少女を見ている。王子は嬉しそうな顔でテーブルに手をつき少女に近づいた。


「そうか、じゃあ俺を殺してくれよ」

「何言ってるんじゃ。逆じゃ。其方の呪いでわしを殺してほしいのじゃ」


 それを聞いた2人は深いため息をついた。殺してほしかったのは魔女だけではなかったのだ。王子もまたこんな人生に嫌気がさしていた。


 魔女も王子を殺す魔法は知らない。


 王子も魔女を呪い殺す方法を知らない。


 打つ手がないので自己紹介をした。

 王子はエリック、魔女はリリアンという名前だった。


 魔女は幾度も死にたいと思ったことがあるが死に損ねていた。だが、そろそろ1000年にもなるとさすがに終止符を打ちたい気持ちになってきたのだ。


 エリックはリリアンに1000年もの間、何をしていたのかを聞いた。


 昔はドラゴンもいたし、勇者もいた。リリアンもパーティーを組んでドラゴン退治をしたり、王さまの手助けをすることもあった。


 それに飽きると町へ行き、薬草を扱う診療所を作った。いろんな人と関わりを持てて嬉しかったそうだ。


 ある時は大航海時代がやってきて、船にも乗った。誰よりも身軽な船乗りでよく帆の柱に登っては座り夕日を眺めていた。


 久しぶりの昔話にリリアンは2時間も話してしまった。それでもエリックのきらきらと輝く目は変わらない。また、明日続きを話すことにして切り上げた。


 朝起きると目玉焼きとベーコンを焼いてパンの上に乗せて食べる。森の中を散策して戻ってくると、昼ご飯を食べてまた、森へ出る。今度は木の実や果実を採って戻る。夜になるとリリアンの話が始まるのだった。


 リリアンはエリックの手料理をいたく気に入り、いつも大きな口を開けて頬張った。



 だんだんエリックに笑顔が増えていく。



 リリアンの美味しそうに食べる姿を見ながら目を細めて微笑んだ。たまに口元にソースをつけたままにしてしまうのでエリックは指でリリアンの口元のソースを拭った。


 エリックはボードゲームをしようと提案した。リリアンはボードゲームを知らないのでルールを教えてもらった。ハンデをつけてもらったのにリリアンは何度も負けた。


「エル、其方は強いな。いくらやっても勝てない」

「ははっ、次は何か賭けるか?」

「それなら相手の言うことを1つ聞くというのはどうじゃ?」


 リリアンは大差で負けた。そしてエリックに聞いてみると目を伏せがちに頬を赤らめた。


「あのさ⋯⋯俺と同い年くらいの見た目になれる?」

「13歳くらいかの? よし、やってみよう」


 リリアンは変身した。金髪の髪は肩甲骨くらいまで伸びて、胸とお尻は大きく膨らみ、腰回りは締まって女性らしい身体つきになった。だが、見た目はどう見ても15歳くらいある。それを見たエリックは顔を真っ赤にして視線を外すと頭をかいた。その仕草が可愛かったのでぎゅっと抱きしめた。


 可愛いやつじゃな! 


「ちょっと年上になってしまったが、これでもいいか? それとももう少し幼くしようか?」

「⋯⋯そのままがいい⋯⋯です」


 エリックは少し泣きそうに眉間に皺を寄せたが照れているだけのようだった。


 こんな可愛い子が呪われし王子だなんて誰が思うのか。


 それから少しエリックの様子が変わっていった。それはリリアンにいいところを見せようと森での採集を張り切ったりしている。そしてたくさん採れた物を嬉しそうにリリアンに見せてくるのだ。


 可愛いと思うあまり頭を撫で回したり抱きしめてしまう。だが、エリックは嬉しそうな顔で目を伏せがちに微笑んだ。


 こんな天使みたいな子にいつ呪いが出るというのだ。それまでの間、この離れにいるだけなんてもったいない。


「なぁエル、家庭教師を雇っていろいろ教えてもらわないか?」

「えっ⋯⋯でもどうやって?」

「わしが連れてくるから待っとけ」


 リリアンは意気揚々と森から出て王城に行った。調べてみるとエリックの腹違いの弟がいるようでその家庭教師にそれとなく近づいてみた。


 情報の代わりにポーションを渡すことで話がついた。その家庭教師が忙しいときは口の固い他の者をつけてくれるそうだ。


 ポーションを作るのは簡単だ。ただ自分の血を瓶に注げば良いだけだった。


 エリックに家庭教師がつくと、エリックは乾いたスポンジのように貪欲に吸収し始めた。それを隣で見ていた家庭教師もまたエリックの学習に力が入った。


 難しいことを覚える度にリリアンは嬉しくなってエリックを抱きしめた。そのうちエリックは抱きしめてほしい時にリリアンを見たあと目を伏せがちに両手を広げてきたので、その度に強く抱きしめた。



