8. 婚約発表
「最近は変身の調子が良いんだ。給水塔プランにしようよ」
「ジュリアン、あなたは前回も自信があると言ってましたよね? 抜け穴を探しましょう。存在するのは確実なんです。ノーリスクです」
「だから、どうやって見つけるんだよ? 下水道しかねえだろ」
「すまんがオレに任せてくれ。変装プランをアレンジすればアンネリーゼにひと泡ふかせてやれる」
ジュリアン、ロア、ブレッド、カジがそれぞれ発言しました。ライラはその話を黙って聞いていましたが、立ち上がるとパンパンと手を叩いて注目を集めます。
「議論はひとまずやめて、わたしの話を聞いて。四人を集めたのは、状況に変化があったからなの。今朝アンネリーゼから、満月の晩のダンスパーティーでロアと婚約を発表しろと言われた」
するとロアが「本当に?」と驚きます。まだ話が通っていなかったようです。
「じゃあロアとライラはパーティを抜けにくいってことか?」
「3人でやるしかないね」
「変装プランと下水道プランは人数が足りないんじゃない?」
さっそく代案の議論がはじまりましたが、ライラは首を横にふります。
「ごめんなさい。わたしは嘘がつけないから、ロアと婚約発表するのは危ないと思う。ロアと結婚したいと思っていないから、嘘をつくことになる。それにブレッド、ジュリアン、あなたたちとも結婚しない。だから怪盗団は解散する」
ライラの言葉に四人は驚いて、ポカンと口を開けました。ライラがさらに言葉を続けます。
「アンネリーゼが婚約発表をしろと言ってきたのは、怪盗計画に気がついたから、わたしを脅して従わせるつもりなんだと思う。逆に考えると、脅しをするっていうのは実力行使はしたくないってこと。だから、こっちが先に暴力に訴えてやる。わたしがひとりでベラを背負って、無理やり城門を通ってしまうことにした。ノヴァスを誘拐して、通さなければ殺すって言うの。これならみんな危険な目に合わずにすむでしょ?」
四人は全員「無謀だ」と思いました。しかしライラの思いつめた様子に、何も言えませんでした。
そしてライラはさらにデタラメなことを言い出します。
「城門を抜けて、首輪が外れたら、カジと一緒に遠くに逃げる。結婚するかはわからないけれど、わたしはカジを選ぶことにした。だから、ごめんなさい」
ライラが選んだのは、よりによってカジでした。ロア、ブレッド、ジュリアンの3人にとっては絶対に認められない話です。
しかし、真っ先に口を開いたのはカジでした。
「待て! ライラ! 考え直せ!」
「ううん。もう決めた。あなたと一緒に行く」
「それは、無理だ!」
「どうして?」
オレは死ぬからだ。どうせ死ぬのだ。この命をつかってライラを助ける。それを最後の仕事にする。それが忍びの生き様だ。
カジはそう思っていましたが、言うわけにはいきません。
「危険だからだ。ライラを守るのがオレの誓いだ。いいか? ベラを運び出すのはオレに任せろ。命にかえてもやり遂げる。おまえは誰かと幸せになれ」
カジの言葉を聞いて、ライラは立ち上がりました。カジの席の側へ行きます。カジもつられて立ち上がりました。
ふたりはしばらく見つめあいます。そしてライラは思い切り手を振りかぶって、カジをビンタしました。
「カジ! お願いだから自分の命を粗末にしないで!」
ライラは首輪のせいで、強い気持ちを我慢すると呼吸ができなくなります。こういうときに容赦ができないのです。
カジが何も答えないと、ライラはふたたび手を振りかぶって、今度はグーで殴りつけました。
「ぐえ」
「あの日、カジが死んだと聞かされて、わたしがどれだけ悲しんだか、あなたにわかる?」
ライラはさらに拳を振り上げると助走をつけて殴りかかります。カジは顔面をかばいましたが、ライラの拳は腹部へとめり込みました。
カジは倒れて地面を転がります。
ライラはその上に馬乗りになると、拳を振り上げました。
「わ、わかった! やめろ! やめてくれ! しない! しません! 命を粗末にしません! しません!」
その言葉を聞いて、やっとライラが止まりました。
「約束して。命を粗末しない。もう死んだりしないって」
カジは困りました。アンネリーゼの言葉によれば、自分はもう死んでいるのです。約束しても守ることができません。
「わかった。約束する。オレは死なない」
それでもカジは約束してしまいました。
ライラの両目からは、涙が溢れかけていました。それを見たら、約束せずにはいられなかったのです。




