7. 怪盗計画
館に四人の婚約者が集まりました。バルコニーに用意したテーブルを囲んで会議がはじまります。
ライラが円錐型の香に火を灯しました。香の煙が会話の声を閉じ込める、内緒話につかう魔法の香です。
「最初に計画の現状を確認させて」
怪盗計画のゴールは「仔竜ベラを城壁の外へ連れ出す」ことです。
王都には魔法のバリアがはられています。このバリアは人間や物の通行は妨げませんが、魔力に強く反発します。魔法攻撃から王都を守ると同時に、中から外へも強い魔力を通しません。竜ノ卵を持ち出すことを防いでいるのです。実験したわけではありませんが仔竜のベラも通れないでしょう。
「バリアが満月の夜に消えるっていうのは、本当に間違いない?」
「大丈夫です。さらにたしかな情報をつかみました。王国中の図書室を探しても、結界の弱点について書かれた本は見つからなかったという話をしましたよね。それもそのはず、ベラムールの貴族たちは王都の弱点を探ろうとはしないからです。では、ベラムールの弱点を研究しているのは誰か? そこで思い出したのです。フィンチという辺境伯が反乱を企てた事件を。案の定、彼の城には珍しい本がたくさんありましたよ」
ジュリアンの疑問にロアが答えました。ロアが掴んだ情報によると、満月の夜にバリアが消えるのは間違いなさそうです。
王宮では満月のたびに祈祷の儀式とダンスパーティが行われています。祈祷の儀式は消滅したバリアを復活させるため。そしてダンスパーティーも、バリアが消滅しているあいだ王宮の警備に人員を集めていた名残りです。長い年月で警備の意味が忘れられて、習慣的に開催されるダンスパーティになったようなのです。
満月の夜には、王都を囲む城壁の警備も厳重になります。満月の夜は明るいため、いつもより攻め込まれやすい。そう言われていますが、おかしな話です。おそらくバリアが消えるからでしょう。
「満月に警備を増やして、なにがおかしいんだ?」
ブレッドが疑問を口にします。
「危ないのは暗い夜に決まっておろう。警備を増やすなら新月だ」
カジの嘲るような言葉に、ブレッドはムスッとしました。
「計画の実行は満月の夜。これは決まりで良い?」
ライラの提案に四人がうなずきます。
残る問題は、王都をぐるりと囲む城壁をどうやってこえるかです。城壁の出入り口は四方にある城門のみ。そこでは通行証や荷物などのチェックがあります。しかも満月の夜は門は固く閉ざされ、いつもより厳重に警備されているのです。
「竜ノ卵が盗まれたこと、アンネリーゼは気づいていると思う?」
「アレから地下神殿には誰も降りてないんだろ? なら大丈夫じゃねえか?」
「おそらく気づいています。知らんぷりしているんですよ。そういう性格です。敵の油断を誘っているんです」
「オレもそう思う。アンネリーゼを甘くみない方が良い」
「わたしもバレていると思う。そのつもりで脱出計画を建てないと」
ジュリアン、ブレッド、ロア、カジ、ライラがそれぞれ発言しました。卵の盗難がバレているとすると、満月の夜の脱出も読まれていると考えるべきでしょう。
「使えそうな計画は4つあります。1つめはカジの声真似を使った変装プランです」
1つめはアンネリーゼに変装して、城門を抜ける計画です。もちろんカジの声真似だけで城門を突破できるとは思っていません。騙すのは新王ノヴァスです。ノヴァスはライラとブレッドに懐いています。さらにアンネリーゼの声真似をつかって、王都から出なければいけない急ぎの用事をでっちあげるのです。新王ノヴァスと宰相ロアが王族が使う馬車で現れ「急用だ」と言えば城門を守る兵士も開門するしかないでしょう。荷物を調べられる可能性も低いです。
完璧な計画に見えますが、アンネリーゼはこちらを警戒しています。その目を盗んで行動するのは難しいでしょう。
「2つめはジュリアンの変身をつかう給水塔の滑空プラン」
2つめは空から城壁をこえる計画です。王都には上水設備として給水塔があります。いったん水を汲み上げて、そこから各地に水を流すための設備です。その給水塔のてっぺんに登り、二人が向かい合って立ちます。布を広げてトランポリンを作り、モリフクロウに変身したジュリアンとベラを真上に放り投げるのです。給水塔の高さは城壁とほぼ同じ。投げ上げて高度をかせいで、滑空でのりこえます。
この計画の欠点は、ジュリアンの不安定な変身に頼ること、それから目立つことです。兵士に発見されて給水塔を囲まれたら逃場はありません。
「3つめは武力で強行突破する下水道プラン」
3つめは地下を抜ける計画です。下水道には鉄格子の水門があり、そのままでは抜けられません。地上の下水管理局から水門を開ける必要があります。もちろん警備の兵士はいますが、城門に比べれば少なく、増援も呼ばれにくいです。
欠点はバトルになることです。こちらの戦闘要員はブレッドとカジ。ふたりが危険なのはもちろんですが、警備の兵士を殺すことになるかもしれません。
「4つめは抜け穴プラン」
4つめも地下を通る計画です。密輸のために掘られた地下通路が王都のどこかにあるらしいので、そこから脱出します。
欠点は、その抜け穴の場所がわからないことです。ロアが探していますが、まだ発見できていません。
怪盗団の用意した計画はこの4つです。
それぞれに利点がありますが、欠点もあります。どの計画を採用するかは、まだ決まっていません。