 呪いはいっこうに発現しない。



 エリックはもう16歳になっていた。ある時王室から従者がやってきた。社交界に出る歳だったのだ。エリックは従者の言葉にたじろいでいたがリリアンのことをちらりと見た。


「リリ、君が一緒に出てくれる?」

「ああ、いいじゃろ」


 リリアンは見た目を変えていなかったのでちょうどエリックと釣り合う見た目になっていた。


 それにしても嬉しそうなエルは可愛いのう。



 ■



「やっぱり変じゃないか?」

「そんなことはない。令嬢たちを興奮させすぎて倒れさすでないぞ」


 エリックは真っ白なタキシードを着ていた。社交界の場では黒のタキシードが多い。だがリリアンは漆黒の髪が映えるように白のタキシードを選んだのだ。


 そしてリリアンは胸からウエストまでは白に光沢のある白い糸で花を刺繍した柄でその下は真っ黒のドレスだった。


「其方を染める真っ黒と一緒な黒いドレスを着るのはわしだけじゃな」

「リリ、すごく似合ってるよ」


 照れながらも真っ直ぐ見てくるエリックは天使さながらだった。エリックは手を腰に置くとリリアンの手をそこへ添えた。エスコートをするようだ。


 2人が会場へと入ると、会場の参加者は一斉に2人を見た。


 つかの間の沈黙が終わると、いっそうざわざわとうるさくなった。リリアンは令嬢たちが熱い目線をエリックに向け始めたのに気がついた。


 リリアンはエリックの方を見ると目が合った。だがエリックは口を尖らせている。


「君を見ている男が多すぎる。もう帰りたい」

「何を言っているんじゃ。其方こそ令嬢たちの穴が空きそうなほど熱い視線に気が付かないのか?」


「ふん、興味ないよ」

「せっかく来たのだからダンスを踊っていくだろう、王子?」


 リリアンは手を伸ばすとエリックは応じるように手をつかんだ。そのままダンス会場へと移動する。


 音楽が鳴り始めると2人はお辞儀をして手を肩と腰にそれぞれ置くとダンスをはじめた。エリックは要領がいいのか、動きが滑らかだった。


 一方リリアンは危なっかしいステップを踏みながら悪戦苦闘している。それを見てエリックは口を開けて笑った。


「あはは、リリアンはダンスが下手だな」

「人生苦手なものの1つや2つはあるものじゃ」


 そんな軽口を言いながらもリリアンは楽しいひと時に感じた。ダンスが終わるとリリアンはトイレに行くと言って席を外した。そして戻ってくるとエリックは令嬢たちには囲まれていた。


「おっと、これは厚い壁じゃな」


 リリアンはどうしようか思案している。すると遠くのエリックがリリアンの方を見た。そして目を伏せがちに両手を広げている。それを見たリリアンは走った。


 あれは抱きしめてほしいのサインじゃ!


 リリアンはエリックに近づくと声を張り上げた。


「エル!」



「⋯⋯リリ、来てくれたんだね」


 リリアンが抱きしめるとエリックは嬉しそうにリリアンの肩に頬を乗せた。


「あれっエル背が伸びたかの?」

「あっ気がついてくれたんだ。嬉しいな」


 その日を境にエリックは王城に呼ばれ、王城の中に住むことになった。



 ■



 リリアンはエリックの呪いについて調べることにした。王城に行くということは迂闊に動けなくなる。それに呪いが発動しないならそのままでもいいのかもしれないと希望を持ち始めたのだ。


 エリックがベッドで寝息を立て始めるとリリアンは人差し指で空中に何かを描くとエリックの周りに魔法陣が出来上がった。


 リリアンはそこから呪いの根源を探そうとしていた。心臓の近くに何かがある。それは何重にも絡み合った黒い塊。


「これは元々持って生まれた呪いではなかったのか⋯⋯」


 リリアンは怒りで顔を歪めた。それは呪術で長年の怒りや悲しみなど人の黒い気持ちを圧縮して出来た『呪い』。それを呪術でエリックに植え付け呪われし王子に仕立て上げられたのだ。


 リリアンは直接見たことはなかったが、決まった周期で生まれる呪われし王子について疑問を持っていたのだ。その呪いを人が行っていたのだから、周期的に行えるのは当たり前だ。


