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1. 計画再始動

 これはわたしの母がそのまた母から聞いた不思議なお話。国宝の「竜ノ卵」を盗み出した怪盗団の物語です。


 国一番の智者「ロア」。

 剣の名手「ブレッド」。

 変身能力を持つ「ジュリアン」。

 忍術の達人「カジ」。

 そして嘘がつけない姫「ライラ」。


 ライラは嘘がつけない首輪のせいで、個性的な四人の男性と結婚の約束をしてしまいます。しかし、その四人と怪盗団を結成して、国宝の「竜ノ卵」を盗み出す計画をたてました。「国母アンネリーゼ」に反抗するためです。

 アンネリーゼは竜の力でベラムール王国を支配し、ライラに首輪をつけた張本人でした。竜ノ卵を盗み出せば、アンネリーゼは魔力を失います。ライラの首輪を外すことができるのです。


 怪盗計画には多くの困難が待ち受けていました。カジは自分の死を偽装することで、憲兵隊長ウォッチの執拗な追跡をかわしました。ジュリアンはアンネリーゼに捕まってしまいますが、禁断の変身で王宮を混乱させました。ブレッドはライラのピンチに駆けつけ、命がけで強敵と戦いました。ロアは絶体絶命の状況でも冷静さを失わず、逆転のアイデアを出しました。そしてライラは地下神殿に潜りこみ、竜ノ卵を盗み出しました。

 今のところ計画は順調です。地下神殿から竜ノ卵を奪うことができました。あとはこの卵を王都の結界の外へ持ち出すだけです。ライラと四人の婚約者が力を合わせれば、計画の成功は間違いないでしょう。


 ところが、ここで計画はストップしています。

 当初の予定では、王宮から卵を盗み出したら、すぐに城壁の外へと運ぶ予定でした。理由はライラの首輪です。卵の盗難が発覚すれば大きな騒ぎになります。そこで「卵はどこにあると思う?」というような会話になったとき、ライラは答えることができません。卵を盗み出したら、速やかに王都を脱出するべきなのです。

 それでもライラたちは、計画をストップさせるしかありませんでした。理由は王都にはられた魔法の結界にあります。王都をぐるりと囲む城壁、そこには魔法のバリアがはられ、卵を盗難から守っています。計画当初は「バリアを力ずくで突破する」という予定でしたが、どうやら想定よりも強力なバリアがあるようです。


「ノヴァスから直接聞いたから間違いねえよ。王都の結界は強力で、簡単には突破できない」


 ブレッドがそう言いました。玉砕覚悟で突撃するのは最後の手段でしょう。ライラたち怪盗団はバリアを突破する方法を探すことにしました。

 あとはライラは嘘がつけないことへの対策が必要です。


「竜ノ卵を割ってしまったらどうだ? 中から仔竜を取り出してしまうのだ」


 カジがそう言いました。国宝の竜ノ卵を壊してしまうなんて、東洋人ならではのデタラメな意見です。

 ところが、デタラメだからこそ価値のある意見でした。


「あのさ、真面目に考えてみない? もちろん卵を無理に割るのは反対だけど、自然に割ることはできるんじゃない? 卵を孵化させるのは面白いと思う。ベラムールの人間には絶対に思いつかないよ」


 ジュリアンがそう言いました。竜ノ卵の盗難が発覚したとして、ベラムールの人間は「盗人が卵を孵化させる」とは考えないでしょう。たとえばライラが卵の所在を聞かれたとしても、嘘をつかずにすみます。「卵が孵って仔竜になったんじゃない?」と真実を話しても、冗談を言っていると思うはずです。


「最新の学説では竜ノ卵は水が沸騰するくらいの温度で活性化すると言われています。ただし水没していてはダメです。それでも孵化に千年かかるものを十年に短縮する、くらいの効果しかないかもしれません」


 ロアがそう言いました。高温を保つことができれば、卵が孵化するかもしれない。全員の視線がパン焼きオーブンに集まりました。


「やってみましょう」


 ライラがそう言いました。

 それからまる一昼夜、オーブンで卵を温め続けました。中心に卵を置き、その横に水を入れたガラスの器を置きます。水の沸騰する温度は、パン屋のオーブンにとってはかなりの低温です。焚き付け用の小さな木材を燃やし続けながら、容器の水が沸騰するのを確認して、扉の開閉で室温を調整します。怪盗団のメンバーで交代しながら、オーブンの温度を一定に保ち続けました。

 夜がふけ、朝が訪れ、昼がゆっくりと過ぎ去り、ちょうど日が落ちたころ、卵に小さなヒビが入りました。

 宰相として多忙なロアはすでに帰宅しています。ブレッドは店を閉め続けるわけにもいかないので、知り合いの店にオーブンを借りに出ていました。交代で火を見守っていたカジは床に転がり寝息を立てています。

 ライラは両手にミトンをはめると、そっと卵を持ち上げました。卵のヒビから、まばゆい光が漏れ出しています。パキッと音がして、殻が割れました。光が溢れてきます。真夏の太陽のような強い光です。真っ白な視界の中で、卵の殻が崩れていくのを感じました。

 鋭角なクチバシ、丸い瞳、硬い肌、ヒレのような小さなツバサ。どことなくウミガメの赤ちゃんに似ています。


「産まれた……」

「産まれた……!」


 ライラとジュリアンは顔を見合わせました。その額には玉のような汗が輝いています。


「ライラ。仔竜に名前をつけよう」


 ジュリアンの提案にうなずきます。


「ベラ。あなたはベラ」


 ライラは仔竜にベラと名づけました。それは「真実」という意味の言葉でした。

 怪盗計画再始動です。新しい目的は「ベラをつれて王都から脱出」することです。そのためには敵の最終防衛線を突破しなければなりません。アンネリーゼとウォッチに計画がバレないように気を配りながら、魔法のバリアと城壁を抜ける方法を探さなければいけません。


 課題はまだあります。

 ライラには四人の婚約者がいます。彼らは頼もしい仲間ですが、ライラを巡るライバルでもあります。四人全員とは結婚できません。この怪盗計画がハッピーエンドを迎えるには、誰かひとりを選ばなければならないのです。


 知的で思いやりのあるロア。

 社交的で活発なブレッド。

 情熱的で感情豊かなジュリアン。

 自由な精神と深い愛情をもつカジ。

 

 ライラは彼らの中から、ひとりを選ぶことができるのでしょうか?

 そして無事に仔竜を運び出せるのでしょうか?


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