表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/143

12. アモ

 ロアはライラと一緒に行政府へと戻ると、有言実行、アモに別れを告げました。


「アモ、ここから出ていってくれ」

「なぜじゃ? 服なら着ておるぞ。おぬしが買ってくれた服じゃ。慣れたら悪くない」


 アモはエジプト風のワンピースを着ています。ベラムールのドレスと違ってゴテゴテとはしていませんが、不思議と高貴な印象があり、アモの独特な容姿にはよく似合っています。ライラの目にも高価なドレスだとわかりました。

 アモはライラを見て「アンネリーゼの姪っ子か」と苦々しく呟きます。


「そうだ。ボクの婚約者だ。わかったろ?」


 ロアが堂々と宣言すると、アモは小さくため息をつきました。


「そうじゃな。わらわは邪魔者なのじゃな。婚約者を優先するのは当然じゃ。わかったよ。出ていく」


 そう言って扉へ向かいます。勢いよく扉を開けました。

 しかし、出ていく素振りがありません。

 アモは立ち止まったまま繰り返し言いました。


「邪魔者は消える! 出ていくからな! もう来ないぞ!」


 ロアが名残惜しそうに手を伸ばします。ライラはイラッとしてその手をはたきました。


「さよなら!」


 ライラが別れの言葉を浴びせると、アモは「チッ」と舌打ちします。そしてもう一度「出ていくからな!」と叫んで、どこかに行ってしまいました。

 不思議な女性です。アモはおそらくライラたちより歳上です。なのに言動はやけに子供っぽいのです。


「ほら、約束は守ったよ」


 そう言ってロアが胸を張りますが、ライラの感想は「はあ?」でした。

 やっぱりロアが変です。いつものロアはこんな人じゃありません。アモに何かされたのだ。それで頭が変になっているのだ。ライラはそう確信しました。


「ねえロア、どうしたらもとにもどるの?」

「ボクはいつも通りだよ」

「じゃあ聞くけど、あのアモっていうのは何者なの?」


 ライラが質問すると、ロアは答えようとして「ヒック」としゃっくりをしました。


「言っただろ? アモは、ヒック、ボクの初恋の人、ヒック、なんだ」


 やっぱり変なままです。


「治す方法を見つけて、また来るから」

「うん。ボクは仕事に戻るよ」


 ライラは別れの挨拶をして執務室から出ました。

 すると廊下に出てすぐのところに、アモがいるではありませんか。膝を抱えて、床にしゃがんでいます。捨て猫のようで、少し哀れに見えました。


「ねえ、あなた何者なの?」


 ライラは直接聞くことにしました。アモがしゃがんでいる方へ近づきます。


「アモに近寄るな! その首輪は嫌いじゃ!」


 アモは床を這うようにしてライラから距離をとります。アモはライラを恐れているようです。

 ライラは気持ちが大きくなって、アモを追いかけました。


「逃げないで。話しをしましょう」


 ライラがアモの腕をつかみました。

 するとアモの腕がみるみるうちに変化して、肌は硬いウロコのようになり、手の指は倍の長さに伸び、鋭い爪が現れました。まるで鷹の足のような、恐ろしい腕です。


「アアア! アモに、アモに触れるな! アア! アアア!」


 アモの瞳から涙がこぼれました。

 まさか泣くなんて。ライラは驚いて手を離します。


「どうした?」


 騒ぎを聞きつけてロアが廊下に出てきました。


「ロア見て! アモは人間じゃない!」


 ライラがそう言いましたが、アモの手はすでに人間のものに戻っていました。


「アンネリーゼの姪っ子が! アモに! アモに…… アアア!」


 アモがボロボロと泣きながらロアに訴えます。

 ロアは冷たい目でライラを見ました。


「え、わたしが悪いの?」


 ライラがそう言いましたが、ロアは何も答えません。

 ロアは床で泣き崩れるアモに近寄ると、優しく肩を抱きました。ふたりは冷たい目でライラを見ています。


「わたしは悪くない。アモは人間じゃないんだから、騙されないで」


 もう一度、ライラはアモの身体に触れて正体を暴いてやろうと思いました。


「アアア! アモに触れるな!」


 アモが泣き叫びます。

 ロアはアモをかばって、咄嗟に手が出ました。ドンと突き飛ばされて、ライラが尻もちをつきます。


「痛った……」

「ごめん。でもライラが悪いよ。今日は帰ってくれないか」


 ロアはそう言うと、アモを抱えて執務室の扉を開けました。

 ふたりが執務室の中に消える瞬間、アモはライラに向かって「あっかんべー」をして笑います。


「あいつ!」


 ライラは悔しくて床を叩きました。

 それでも怒りはおさまりません。アモの正体を絶対に突きとめてやる。そう誓いました。

 そのためには手段は選んでいられません。

 そしてライラは、思いきった行動に出ました。

 ライラは行政府を出ると、馬を飛ばして憲兵隊の兵舎へ向かったのです。


「ウォッチに会わせて」


 ウォッチは憲兵隊長です。ベラムールで最高の調査力を持っています。ライラはウォッチにアモを調べさせるつもりでした。

 ズカズカと奥へと進みます。隊長室の扉をノックすると、返事を待たずに開けました。


「ライラ様? なんの騒ぎですか?」


 突然の来訪にウォッチが驚きます。

 そしてライラも、同じくらい驚きました。ウォッチの机の上には、盗賊カジー、虹眼族ジュリアン、それからブレッドの調書が広げられていました。ウォッチは地道に怪盗団を調べていたのです。しかも、ほとんど真実にたどりつこうとしています。このままでは怪盗団のピンチです。

 ライラは咄嗟の状況で一石二鳥のアイデアを閃きました。机の上の書類をまとめて、ゴミ箱に放り込んでしまったのです。


「この仕事は中止。わたしに協力しなさい。わたしの婚約者ロアの執務室に裸の女がいた。名前はアモ。それ以外はいっさい不明。人間じゃないかもしれない。魔法を使うみたいで、ロアは頭が変になってるみたいなの。このアモという女について調べてちょうだい」


 ウォッチを利用すれば、敵の調査を足止めしつつ、アモの正体を調べられる。そう考えたのです。


「婚約者の浮気調査ですか? 憲兵隊の仕事ではありませんが、まあいいでしょう。かわりに交換条件があります。ライラ様、あなたは首輪のせいで嘘がつけません。あなたを尋問すれば答えがわかるとしても、そういうやり方はフェアじゃないと、これまで遠慮してきました。どうです? そのアモという女性について、わたしが調べます。報酬として、あなたに質問させてください」


 ウォッチはそう言うと、ゴミ箱の中から書類を拾いました。憲兵隊は怪盗団の秘密を探っています。アモの正体を暴くかわりに、怪盗団のことを直接質問させろというのです。

 この交換条件は、かなり危険なものかもしれません。


「わかった。約束する」


 ライラがそう答えると、首輪が発光します。その手の中に約束のペンダントが現れました。


「これは約束のペンダント。わたしは嘘がつけない。約束も破れない。それを証明するアイテム」


 そう言ってウォッチの首にペンダントをかけました。ウォッチがうなずきます。

 ライラのやけっぱちの行動が、奇妙な同盟を成立させてしまいました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