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職場酒  作者: 留龍隆


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ポン酒のポン


 ポン酒のポン。ポンコツのポン。


 ワンカップ片手にふとそう思った。なんの韻だ。


 場所は会社の横にある駐車場。時間は夜。22時半。


 今日も今日とて、結局泊まることになってしまいいよいよ二十連……二十一? 二十二だっけ? まあともかく連勤は伸びに伸びてる。


 でも上長もお局も明日から出張だとかですでに姿を消しており、同僚たちもちらほら帰り始めた。


 仕事が残っている(またミスしてた)私だけが残ることになって、だからもういいやとお酒を買いに出た次第。


 ところがコンビニの帰り道、近道だと思って駐車場を通り抜けようとしたのがまずかった。


 帰り始めた同僚たちが、なんか車の周りにたむろしている。


 一人はだらだらと車内でスマホをいじり、二人が缶コーヒー片手に駄弁っている。


 おい帰れ。


 なに学生みたいな気の抜き方してんの。


「出られないじゃん……」


 私は弱った。


 シートの陰(・・・・・)からこっそり様子をうかがうけど、やつらに帰る気配はない。


 そう、シートの後ろ……社用車の後部座席に、私は身を潜めていた。


 酒持って遭遇するのがさすがに嫌すぎて、とっさにこんなとこへ隠れてしまったのだった。


 たまたま昼に外回りの用があって、そのときに鍵を閉め忘れていたことが幸い(?)して、ここに入ったはいいものの。で、出るに出られない。どうしよ。


 いっそ忘れ物してここに入ってたふりでもするか? でも万が一ワンカップの存在バレたらまずいしなぁ。


 ああでもないこうでもないと考え込んでいると、手の熱が伝わってぬくもってきてしまったワンカップ瓶が、外からの街灯の光で輝く。


 ぴかぴかと輝く。


 輝いて、いる。


「…………」


 いやさすがにどうなんだ? とは私も思った。頭を良心がよぎった。けれどどーせ向こうも古ぼけた社用車に暗闇で目を凝らすなんてないだろうし、と思ったらもうフタが開いていた。


 狭くて窮屈なシートの隙間では、フタを開く動きで振るう肘が座面にドッ、と当たった。


 ちょっと車、揺れた? バレてない?


 心臓がばくばく鳴る。でも鼻先、それもこんな狭いところでアルコール臭に晒されて我慢できるわけもなかった。


 ちょび、と口をつける。こぼさないように水位を下げる程度に飲む。












「……ぅぁあ~。キく」


 喉も鼻も目も耳も、このお酒の瓶の一点に集中してた。


 べったりとした甘さとアルコールのキツさが鼻から喉へ喉から肺へ肺から脳へ、一直線で途切れることなく届いてる感じがした。


 回路が通った感じ? 小学校のころだっけ、交流とか直流とか。とにかくああいう感じ、豆電球が延髄のあたりでぽぅっと灯る感触。


 もうひとくち、もうひとくちとぬるい酒をコクンコクン嚥下する。


 飲むほどにしゃっきりしてきて、背筋が伸びる。整体にいったときに首ひっぱられてガクンと歪みが正される、あのときみたいだ。あーさいきん行けてないなぁ整体も……。


「もうだめになりそ」


 車のなかというのも忘れて、ぐびぐび。


 ひとくちごとに味はわからなくなっていくけど、おなかのなかに幸福のタネみたいなものが降り積もっていく。


 飲んで、飲んで。煙草……はさすがに社用車に臭いつくと良くない。ただだらだらと、飲んで。


 スマホ開いてSNSなんか見てたら時間はあっというまで、ふと顔上げたら同僚はだれもいなくなっていた。


 ばたんとドアを開けて出る。


 秋の夜風がすずしい。


「んん~、飲んだぁ~」


 おっと、換気換気。私はドアの両側開けて風通しをよくすると、またしばしスマホいじって過ごした。


 すると急に雨が降ってきた。おいおい勘弁してくださいよ。まだ秋口とはいえあんまり髪濡れるのはいただけない、私はあわてて室内に入ると給湯室にいってドライヤーをぶち回した。


 するとどこのバカが持ち込んだのか、炊飯器がセットしてありやがった。バツんと落ちるブレーカー、ぎゃあとあがる悲鳴(私)。


 夜中の補給飯、カップ麺じゃ足りないからか? どこの部署のやつか知らないけどめんどくさいことしてくれやがる。いらいらしながらコンセント引っこ抜いて、私はずんずんと来た道を戻った。


 それから守衛さんのとこにいって、車に鍵かけるべくちょっとキーを拝借。横通るときに一瞬、守衛さんがなにか感じ取ったような顔したけど、まあ気のせいだと思う。思いたい。


「おつとめごくろうさまでぇす」


 鍵を返して私はオフィスへ。喫煙所に寄ってニコチンチャージしてから、えへらえへらしつつ残りの仕事を片付ける。


 お酒が入っててかつ1人だと、なんだか効率がいい。サクサク進む。


 今日はミスしなかったぞエヘンと思いながら軽やかにオフィスを出て、また今日もたまたま通りがかった知らないバーに寄ってみた。


 私この辺で働いてるんですよとマスターに話すと「この前きいたよ」と返されてはてなが浮かんだ。けど、まあいいや。覚えてないのは、覚えてられないほど楽しかったかつまらなかったかどっちかだろう。私はジンリッキーを頼んで













 目が覚めた。


 日々低下している体力はもはや限界に近いらしく、頭痛によるご起床だ。


 何時? 7時か。体内時計だけは精確で、私は自分でもその点にだけは感謝する、とともにうんざりする。バーで何時まで飲んだっけ? 支払いちゃんとしたかな。


 朝ごはんに頭痛薬ざらざらと飲んで仕事にいく用意をする。うーん……頭痛、原因は歯ぎしりなのかな? 顎の付け根もひりひりする。


 マウスピースでもするべきかな。とりあえずタオルでも噛んで寝るか。うだうだ、考えながら会社へ向かう。


 今日は上長もお局もいないから平和そのもの。二日酔いでだるいので、午前中はゆっくり確認業務とかだけしてヤバそうな案件きたら様子見して息をひそめつつ午後に向かおう。


 なんてことを考えていたが、だんだんにお腹の調子が悪くなってきた。


 なんだろうこのキリキリした感じ。飲みすぎ? 胃潰瘍? まあでも病院、いけるとしたら連勤終わってからだ。結局今週のどこで休みになるのかわかんないけど……


 だましだましの時間が延々とつづき、次第にしんどくなってきた。頭痛もおさまらなくなってきて、私は給湯室に駆け込む。


 でもポケットに薬の入ったピルケースはもうなくて、しまったなぁと頭を掻く。


 今日一日、乗り切れるだろうか。


 こみあげる胃の中身をこらえてむかむかしながら、私は天井をあおいでしばらく固まっていた。




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