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職場酒  作者: 留龍隆


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哀リッシュコーヒー



 今日も頭痛はもちろんのこととして、目が冴えない。


 起きた瞬間から疲れ目でかすむというか、あたまの疲れがひどい。度のあっていない眼鏡をずっとかけていたときのような、眼精疲労の極致みたいなつらさがある。


 あと眠たい。寝てないわけではないのに眠い。


 しょうがないのでカフェイン錠剤をドラッグストアで買ってきてとりあえず2錠をエナドリと一緒に叩き込んだところ、30分くらいで心臓がリズミカルになってとっても元気になってきたと錯覚した瞬間ぜんぶそのリズムが悪心のビートに変わった。吐くときの痙攣のリズムで体が震える。吐いた。


 さてこれで一旦眠気はなくなったものの、仕事を続けているうちに体調が復帰してくるかといえばそんなこともなく、あいかわらずおなかも痛いので食事は消化の良いやつを最低限だ。


 明日だ。明日の休みになったら本当に病院に行かなくては。


 でもとりあえず今日を乗り切る必要があるな……。


 同僚たちも山を乗り切った感じで、少し数が減っている。私のいるデスクの島にはほかにいない感じだ。


「……ちょいコーヒー買ってきま」


 上長もお局もいないので「いってら」と雑な男衆の声。


 私はコンビニでシュークリームと、「濃いめ」を選択したコーヒーを買って出てくる。胃腸があんまり受け付けないときにクリームとか甘いものってのも重たいしどうかなと思ったけど、ほかに食べられそうなものがなかった。というか食べたいものが、ない。


 とっとと眠気覚まして仕事しよ、と私は思う。今日はみんなが帰るタイミングで私も帰れそうなので、休日前最後ってことで軽く祝杯して上がる予定だ。


 鞄の中にはウイスキーの、角ばった瓶が入っている。今日のラストはこいつのハイボールで優勝して終わりだ。長い、長い連勤、何日目かもわからない日々におつかれさましたい。


 そんなことを考えつつデスクに戻り、私はコーヒーをすすった。シュークリームも開封する。かじる。


「……、」


 そこで止まる。


 水分の少ないシュー生地が、口の中にはりついて固まっていた。


 べろべろと、はがすようにしてなんとか喉奥に押し込むものの味がしない。正確にはクリーム由来の牛乳風味しか感じない。


 ぜんぜんおいしくない、どころかこれ以上食べるのがしんどかった。食べる寸前までは甘いクリームにわずかにときめいていたのに、もういまは手の中のこれがただただ重い。


 でもカロリーなしで乗り切れる気もしなかった。さてどうしよう……というところでコーヒーが目に入った。


 流し込んでしまえばいいのか。


 名案に思い、私は生地をやぶって中のクリームだけを、コーヒーのカップに落とした。ウインナコーヒーみたいになっていい感じだ。


 と、そこでオフィスに残っていた男衆がぞろぞろと出ていく。どうやらみんな昼を買いに行くらしい。


 ぽつねんと私だけが残った。


 コーヒーの湯気がうすれていく。


 あとには空腹だけど食べる気のしない私だけが。


 テンションの上がらない私だけが、残る。


「…………」


 いまなら、いいか。


 私はデスクの下の鞄から、ウイスキーの瓶を取り出した。キャップの内側にちょこっと、ショットグラス半分くらいの液を注ぐ。


 これをクリームの隙間から、コーヒーの液面に垂らす。ぱっとウイスキーの香りは消えて、コーヒーにまぎれた。よしよし。


 砂糖混ぜるためのマドラーでひと混ぜして、アイリッシュコーヒーもどきが完成した。


 さっきまでの、コーヒーに感じていた穏やかな親密さとはまるでちがう。ふいに出くわした美形への緊張じみた、躊躇に似るどきどきした気持ちが私を支配している。


 口をちかづけて、ひとくち。







「やっぱ蒸留酒だなぁ」


 コーヒーでうすまっていても、効き目の早さが段違いだった。


 芳しい焙煎された豆の香りの奥でアルコールに出会う。とうとうやってしまった、就業まっただなか真昼のオフィス酒というのも気分の高揚に一役買っているんだろうと思う。


 クリームの脂肪分の重たさもアルコールの刺激と辛みが緩和して、胃腸に下ろしてくれる。いや緩和というより麻痺か? まあいいや。


 とりあえず、煙草を吸いにいって喫煙所内の消臭スプレーで臭い消しをする。口にもマスクして臭いをおさえる。


 なんだかんだで胃を少し落ち着けることができた。テンションも上がったしほどよく気分がほぐれる。頭痛はまだすこしあるけど、耐えられる程度になった。


 やれる。がんばろう。


「おっ、なんかやる気出てんな」


「どーもー」


 昼飯買って戻ってきた同僚の男衆に軽く返すと、「女子はやっぱ甘いものブーストあんのかねえ」などと言われた。べつにそんなもんはない、どころか甘いものほとんど食べきれなかった私だ。


 コーヒーのカップのなかには、溶けてへばりついたクリームが残留している。アルコールの力を借りてもなお、結局飲み切るまでには至らなかった。


 でも多少なり胃がふくれた実感は、気休め程度でもいまの私には十分だった。パソコンに向かって、気力を絞る。


 作業に没頭して、時間が過ぎて。


 だんだんオフィス内に人が少なくなって。


 ようやくすべて片付いたのは、23時だった。


「おわったぁ」


 伸ばした背筋と腰のあたりでなんかばきばき聞こえた気がする。


 オフィスに鍵をかけ、私は表に出た。


 会社のビルを振り返れば、まだ他の部署には明かりがついている。


 そいつを肴に、私はタンブラーを取り出した。ちょちょっとウイスキーを注いで、そこに自販機で買った炭酸水を注ぐ。


「おつかれさまでした!」


 世界にかんぱい。


 ひとりできゅーっとハイボールあおった私は、そのまま夜の街に歩き出した。きらびやかな電飾や赤ちょうちんが私を誘っている。


 明日は休みだ。本当に、ひさしぶりのおやすみだ。


 起きたら病院いって、まあたぶん胃潰瘍だろうけど、なんか薬もらって。行けそうならはしごして整体いって。家帰ったらゆっくりお風呂つかって、体によさそうなものを食べよう。


 捨てられなかったゴミも出そう。


 溜まった空き缶は箱ごと酒屋に持っていこう。


 がんばれたらスーツもクリーニング出そう。


 まあでもその前にお酒だ。まずはこのお店で、流れのままメガハイボールを飲んだら次は熱燗でも頼

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