13. 仔竜ベラ
そして翌日。ライラは仔竜ベラの世話をして過ごしました。
ここで少し振り返って、ベラについて話をしてみましょう。竜という生き物。そしてライラたち怪盗団が仔竜ベラをどう育ててきたのかを。
ライラは田舎暮らしが長く、動物の世話は得意です。犬、猫、羊、牛、馬あたりは出産と子育てに立ち会ったことがあります。もちろん人間の赤ん坊にも慣れていますし、子供と遊ぶのも大好きです。それでも仔竜を世話するのは独特の難しさがありました。
産まれたばかりの仔竜は、人間の赤ちゃんに似ていました。たまに食事を与えたり、排泄の世話をしてやるだけでよく、むずがることもなく、ほとんど寝ていたのでとても簡単でした。
それが2日もすると、自分の足で走り回るようになりました。まるで仔犬のように、追いかけっこをしたり、噛みついたり、引っ掻いたり、狩りの練習のような遊びをするようになったのです。
ベラが起きているのは日中のみ、日が落ちたあとは寝てしまって、目覚めることはほとんどありません。食事はあまり必要とせず、一度寝てしまうと起きないのは楽ですが、かわりに起きている間は活発で、ずっと見ていないとすぐに問題を起こします。手近な物を玩具にして暴れたり、物を壊したり、目を離すと遠くに行ってしまったり、とにかく手がかかるようになりました。
硬いクチバシがあるせいで物を壊すのはイヌよりも得意で、鋭いツメでネコのように飛びかかってくることもあります。リクガメのように重くて固い身体をしていますが、動きは機敏でジャンプもします。上手く相手をしないとこちらが怪我をしそうになるくらいで、さすがは竜の子供という力強さです。
性格はマイペース。とても人懐っこいですが、孤独を嫌がります。いちど機嫌をそこねてしまうと治るには時間がかかり、高い声で泣き続けたり、物を壊したりするのです。
長命の竜なので、大人になるまで何百年とかかるような想像をしていましたが、成長速度はとても早いです。身体もどんどん大きくなりますが、知性の発達がめざましいのです。
昨日、ジュリアンからベラを預かったとき、こんな話になりました。
「犬猫みたいに遊んでやるより、もっと知的な遊びが好きみたいなんだ」
ジュリアンの話では、追いかけっこのような遊びよりも、言葉や数を教える方が喜ぶというのです。小石を両手に持って見せて「どちらが多い?」と答えさせる遊びを試してみたそうです。ジュリアンが右手に6個、左手に3個の石を握れば、ベラは右手をつつきます。右手から2個石を捨てたらどっちが多い? その石を左手に加えたら? そうやって条件を変えて当てっこしたら、とても喜んだというのです。
ライラが試してみると、ベラの反応は予想以上でした。数あてに成功したのはもちろんですが、簡単すぎるようですぐに飽きてしまったのです。
そこで他にもいくつか知的な遊びを試してみました。ベラが特に喜んだのはピアノの演奏、それから物語の読み聞かせでした。建国神話を朗読してあげると熱心に聞いてくれます。
「竜よ。愛しの竜よ」
魔法使いが竜に愛を囁く場面になると、ベラはコロコロと鼻を鳴らして、ライラの顔に頭をすりつけてきました。
「ベラ、意味がわかるの? 愛しの竜よ! 愛しい愛しい竜よ! フフフ」
ライラがそう言って撫でてやると、ベラはうっとりと目を細めて体重を預けてきます。魔法使いと竜の恋愛物語を理解しているかは謎ですが「愛しの竜よ」というセリフが自分を褒めているのはわかるようです。
日が落ちたころ、ジュリアンとカジがベラを受け取りにやってきました。明日はカジがベラを世話する順番ですが、ジュリアンと一緒に過ごすつもりのようです。
ベラが産まれたとき、怪盗団のメンバーで順番に子守をすることに決めましたが、そのルールはほとんど守られていません。ジュリアンとライラが交代で見ているような状態です。
ロアは忙しさを理由にジュリアンに任せきり。ブレッドは協力的ですが放任主義で、ベラが怒って暴れていても笑って見ているだけなのです。カジはがんばっていますが、なぜかベラに嫌われているようで、見ていて可哀想になります。
ベラはカジを見つけると「カー!」と吠えて威嚇しました。カジはジュリアンの背後に隠れて、恐る恐るベラを観察しています。
ライラはジュリアンに、今日のベラの様子を話して聞かせました。
「愛しい愛しい竜よ」
ジュリアンがそう言ってなでると、ベラはコロコロと鼻を鳴らして甘えます。
「本当だ! ベラは言葉がわかるんだ。なんて可愛いんだ。ベラ、ボクの愛しい竜。キミはボクの愛しい竜だよ。ベラ、愛してる」
ジュリアンは虹色の瞳をキラキラと輝かせながら、ベラを抱きあげて頬ずりしました。
そのまましばらくあやしていると、ベラはスヤスヤと寝息をたてはじめます。ベラは夕方から朝まではほとんど寝て過ごします。よほどのことがなければ起きません。
ベラを毛布に包んで、カバンの中にしまいました。こうやってジュリアンの宿まで運ぶのです。
「じゃあ、ベラをよろしくね」
「ねえライラ、良かったら一緒に食事でもしない? 今日は閉じこもってたんでしょ? 外の空気を吸ったほうが良いよ」
せっかくの誘いでしたが、ライラは首を横にふります。
「ごめんなさい。これからアモの調査の続きをするから」
「そうなんだ。じゃあ、つぎは明後日かな」
これからウォッチと会う約束をしていることは黙っていました。




