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9. 怪盗団の約束

「ちょっと待って! ボクは納得できない。ちゃんと説明してほしい。それに、たとえライラがカジを選んだとしても、怪盗計画から抜ける気はないよ。ベラと離れたくない。ライラが玉砕覚悟でやるっていうなら、ボクも一緒に行く」


 ジュリアンがそう言いました。


「わかった。ジュリアン、あなたには謝らないといけない。あなたに対する愛情は家族に向けるような感情だとはっきりと自覚した。それに、あなたの成長を素直に喜べない自分にも気づいてしまった。ずっと弟みたいでいて欲しいって思っていたの。歪んでるよね? ジュリアンはわたしと居ると精神的に成長できないと思う。それに、あなたがわたしに向ける愛情も、やっぱり姉を想うような感情だと思う。あなたとは結婚できない。ごめんなさい」


 ライラの言葉は、ジュリアンにとって耳に痛い内容でした。ライラにだけは弱味を見せられるというような、甘えた感情があるのを自覚していたからです。

 それでも、ここで認めてしまったらおしまいです。


「そんなことない! ボクはひとりの女性としてライラを愛してる」


 ジュリアンはそう言いましたが、少しの後ろめたさを感じていました。


「本当に? 自分を偽ってないって言える?」


 ライラにはジュリアンの気持ちがなんとなくわかってしまいます。


「偽ってない」

「本当に?」

「誓うよ」


 ライラとジュリアンの会話が平行線になったのを見て、カジが助け舟を出しました。


「提案なんだが、ひとまず怪盗計画を優先しないか? ライラが誰を選ぶかの結論は保留にしよう。計画が終わってから、もう一度おたがいの意思を確認したらどうだろう?」


 カジは自分の死を知っています。そのときライラを独りにしないほうが良いと考えていました。怪盗計画が終わるまで、カジを選ぶという結論を保留させようと思ったのです。


「わかった」


 ライラがカジの提案をすんなり受け入れたので、ジュリアンは内心ショックを受けました。


「オレも良いか?」


 そう言ってブレッドが立ち上がります。


「ライラ。オレを殴ってくれ」

「やだ。手が痛くなりそうだし」


 ライラが拒否しましたが、ブレッドは引き下がりません。


「いや、オレが悪かった。やり直すチャンスをくれ。もう酒は飲まねえ。悪かった」


 ライラは答えません。


「本当にすまない。やり直させてくれ」


 ブレッドは涙をこらえるような素振りを見せながら、真摯に謝罪しました。それと同時に、こっそりカジの足を踏みつけます。「ジュリアンに助け舟を出したのだから、オレのこともかばってくれ」という意味でした。


「いてッ」

「カジ? どうしたの?」

「ブレッドのバカがオレの足を、じゃなくて、その、つまり、心が痛むのだ。ブレッドも謝罪している。チャンスを与えてやってはどうだろう?」


 カジはブレッドが足を踏んだ意図を察すると、痛みをごまかしつつライラを説得しました。


「お酒くらいはべつに良いの。でも……」

「わかった、喧嘩のことだな? もう喧嘩はやらねえ。約束する。オレにもチャンスをくれ。その、おまえが好きなんだ。おまえが居ない生活なんか、考えられねえ。頼む!」


 ライラがしぶしぶうなずきました。

 残るはロアひとりです。全員の視線が集まります。


「ボクもライラをあきらめるつもりはない。計画も降りる気はないけど、なにも悪いことはしてないと思う」


 その言葉を聞いて、ジュリアンがため息をつきました。


「ロア。キミはベラムールで一番の智者と言われてるけど、本当はバカなんじゃない?」

「なにが?」

「アモっていう女のことだよ」

「べつに、アモはそういうのじゃないよ」


 ロアはきっぱり言い切りましたが、さっきから自分の顔を触っています。それは嘘をつくときの癖でした。

 ジュリアンが問いつめます。


「アモって女は裸だったって聞いたけど?」

「裸が好きらしい」

「アモって女に、洋服を買ってたろ?」

「買ったよ」

「なんで?」

「なんでって……」


 ロアは喋っている途中で「ヒッ」としゃっくりをしました。気を取り直して続きを話します。


「アモが裸だったからに決まってるだろ」


 ロアの様子が変です。

 会話を聞いていたブレッドが「ロアの野郎、大丈夫か?」とライラに耳打ちしました。

 その囁き声は、ロアに聞こえてしまったようです。


「ボクは大丈夫だよ。アモはアンネリーゼの知り合いで、しばらく預かることになった。異国の魔法使いなんだ。ちょっと変に見えるのはそのせいさ。絶対に大丈夫」

「アンネリーゼの知り合いの魔法使いって、なにも大丈夫じゃないよ。それヤバいんじゃないの?」


 ジュリアンにそう言われて、ロアは何かを喋ろうとしましたが「ヒッ」としゃっくりをして止まります。それからこう言いました。


「大丈夫、ヒック、アモとはずっと前から知り合いなんだよ、ヒック、絶対に大丈夫、ヒック」


 さっきは異国から来たと言っていたのに、今度はずっと前から知り合い。話が矛盾しています。それに「ヒックヒック」となんどもしゃっくりを繰り返しています。


「ロアがバカになっちまった」


 ブレッドがそう言いました。


「アモは魔法使いなんでしょ? なにかされたんじゃない?」

「ボクもそう思う」


 ライラの推理にジュリアンがうなずきます。


「失礼だな、ヒック、キミたち、ヒック、アモはボクの初恋の人なんだ、ヒック」


 ロアはしゃっくりを繰り返しています。


「そのアモさんのことは、まだ好きなの?」

「いいや。アモのことはべつに好きじゃない」


 おそらくロアは、アモから催眠術のようなものをかけられているのでしょう。なんとか離れさせたいですが、無理に「離れろ」と言っても拒否されるでしょう。催眠術とはそういうものです。

 ライラは少し考えて、ロアにこう言いました。


「ロアがまだわたしとの関係をあきらめないって言うなら、その初恋を清算してきて」

「わかった。約束する」


 ロアはにこやかにそう答えました。


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