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第二わ 教頭せんせー、人生相談です

「教頭せんこう!! 人生最後の相談があります。セロリうま」

「どこから突っ込んだらいいのやら……。あのですね」



 ある程度年齢が召した女性の教頭先生は、校長室にあるソファーで対面になる形で、意気揚々と話すホームズを困りながら相手していた。

 まず「せんこう」ではなく「先生」と呼ぶ事、人生最後というのはあまり使わない事、何もない時にセロリを食べない事をまずは伝えた。意外と素直に聞き入れ、ひとまずはホッとする。


「……それで、相談とは?」

「私の母上が元気ないです。良ければ助けの泥橋を作り、共に泥舟で海を渡りましょう。教頭せんせー」

「なるほど。よく分かりませんが、分かりました。自分は何をすれば良いですか?」

「ズバリ!! 名探偵ごっこします! 私が名探偵で、せんせーが助手のワソトンです」

「ワトソンですよ」

「いざ、出航!」

「はいはい」


 勢いのまま教頭先生はホームズの大きな自宅へ。その敷地の広さと建物の大きさに驚く。

 その時見てしまった。母親と見知らぬ大男が一緒に扉をくぐり、入っていく様を。ホームズはびっくりして、電流が走る。そのままひざまずく。


「もう結婚しないって言ってたのに、母上……ホームズがっかりんこ大賞です。大将、しめ鯖を一丁」

「へいお待ち」

「ノリが良いですね!! 感動しました! 海苔は鮮度がお命」

「で、どうしますか? 今帰れば自分共々怪しまれますよ」

「ふふ。秘密兵器、日の狐姉貴がいます」


 どこからか魔法使いの杖を出し、軽く振り回すと魔法陣が現れた。そして、赤と白の巫女服を着たケモノ耳の銀髪お姉さんが現れた。

 教頭先生は突如として現れたファンタジー世界に驚く一方で、喉に言葉を詰む。


「話は聴いていたぞ。わたしが狐になって、お前の母を尾行すればいいのだろう」

「たのんましたっ。姉御」

「おう!」


 今度は狐の姿に変身。日の飾りを揺らしながら、壁をすり抜け豪邸に入って行った。

 数分ほど経ち、日の狐は飛んで戻ってくる。そして、わざわざ人間の姿に戻す。


「えっと、非常に言いにくいんだが。あれだな、言葉を濁すと交際しているな」

「がーーーーーーーーーーーーーーーん」

「でも、それならなぜ元気がないのでしょう?」

「うむ。ホームズに言った『もう交際しない』が引っかかっているんだろうさ」

「ふむ」


 事の難しさにまたしても考え込んでいる様子。先生なりに考えたが、今結論を出すのは危うい気もした。

 一回三人で学校に戻る事にし、ホームズには授業へ出るよう促す。

 戻ったのち、今もなお校長不在の校長室に教頭先生と、成り行きでついてきた日の狐で話し合う。

 次元の違う存在といえど、ホームズを心配する気持ちは同じで、お互いに神妙な面持ちで長時間会議をした。

 気づけば意気投合した二人、教頭先生は自分の職務へ、日の狐はこっそりホームズの元へと戻った。

 あれから時間はそれなりに経ち、生徒達が下校する時間帯。ホームズは箒に跨るのではなくちょっとオシャレにも腰掛けて、どこが澄み切った表情で速度を出さずにゆっくりと飛行している。

 年に何回かあるかもしれない、代償が解けた数少ない一瞬である。


『なあホームズ』

「私のホームズはあだ名ですが」

『やりにくいな。その状態のお前と話すつもりはなかったが、母親が再婚するのどう思うか?』

「構いません」


 ただ、代償が解ける回数は年々増えているとも言える。今年のこの桜が舞う季節の時点で去年よりも多い。

 ホームズはよく名探偵を想像する人も少なからずいると思われるが、この幼女の正規名称は「|Homunculuesホムンクレス」であり、即ち人造人間なのだ。日の狐があの時ホームズに逃げろ! と指示したのも全員を倒してしまうほどの筋力があるからで、仮にやってしまえば更なる騒ぎになったのは紛れもない。

 また、海外からやってきたのも祖父の家で育ったのも記憶容量に書き込まれていたデータでしかなく、肉体は事実六年かけて生存したものであるものの、本来の人間で換算すれば測定は難しいだろう。

 お察しなお方もいるだろう。代償とはホームズを守る一つの制御装置でしかない。だが、この制御装置もいつか老朽化し、壊れる。その時彼女は本来の自分を取り戻すが、その時には悲しい現実がきっと襲う。

 段々と代償が効かなくなっているのも、故の原理なのだ。


「お母さんは一人の人間。夜の相手や寂しさを埋める相手ぐらい欲しいでしょう」

『やれやれ』



⭐︎⭐︎⭐︎



ほむらのように燃え盛る、ホームズの家の自家用車。中で苦しむあの時の大男が苦しんで助けを求める声がしている。近くには立ちすくんでいる母親。


「助け、呼んでちょうだい」

「断る。貴方が呼べば良かった話じゃないですか」

『とりあえず呼べよ。今この状況になった可能性もある』

「違う」

「ごめんね。気が動転してしばらく動けなかったの」


 仕方なく自宅の中へ入り固定の電話機の元へ、警察に事情を説明してから、各々でのその場の事情聴取が幕を開けた。

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