 何の罪のないエリックは呪いの器にされて苦しんでいる。それにこの呪いはリリアンが取り去ることは出来ない。ある方法を除いて⋯⋯



 この日、いつぶりだろうかリリアンは涙を流した



 リリアンは見守ることしかできなかった。王城へとエリックが移る日取りが決まった。エリックはリリアンの手を取って下からリリアンの様子を穿った。


「リリアンも来てくれるよね」

「もちろんじゃ」


 エリックは嬉しそうな笑顔を向けてきた。王城の人のみならず、周りの人たちはエリックが呪われし王子と呼ばれていたことをすっかり忘れたように接している。エリックが王城へ行くと自ら挨拶して親しそうに声をかけている。


 エリックは地頭も良かったので王族教育も問題なくこなしはじめた。エリックの隣にはいつもリリアンがいた。エリックはここでもスポンジのように物事を吸収していった。


 リリアンのそばにいるエリックはいつも朗らかに笑っていた。リリアンは愛おしそうな目でエリックを見続けていた。


 その間にお茶会やダンスパーティーなど社交があったがエリックとリリアンはいつも同じ服装で行った。後で聞いた話だと、リリアン以外に黒いドレスを着ることは禁ずると触れを出していたそうだ。


 そのいじらしい行動にリリアンは微笑んだ。



 ■



 エリックが18歳になった頃、王さまが崩御した。そこで指名されたのはなんとエリックだった。


 エリックは若くしてこの国の王となったのである。エリックはそれから今までよりもさらに忙しい日々を送るようになった。


 それでも忙しい合間に寝る時にはリリアンの手を握って座りながら仮眠をとった。


 リリアンは呪いについて調べ続けていた。この呪いを封印することは出来ないか。だが、まだその方法は見つかっていない。


 エリックが王となって半年が過ぎた頃、虚しくも呪いは発動してしまった。




 疫病だ




 地方の領地からじわじわと広まっていた。それを聞いたエリックは胸を痛めた。その疫病は王都まで広がっていたのである。


 エリックはリリアンの手を握り真剣な目を向けてきた。


「リリ、これは私の呪いなのか?」


 リリアンは閉口していた。それでもエリックはその意図を読み取ったようで部屋を出ていこうとする。


「もし、これが呪いであったらエルはどうするのじゃ?」

「俺を殺してくれ」


 エリックは部屋を出て行った。リリアンは目をつむりその場に崩れ落ちた。初めて会ったころの光のない目では無かったのだ。それは深い悲しみの残る瞳だった。



 リリアンは決意した



 ■



 その日の夜、リリアンはエリックを部屋のバルコニーへと呼んだ。


 エリックは悲しそうな顔をしている。リリアンは穏やかに微笑んだ。


「エル、朗報だ。呪いを解く方法が1つだけある。しかしそれは今は言えない」

「本当? リリ、ありがとう⋯⋯本当にありがとう!」


 それを聞いたエリックはリリアンを愛おしそうに抱きしめた。16歳の風貌から変わっていないリリアンはエリックの胸の中にすっぽり入ってしまったのだ。


 リリアンは顔を上げるとエリックはリリアンの顎を手で持ち、口づけをした。


「リリ、愛している。私とずっと一緒にいてくれないか?」

「⋯⋯⋯⋯エル、わしは1000年生きた魔女だ。いろんな出来事があった。人並みに嬉しさも悲しさも怒りも楽しさも経験してきたと思う。だが1000年もするといろんなことを忘れていく。その中であることを思い出したのじゃ。それは愛おしさじゃ。エル、愛している」


 そう言ったリリアンの目は潤んでいた。


 満月の出る月に照らされて2人は抱きしめ合った。


 エリックはベッドの中で幸せそうに眠り始めた。リリアンはエリックの手を優しく包む。


「エル、わしは其方に会って忘れていたことをどんどん思い出していった。其方と共に過ごした月日は人生で一番輝いていたかもしれない。わしと出会ってくれて本当にありがとう」


 リリアンはいろんなことを考えあぐねいたが、上手く文章にならない。ところどころ消した書きかけのような手紙を書くと、それをサイドテーブルの引き出しに入れた。



 ■



 次の日、王城の周りには人だかりが出来ていた。そして恐れていたあの言葉が聞こえる。


「やっぱり王様は呪われし王子だったんだ! これは呪いなんだ!」


 市民は口々にいろんなことを言い始めた。エリックは震える手でリリアンを手招きすると市民が集まっているバルコニーに姿を現した。リリアンはエリックの手を握る。


「エル、呪いを断ち切ろう。⋯⋯この先エルと共に未来を歩めないことを詫びる。わしはそのいしずえになるのじゃ」


 リリアンはぽつりと話し始めた。


 魔女がなぜ長生きなのか――


 生命力にあふれているからだ。その血は回復をするポーションになる。そして呪いを解くにはその生命力を削る必要があるのだ。


 つまりリリアンの生命力の対価がエリックの呪いを解くことなのだ。


 それが分かってからリリアンは何度も思い返し涙を流した。それは3年の月日を経て1000年分の涙を流したのだ。



 もう何怖くない



 エリックは涙を溢しながらリリアンを見て大きな口を開けた。


「リリ、嫌だ⋯⋯代わりに俺を殺して呪いを断ち切ってくれ!」

「⋯⋯エルが死ぬにはまだ早い。わしは1000年生きた。其方はこれから他国を知り、いろんな人と出会いその多種多様な意見や知識を知って経験を積むことが必要じゃ。わしがそばにいることは叶わないが歴史に残る偉大な王に其方はなろう」


