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第一わ 鼻歌道中、でんでんむかしばなし

「でーんでんむっかしむっかしそのむかしの型番18号ツムリ〜! スピアーホーン発射! ヘッドセット完了!!」


 よく分からない鼻歌を大声で歌っている、六才ほどの幼い女の子。大きなツバの魔女帽子をかぶりながら、その辺で引っこ抜いた雑草を振り回し、両脚を大きく前に出しながら歩く。小学校への登校中だ。

 その情景に道ゆく大人たちは幸せそうな笑顔を浮かべながら、少女を見守った。ただ一人の通行人を除いて。


「朝からうるせーな……」

「む」


 言われて途端に表情が凍りつく。揺らめいていた雑草もそれほど動かない。顔を見上げると、やや髭面で頭ボサボサの、服だけはきっちりスーツを着ている眼鏡の男性。年齢的には二十代前半だが、少女にとっては威圧感が凄かった。


「いたいけな幼女の鼻歌をじゃまするとはゆるせねーな! 勝負!」

「なんだ。噂の幼女ホームズとやらか。今日が入学式の日か。しかもうちの学校とはねえ」


 話を遮った上でボソボソと半目で気だるそうに、スマートフォンをいじり始める。

 操作に集中して三十秒、何も進展がない。やがて、やっと口を開く。


「ま、せいぜい良い大学でも入るんだな。じゃあな」

「変なおっさん」

「うるせ!」


 悪態をつき、小走りでそそくさと去り行く。

 めんどくさくなったホームズは箒に跨って浮遊し、思考を放棄しながら春風を浴びる。段々と生徒とその親御が増え始め、到着する頃にはそれらの人々で小学校の門が溢れ返っている。パンフレット配布や人の誘導する教師達はてんやわんや。

 最龍侍さいりゅうじ小学校でこれから、ホームズの学生生活が幕を開けた。

 入学式中、あまりにも大きい帽子が邪魔になったのでホームズは遅れてきた母親に自分の帽子を預け、指定された席へ。新しく入ってきた小学一年生のために、以降の六年生までの生徒が校歌を斉唱。

 ホームズは特に何も思わなかったのでぼーっと聞き流し、終えると生徒達は元の位置に一斉に座り込んだ。長い長い校長先生のお言葉を約四十分に渡って聞かされ、終始眠っていた。気づけば入学式は終わって、母親の膝の上で気持ちよくなっている。


「見学する時間終わっちゃったけど、ホームズならわかるよね」

「うん……? まかセロリ、味付けは宝箱のゴマだれ」

「帰ろう」

「かえる」


 ホームズも母親も長めの金髪をなびかせ帰宅の道へ。

 自宅はとてもとても大きな豪邸となっており、シンプルに言ったら金持ちだ。警備員も何名かいる。家庭環境的には、去年までホームズは外国の祖父の家で育ち、ある事情から母親のいる日本の元へと遥々やってきた。非常に頭が良いとされるホームズは既に二ヶ国の言語を習得し、日本の高校卒業までの勉学をほぼ覚えている。

 代償で、ほぼ精神的に成熟していない。まだ幼いから良いものの、ホームズのこれからの未来が思いやられる。

 子供の未来は、無限だったのだろうか。産まれ持った初期ステータスを抱え、見た目が設定され、誰の子供として育つかは選ぶ事は出来ない。無限だったのだろうか。

 それでも子供は生きていく。


⭐︎⭐︎⭐︎



 整えられたシーツの、ベッドの中で夜に定時で眠る。近くには母親が寝巻きで座り、時折ホームズの頭を撫でる。


「あなたは、何者にもならなくていい。生きてくれれば。それで」


 五分ほどでホームズは深い眠りにつき、そのまま母親も寝落ちする。母親が起きた頃には、ホームズはしっかり身なりを整えていた。魔女帽子も忘れずに。


「ああ、あらら。行ってくるかい」

「行ってくる!! 小説も持ってく! 狐と白龍はくりゅうの小説!」

「うんうん。気をつけてね」


 勢いよく飛び出していくホームズ、箒で空を飛ぶ。実は霊能者な側面もあるので、飛んでいる途中ある取り憑かれている霊と脳内会議を始めた。

 日の狐と称される、人形ひとがたのお姉さんが「おはよう!!」と勢いよく挨拶してきては、間髪入れず議題を出す。


『体育館が怪しいぞ! 行ってみな』

「やだ」

『お前しかいないだろう?』

「むー。しょうがないにゃあ。わんわん」


 ルートを少し変更し、小学校の体育館へ。朝礼前、こっそり入る何名かの男女生徒がいるのを発見した。

 着地したのち、気づかれないように完全に入ったのを確認してから、尾行する形でホームズも内部へ。すると、生徒達はやたら興奮し始めた。ホームズにはこの時、まだ分からない。

 しかしこの事を察知していた教師が押し入り、怒号を飛ばし始めた。位置的にホームズの存在だけ気づかれていなく、それ以外の生徒は恐怖におののく。

 言い訳をずっと繰り返している生徒と、それにどんどん怒りを募らせる中年の教師。しまいには暴力沙汰へと発展してしまった。六年生の男子生徒の額を壁に思いっきり打ちつけてしまう。怪我の代償も流れ落ちる。

 驚いて、つい物音を立ててしまうホームズ。教師は気づく。


『逃げろホームズ!! 箒使え!』

「わかった」


 咄嗟に飛んで逃げる。教師は追いかけようとしたが、逃げの速さにすぐ諦めた。


『次に職員室に行くんだ』

「なにそれ」

『ああ!! だからお前は! とにかく大人がいっぱいいる所だ』


 日の狐によってどうにかこうにか職員室へ。汗だくで怖がるホームズに他の教員達が集まる。ありのまま見た光景を話し、すぐに警察へと通報が行われた。

 少し時間が経ち、連絡を受けたホームズの母親も車を飛ばしてきて、すぐに安全を確認し抱きついてくる。


「よかった無事で!! ごめんね、ごめんね」

「本当に、なんというか。我々の不足によってお子さんを危険な目に。誠に、申し訳ありませんでした」


 校長共々、何度も深く頭を下げてきて謝罪は繰り返される。




 この事件は、翌日全国的に大きなニュースとなった。

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