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14. 夜の神殿

 ライラが王宮に向かうと、ウォッチは時間通りに現れました。


「何かわかった?」


 挨拶も無しに本題に入ります。ウォッチは単刀直入な言動を好みます。ずっと側にいたので、ウォッチの性格はよく理解していました。

 ウォッチは懐中時計を確認すると「歩きながら話しましょう」と告げ、ライラの返事を待たずに歩き出しました。片足が義足のせいで「カッコッカッコッ」と独特の足音が響きます。

 ライラも並んで歩き出しました。


「ひとまず行政府に行きました。あなたの話の裏取りです」


 ウォッチは自分の眼で見たものしか信用しません。ライラから聞いたアモの情報がどれくらい正解なのか、それを自分で確認しに行ったのです。


「ロアの秘書官たちに話を聞きましたが、彼らもアモの正体は知らないようです。全裸で行政府をうろついて、ロアの執務室で寝泊まりしているようです」

「ロアと話はできた? しゃっくりしてなかった?」


 ウォッチがうなずきます。


「異常なしゃっくりと記憶の混乱がありました。魔術の影響に見えますね。ロアはアモのことを『真の国母』だと言っていました。どうもアンネリーゼ様と混同しているようです」


 ロアの様子は昨日と変わらないようです。


「アモはどうだった?」

「わたしのことを知っているようでした。『石頭の憲兵隊長が何のようじゃ?』と言われました」


 アモがふんぞり返ってそう言う姿が目に浮かぶようでした。

 ウォッチは言葉を続けます。


「わたしはアモに『不審者の調査に協力してください』と頼みました。すると『タダでは嫌じゃ』『わらわを楽しませろ』『芸をやれ』『踊ってみせろ』と言うのです」


 アモがわがままを言う姿を想像して、ライラはムカムカしました。昨日の屈辱は、まだ忘れていません。


「それから『わたしが調べている不審者とは、あなたのことだ』と伝えました。アモは服を脱ぎ捨てると、好きなだけ調べろと」

「それで?」

「もちろん服を着てもらいましたよ。神のごとく尊大で、獣のごとく奔放な女性ですね」


 ウォッチの話が終わりました。「カッコッカッコッ」と足跡だけが響いています。

 ライラには気になることがひとつありました。


「っていうか、踊ったの?」

「ご想像にお任せします」


 そう言われても、ライラには想像できませんでした。ウォッチは石頭の憲兵隊長で、片足は義足なのです。


「想像できない」

「ダンスは軍人の必須スキルなので、だいぶ練習しましたよ。意外でしょうが、実はダンスは得意なのです」

「その足で?」

「ええ、そうですよ。ダンスのコーチからは『もしもあなたが義足でなければ、空を駆けるように踊れただろう』と言われたこともあります」


 会話しながら歩いていると、進行方向に階段があらわれました。ここは聖堂の裏手、丘の上にある神殿へと向かう階段です。ウォッチが向かっていたのは神殿だったようです。


「無駄話はやめて本題に入りましょう。聞き込みによると、アモには日課があります。毎晩、この神殿で儀式をしているようなのです」


 そういえば、アモは魔術師だと言っていました。


「魔術の儀式?」

「おそらく。ロアがおかしくなった原因がわかるかもしれません。こっそり見学させてもらいましょう」


 ウォッチは片足で一段ずつ階段を登ります。その動きを見ていると、とてもダンスが踊れるとは思えません。ダンスが得意だというのはジョークだったのでしょうか。しかしウォッチが冗談を言うとも思えないのです。

 ライラはあえて何も言わず、ウォッチの後から階段を登りました。

 神殿の入口ではタイマツに火が灯され、真っ黒な夜の闇に白い大理石の柱が浮かび上がるようにに見えます。

 ふたりは神殿の内部へ入りました。中もロウソクに火がつけられています。壁面のレリーフに染み込むような深い影。金の祭具の鈍い輝き。夜の神殿は昼間とは違った雰囲気があります。「カッコッカッコッ」と足音を響かせながら、神殿の奥へと進みました。

 祭壇には真っ赤な布が敷かれ、すぐ近くに木箱が置かれています。箱の中にはバラとジャスミンの花、セージの葉、何種類かのキャンドル、鶏卵、赤いリボンが入っていました。


「血なまぐさい儀式じゃなくて良かった」


 ライラが胸をなでおろします。

 ウォッチは懐中時計をロウソクの火に近づけて時間を確認しました。


「そろそろです。そこの柱の裏に隠れましょう」


 ふたりは柱の裏に隠れると、近くに置かれた槍の位置を調整しました。ピカピカに磨かれた刃を鏡のようにして、間接的に儀式を見れるようにしたのです。

 そのまましばらく待っていると遠くから歌声が聞こえてきました。ベラムールの国民なら誰もが知っている古い聖歌のメロディーです。歌声は少しずつ大きくなり、あるとき急に反響するように大きくなりました。足音もバタバタと響いて聞こえます。歌の主が神殿の中に入ったようです。

 よく聞くと馴染みのある歌詞ではないのに気がつきました。メロディーも少しだけ違っています。デタラメに歌っているのかと思いましたが、古代の言葉だと気がつきました。この聖歌には、原曲とも言える古代語の歌詞があるのです。

 槍の刃にふたつの人影がうつりました。大きく広がった長い髪、アモです。歌いながらメロディーにあわせて身体を揺らしています。その後ろにつきしたがう長身はロアです。

 アモが祭壇の前に立ちました。


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