 リリアンはそっとエリックを抱きしめた後、優しく別れの口づけをした。エリックは眉頭を上に上げ眉間に皺を作っている。


 リリアンはエリックの姿を最期に焼き付ける。そしてエリックのことを想う⋯⋯綺麗な眼差しも照れたような表情も嬉しそうに笑顔を向けてくる姿も何もかも愛おしかった。


 この方法が呪いから救う方法だと分かった時、初めて死ぬのが怖くなった。もう2度とエリックに会えなくなる⋯⋯。


 この方法しかないと体感した時から毎晩泣いた。エリックと離れるのが嫌だったんだ。


 誰が殺してくれればいいのにと何年も思っていたのに、エリックと出会ってから未来のことしか考えられなくなった。エリックの隣にいるリリアン。


 もっと、其方の手料理を食べたかった。もっとわしの昔話でもくだらない話でもして笑い合いたかった。其方の真っ白なタキシードの隣にいたかった。


 王様になって不安そうな其方は仮眠を取る度に手を握ってきた。その時間はかけがえのないものだった。


 其方が「私とずっと一緒にいてくれないか?」と聞いてくれた時どんなに嬉しかったか⋯⋯


 その時強く思ったのだ、其方を守りたい


 さっきも「代わりに俺を殺して呪いを断ち切ってくれ!」と言ってくれた優しいエル。もうお別れをしないといけない



 わしは1000年生きた魔女だ。決して最期の時くらいは泣いてはいけない



 するとリリアンはエリックににこりと笑った。そして振り返るとバルコニーへと近づく。エリックの伸ばした手は宙を彷徨ったままだ。バルコニーの手すりに手をかけるとよじ登りバルコニーの上に立った。


 市民たちはこれから何が起こるのか分からずリリアンを見つめる。リリアンも満足そうに自分を見てくる市民たちを見渡した。


「この国の民よ、エリック王が疫病を鎮め歴史的な日になる!」




 リリアンは振り返りエリックを見ると両手を広げた。エリックが走ってくる。リリアンはしゃがんでエリックの肩を抱く。するとまばゆい光が溢れてくる。




 魔法陣で満た呪いが現れる。絡み合った黒い呪いは1枚ずつ剥がすように小さくなっていく。




 リリアンは苦しくなってくる。それでも耐えなければエリックの呪いはなくならない。




 リリアンは目を閉じて呪いに生命力が吸われていくのを耐えた。





 すべての呪いが綺麗になくなるとリリアンの姿は四方に散る光の粒とともに無くなった。



 ーーエピローグーー


 リリアンがいなくなったエリックは疫病を鎮めた王として国民は熱狂した。


 この日以降、喪服以外の黒い服を禁止にした。リリアンが着てくれた黒いドレスを思い出すかのように、エリックは毎日黒い服を死ぬまで着たのだ。


 それからエリックはリリアンを讃え、「聖女の像」を建てた。


 もしリリアンが生まれ変わっても分かるように⋯⋯しかし今のところその知らせはない。


 エリックはそれ以降他国と積極的に交友を深め、学習することを死ぬまでやめなかった。


 質素な生活を好み、誰も娶らなかった。


 そして存命中はエリックは「独身王」と呼ばれた。


 そして貴族制度を廃止すると、商人が活躍する資本主義が訪れた。


 そしてエリックは40半ばに腹違いの弟に王位を譲ると言ったが、弟本人だけではなく宰相や大臣、貴族、果てまでは国民から反対を受けて王のままであることに決めた。


 60代になると腹違いの弟も亡くなった。


 エリックはこの時代で稀有な長生きとなり93歳でこの世を去る。


 後継ぎがいないため、国民に投票制度を制定させた。後に王位制度の「革命」と呼ばれた。




 エリックの死後、最大の繁栄をもたらした偉大な王だと歴史に残っている。

お読みいただきありがとうございました!

誤字・脱字がありましたら、ご連絡よろしくお願いします!


初めて悲恋を書いたので大丈夫かなと心配です。

もしよかったら広告の下の【☆☆☆☆☆】に星★〜★★★★★をいれていただけるとすごく嬉しいです!

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